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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第五章 迷える羊は安息を望む編
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第72話 同族嫌悪

「何でソフィが居ねぇんだよ!」

「平日だからな」

朝からシュバイネハクセ門の前で、ヴォイテクと並んで土下座をしてまで取り次いでもらったのに、出てきたのはゲオルグだった。


「緊急事態なんだよ。お前、転移魔法でソフィを連れてきてくれよ」

「ソフィア様の座標が予定外の動きをすれば、厄介事が起きるのは容易く想像できるだろう?」


「アイツまだ監視してるのかよ!」

「しっかり稼いでくれるならソレでいい…とソフィア様が許可を出してしまったからな。アレの稼ぎは人件費確保の為に必要なのだ」

ヴォイテクが足に噛みついても、ゲオルグは眉一つ動かさない。


「じゃぁ、グラシ領で精鋭を集められないか?」

「今日は平日だから、即戦力はフェルナンドくらいしか居ないぞ」

「誰だよ、ソイツ!」


「お前に色々あったようにグラシ領も日々変化しているのだ。とりあえず連絡を

取るから待っていろ」

「ソフィにか⁈」


するとゲオルグは足を高く蹴り上げ、口を離したヴォイテクがボールのように空を舞った。そしてレオンがキャッチするのを見届けると

「お前を追い出した張本人だ。死ぬ気で詫びを入れるんだな」と言い残し

門は閉じられた。



ポータルから現れたヴィルヘルムが最初に見たのは、シュバイネハクセ門の前で

クマと並んで大の字で眠るレオンだった。

一晩中走って来た事を考えると仕方がないのだが、門兵の真ん前で肉を焼き、昼寝をする肝の太さに今更ながら辟易とする。

そして気配に気づいたのか、クマと一緒にのっそり起き上がった。


「…………………………はぁ…」

「なにか言えよ!」

レオンは憤ったが、できれば二度と顔を見たくなかった。というかロルフ弟のままでいてほしかった。


しかしレオンも同じ思いだった。

子供の頃からいつも兄の隣にいたコイツは、もう一人の壁だった。

そして兄と同様に様変わりし、憧れは嫌悪感に、そして敵意に変わった。

なのになんでコイツに頼らないといけないんだ。

レオンはやり場のない憤りの中にいた。


「ゲオルグから聞いた。案内しろ」

「詳細はいいのかよ」


「ハワードベルクの討伐依頼を受けたが尻尾を巻いて逃げ出して、依頼者家族が

危険なんだろ?代わりに討伐するにしろ、依頼者に聞くのが一番早い」


相変わらず高圧的なヴィルヘルムにレオンの機嫌が悪くなる。

しかも本人が気づいていないから尚更タチが悪い。

ヴォイテクですら不穏な空気を感じて唸っているというのに…


「失礼ながら、クソ隊長殿」

「失礼だぞ、ゲオルグ」

「隊長みずからが交渉に当たられると…」

「お前には俺が留守の間に任せたい仕事が…」


「自分はソフィア様の部下ですので、サビ(ざん)してください」

「チッ…」


「それにクソ隊長殿ほど、交渉に不向きな方はおりません」

「貴様、随分言うようになったな」


「ちなみにパワハラ発言はすべて録音するようにと言われております」

「………まさかソフィアにか?」

「ヨハン殿にです」

「俺、アイツも嫌い!」ヴィルヘルムとレオンがハモった。



喧嘩しながら走る奇妙な三人と一匹は、沢沿いを進んでいた。


「お前が転移魔法を使えれば、すぐに着くのに…」

「…転移魔法なんて…使えるの…国内に十人…いないだろ…」

「グラシ領に集まりすぎなんですよね…魔力量の多い人間が」


「でもアレだろ?駆除対象」

三人の背後からは、行きと同様に真っ赤な目をしたブラッディベアが追いかけてくる。


「対象は…傷のある…デカいヤツ…でも…引き連れて…いいのか」

「あんなのが町の近くにいる方が問題だ」


ここに来るまでに肉は焼いて三人で食べてしまい身軽なのだが、息が切れかけているレオンに対して残りのふたりは平然としている。

心強いがどうにもならない苛立ちが、レオンの中に募っていた。


唯一の慰めは肩車をしているヴォイテクが、レオンの代わりに唸ってくれるくらいだった。


「アレだ、依頼者の家」

「では行ってきます!」

そう言うとゲオルグは更に速度を上げ、ヴィルヘルムはクルリと体を反転させた。


そして拳にまとった水球を撃ちだすと、渦潮のように広がった水は複数のクマをのみ込んだ。


水の中で苦しむクマを見て「悪趣味だ」とレオンは呟いた。

嫌味のつもりで言っているのに

「クマは捨てる所がないと肉屋が言っていた」と人の話を聞いていないのかと疑いたくなるような返答が返ってきた。


「無駄なく利用しなくては命に失礼だろ?」

「大量殺人鬼がそれを言うのかよ!」


「やらなきゃいけないから、やるんだよ。戦う意味なんて、そんなもんだ」

自分の悩みなど小さな事だと言われた気がして、妙に腹が立った。


「じゃぁ、戦いがなくなったら傭兵はどうなるんだよ」

「生き方の選択肢が増えるだけだろ?」

「はぁっ?」


「仮に、こう生きろと言われてお前はその通りにするのか?

