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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第五章 迷える羊は安息を望む編
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第75話 情熱の花

シュテルツェ門に差し掛かる橋を渡ってすぐ、御者は違和感に気が付いた。

ガタガタと揺れながら進んできた荷馬車が、突然滑るように進みだしたからだ。

門の前に敷き詰められたウロコ張りの石畳は、それだけでこの街の豊かさを示している。


そして通行の許可を受け、物見の塔に挟まれた重厚な門をくぐると、赤褐色の瓦屋根を乗せた石造りの建物が現れた。


この通りが平民街カッパーエリアの中心。

右手の門の向こうが貴族街ゴルドエリアらしい。


名前の由来は金貨がないとお話にならないゴルド地区(貴族街)と、銅銭でお腹いっぱい

カッパーストリート(平民通り)という意味らしい。

建物には商品を模した看板が下がっていて、あまり識字率が進んでいないようにも見えるが、店先に古鍋がそのまま下がっている荒物屋など、見ているだけでも楽しい。


この場所は長らく荒れ地で町自体は新しく作られたはずだが、建物に絡んだ蔦が不思議と時間の経過を伺わせた。


町の中心部に差し掛かったところで誘導され、荷馬車は建物の間に設けられた小さな門へと進んだ。

ギルド会館と思われる建物の裏手には広いロータリーと倉庫と馬留があり、その奥の丘陵には豊かな畑が広がっている。


丘陵の道はさすがに舗装はされていないものの良く整備され、馬留には領民が荷物を運んだと思われるロバや荷車まであった。


荷馬車から降りて丘陵を眺めていると同行者の叫び声が聞こえ、振り返ると奇妙な生き物に服を齧られていた。


「ラクダまで居るの?ここ…」

今日は市が立つ日なので、表通りからはにぎやかな声も聞こえる。


「じゃぁ、荷物は任せたわ」

いそいそと市に向かおうとすると

「会頭、ご領主に挨拶が先では?」とクギを刺された。


「大丈夫よぉ。それにあの子、じっとしているタイプじゃないんだからぁ」

会頭と呼ばれ振り返ったのは、割れアゴにおちょぼ口がセクシーな大柄な女性。

裾にフリルのついたドレス姿なので、さらに大きく見える。

それを聞いて村人が不思議そうに振り返った。


「ソフィア様の知り合いかい?今は食堂にいるから急いだ方がいいよ。もう始まっちまうから」

なにが始まるのかも解らないまま村人たちの後を追うと、役場とギルドの間から表通りに出られるらしい。


広場の中央にはシュバイネハクセを表す鷲とシュテルツェの象徴の獅子を連れた女神の噴水が出迎えてくれた。


町の中心である楕円形の広場は、官庁の反対側が商店街になっている。

ちょうど昼時という事もあり、食堂と思われる建物に人が集まっているのだが

なぜか人々は二手に分かれて立っていた。


「急げ!始まっちまう!」

訳もわからず村人についていき人波に加わると、そこで教会の鐘が鳴り、食堂のベランダにソフィアと寸胴鍋を抱えた二人のコックが現れた。


「只今より、南北対決を始めます!両者、前へ!」

呼びかけられたコックはシュバイネハクセとシュテルツェの旗の所に立つと、ドラムロールに合わせてベランダからロープのようなものを下ろし始めた。


「あれは…?」

「ソーセージです」

それは見れば解る。だが意味がわからない……


そしてドラムロールが止み、一階の入り口前にいた執事服の老人が拡声魔法で叫んだ。

「勝者!シュバイネハクセ!」

途端に広場は歓喜と悲痛な叫びに埋め尽くされた。


「………ねぇ…なんなの?」

「あれは両国の肉屋対決で、ご当地ソーセージの長さ比べをしているんだよ。

それで長い方を当てたヤツには炊き出しにソーセージがつくんだ」


「炊き出しなんてやってんの?」

「昼だけな。南北対決は日曜の恒例行事だから、金がなくてもコレだけの為に市に来るヤツもいるんだ。パン屋も売上競争してるぜ」


食堂の両脇にあるパン屋には

『岩より固いシュバイネハクセの黒パン』と『甘くてやわらかシュテルツェの白パン』と書かれた(のぼり)が立っていた。


「リリィー!ひさしぶり。来てくれてありがとー!」

「ママに聞いてたけど、あんたホントに領主やってたのね」

飛びついてきたソフィアの首には、あちこちに飾られたグラシ領の旗と同じ紋章のネックレスが下がっていた。


「ところで、アンタの旦那はどれ?嫉妬深そうなのが三人立ち上がって…」

そこまで言ったリリィは両手で口を押えて甲高い声を上げた。


「あ、あの子!なんて名前⁈」

「同級生のレオン・ヴェッティンだけ…」


「ヴェッティン⁈騎士伯家?まさかのロルフさま弟!!」

「…そういえばリリィってロルフ様のファンだったもんね」


「ソフィアァァ!」

濃ゆい顔を高揚させてリリィが振り返った。殺気だった目がギラギラしている。


「まさか、あの子が旦那とか言わないわよねぇ!」

「レオはただの…」

続きを言う前にヴィルヘルムとヨハンがそれぞれ「害獣!」「クソ虫!」と叫んだ。


それを聞いたリリィは舌なめずりをすると、スカートを翻しながらテーブルの間を駆け抜け、危険を察知したレオンも反射的に外に飛び出した。

そしてその後を、テーブルの下にいたヴォイテクが楽しそうに追っていった。


グラシ領に来てからヴォイテクは急に大きくなり、今もヴォイテクの動線上に居た人が椅子ごとひっくり返った。

いつもレオンと一緒にいたがるから、これからはテラス席で食べるように言わないと…


「……………ソフィア…あれは…」

ヴィルヘルムが少し怯えたように声をかけてきた。


「彼女は昔からお世話になっている行商人のリリィです。

月猫亭のおかみさんに言伝(ことづて)をしておいたのですが、帝都にない商品も取り寄せてくれるんですよ」


「彼女…?」

「そう、彼女はリリィ・ゴンザレス。西の国に拠点を置く、商会の会頭です」


「ゴンザレス…確か二代前に西から流れてきた商家だな。

嫡男のグレゴール・ゴンザレスは発狂して死んだことになっているが…」


考え込むような表情をしたヨハンだったが、泣き叫ぶレオンの悲鳴を聞いて心底イヤな顔をした。


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