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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第五章 迷える羊は安息を望む編
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第71話 狂喜乱舞のディナーパーティ

ヴォイテクと名付けられた子熊は、首に熊鈴をつけて森を駆け回り、揶揄うようにイノシシの前を横切った。

そして煽られるままにヴォイテクを追いかけたイノシシは、いつの間にかレオンに

追われ、罠に落とされお肉になり、レオンとヴォイテクは約束通り食べ放題を楽しんだ。


痩せ犬のようだったヴォイテクも丸々としてきて、ぬいぐるみ感が増してきた。

ハワードベルクに入り、早数週間。イノシシを落とすのも慣れたものである。


罠に落とす都合上、追われた野生動物はビーネンさんの家の周りに集まるようになり、イノシシは捕獲できたが、危険も増していた。


そしてついにバケモノと遭遇したのである。



二本足で立ち上がったソイツは、ゆうに三メートルを超えている。

見上げるほどの高さから真っ赤な目でレオンを見下ろすと、辺りの物をすべて吹き飛ばす勢いで咆哮をあげた。

それだけで全身がビリビリと総毛立ち、ヴォイテクは尻もちをついてしまった。


『このサイズじゃ、下手をするとビーネンさんの堀をよじ登ってこないか?』

だからこそ討伐対象にされたのだが、聞くと見るとでは印象がまるで違った。

ビーネンさんが賢老と呼ぶそのクマは、口の端を引き上げて笑ったように見えた。


レオンは前回と同じように風魔法で空に駆け上がると、弾丸の勢いで死角から化け物のうなじを突いた。

だが刃は通ることなく震えると、中央の辺りから折れてしまった。


金属が折れる高い音が耳鳴りのように響き、回転しながら飛んでいく刃先を信じられずに目で追ったが、次の瞬間地面に叩きつけられた。


子犬のような声で威嚇するヴォイテクの傍まで飛びのき、体を起こしたが、

左腕がダラリと重い。

ヴォイテクはレオンを背負うように前に出たが、ヤツは平然と歩みを進め、一歩進むだけで恐ろしく距離が縮まった。


こうなると考えるより本能だ。

レオンは背中に大剣を収めると、ヴォイテクを担ぎ上げてビーネンさんの家に走った。


橋をかける暇などなく、勢いのまま堀を跳び越すと、同じように飛ぼうとした

バケモノに全力で風魔法をぶつけた。風の刃は顔面を直撃し、クマは地面が震えるほどの咆哮をあげた。


「上着を脱ぐのですぞ!」

ビーネンさんの言葉にハッとすると、すでにハチに囲まれていた。

慌ててジャージを脱ぎヴォイテクにかぶせたが、ハチも興奮していてビーネンさんに煙を浴びせられるまでに数か所刺されてしまった。




這う這う(ほうほう)(てい)で逃げ込んだが、あの時バケモノもハチに襲われていて、森に逃げたそうだ。だがおそらくは近くに居るだろう。


ビーネンさんは「このまま冬を待てばヤツも冬眠するでしょうぞ」と言っていたが、一家だけならともかく、レオンの食欲を考えると籠城は出来ない。


そして元々人懐っこいレオンは、すっかりビーネンさん一家とも馴染んで、お互いに絆されていたのである。


ここからクマを引きはがさないと一家が危ない。

そのためにレオンは囮になる事を決めた。



とりあえずガッツリ肉を腹に収めたレオンは、大量の生肉と折れた大剣を背負い、ヴォイテクを頭に乗せてビーネン家を出発した。


本当はヴォイテクは置いていくつもりだったのだが、暴れて噛みついてハチミツを勝手に食べたので追い出されたのである。


肩は幸い脱臼していただけだったので、自力で戻し固定した。

「せめて腕が治るまで療養されては…」と言われたが、あのバケモノが悠長に待ってくれるとは思えなかった。


向かうのは沢を下った山裾の町。そこで肉を売ってギルドに討伐隊を編成してもらい、予算が許せば新しい剣を買う。

だがその前に、肉のにおいを嗅ぎつけた討伐対象を出来るだけビーネン家から遠ざけたい。


空は既に暮れかけ、野生動物が最も活発になる時間。

そこを大量の生肉背負って走るのだ。狂喜乱舞のディナーパーティの始まりである。


そしてクマは走って逃げるものを追う習性がある。その速度は50~60キロ。

つまり…

「馬より速く走れば問題はない!」


そう言い聞かせたレオンは、大量の危険生物を引き連れて河原を疾走した。

山を下りてきた獣が列に加わり、数を増やし、まさに津波の勢いで迫ってくる。


そして案の定先頭は、顔から血を流すバケモノ熊。

コイツを家から離さなければいけない。


つまり風魔法を使わず、距離を保ちつつ、逃げきらなければならない!


「お前ら全員、食ってやるからなぁ!!」

レオンの精一杯の負け惜しみだった。




十分クマ達を引きつけて駆け抜けたレオンだったが、町に着くと早速問題に直面した。

「子供とはいえクマだろう?町に入れる訳にはいかないよ」

まさかの門前払いである。


「だったら、ちょっとの間でいいから預かって…」

「そうは言ってもクマの方が離れたがらないじゃないか」

ヴォイテクはレオンの足にしがみつき、イヤイヤと首を振っている。


「それに…勇者がクマと修行したって伝説がある死にたがりの山(ハワードベルク)だろ?

命知らずしか行かないような場所だし、すぐに人が集まるかどうか

…冬まで待てばクマは冬眠するんじゃないか?」


「だから冬ごもりの食料にされそうな人たちが居るんですよ!」


「焦る気持ちも解らなくはないが、なにせ夜中だ。

上役の許可も取れないし、その子熊を置いてこない限り、入場を許可出来ないんだよ。朝になったらギルドに連絡しておくからさ」


この感じでは助けは見込めない。助けてくれる当て……


門番にギルドへの連絡を再度お願いすると、レオンは沢に続く道ではなく山道を駆け出した。

助けてもらえる当ては、グラシ領しかなかった。


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