貴族にはそういうヤツも多いから否定はしないがオススメはしない。

自分で選ばなかったヤツほど、こうすれば良かったと恨み言を吐いて死んでいくんだ。俺が見た限りだがな」


言われた意味がよく解らないまま立ち尽くしていると、ヴォイテクが顔を覗き込んできた。


そしてヴォイテクの方に向けた視線の端で、ヴィルヘルムの手が伸びてきた。

急に左腕を引っ張られ、肩から落ちかけたヴォイテクを右手で捕まえる。


「お前…っつ…」

ヴィルヘルムはレオンのベルトを掴むと風魔法で急上昇した。

腰を掴まれ、吊り下げられた状態で下を見ると、さっきまで立っていた所にクマが投げ落とされていた。上から落ちてきたという事は投げ落としたヤツはひとりしかいない。


「お前…狙われてんじゃね?」

「否定は出来んな」

狙われたのに何で笑ってんだ?コイツ…


「怪我をしているなら、向こうを任せるべきだったな」

そう言ってヴィルヘルムは、ビーネン家に向かって円盤投げのようにレオンを投げつけた。


「うぉぉぉぉぉい!!」

叫びながら木に突っ込み、枝を叩き折りながら着地すると、さっそく上空を睨みつける。

「テメェ…」

声を上げかけて、険悪なオーラに息が詰まり、ヴォイテクも胸にしがみついてきた。



「そちらにいらっしゃいましたか、クソ隊長殿。河原をお願い出来ますか?」

「貴様の上にクマを降らせてやってもいいのだぞ」

「禍々しい魔力は交渉の邪魔になりますので引っ込めてください」


赤い目をしていた数頭のブラッディベアが、戦意を喪失して黒目に戻った。

クマでさえ引き気味なのに二人とも魔王のようなオーラを吐き出しながら普通に

会話をしている。そして後ずさりするイノシシ…


「お前らバック出来たの⁈」


レオンは出鼻を挫かれた形でビーネン家へと急ぎ、ドアを叩いた。

「ビーネンさん、無事ですか⁈」少し間があり、物音がするとドアが開いた。


「勇者レオン、よくぞ戻られた!」

ドアの内側には、バリケード代わりの家具が置かれていた。

こんな状況で戻ってきたら、確かに勇者扱いをしたくもなるだろう。


「討伐隊が間に合うとは思いませんでしたぞ」

「…実は麓の町は動いてくれなくて、グラシ領を頼ったんだ」


「グラシ領は戦乱でご当主が亡くなってから荒れ地のままだと聞いておりますぞ?」

「領主の孫娘が跡を継いで夏くらいから手を入れてるんだ。ギルドで聞かなかったのか?」


「ギルドに討伐依頼を出したのは、子連れのクマが急増した春ですので…」

「春から依頼を出していて、誰も受けてくれなかったのか⁈」


「ですから、あなたが来てくれて嬉しかったのですぞ」

こんな状況なのに家族はみんな笑顔だった。

ヴォイテクもキョロキョロしながら楽しそうだ。


「戦火を逃れてここまで来ましたが、もはや家を捨てるしか…」

「いや、捨てる必要はない」



その時、地震のように家が揺れ、棚から物が落ちてきた。

全員が這うように集まったが、揺れはすぐに止まった。


そして外に出たレオンは信じられないモノを見た。

山のヌシのような大イノシシが逆さになって河原に落ちていたのだ。


「貴様…なんてモノを投げるんだ」

「民家への影響を考えると、河原で倒すのが得策かと思いまして」

ふたりは拡声魔法で話しながらクマと素手で殴り合っていた。


そして討伐対象のバケモノは

ジャーマンスープレックスで沈められたとしか思えないポーズで河原でノビていた。



「よかったら、家ごとグラシ領に引っ越してこないか?

バケモノグマに怯える事もない……かわりに…バケモノ魔術師がいるけど…」


提案する声のボリュームが徐々に小さくなっていったのは、この後の展開に不安を覚えたからだ。


河原でクマにドロップキックをかましていたヴィルヘルムの上に、ブレーンバスターでぶん投げられたクマが落ちていった。


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