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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第一章 捜し人編
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第7話 護衛≦重要参考人

「おかみさーん。起きてますかー?」

月猫亭の入り口をノックするが返答がない。


今日の夕方、治療の為に酒場に行くと伝えたら、ヴィル様が同行してくれる事になった。わざわざ登城を送らせてくれたけど、やっぱり朝は会えないか…


「まだ休まれているようですね。夜遅くまで営業していますから…」

「だが遅い時間だと客が来るだろう」

「普段は裏口から声をかけるので、お店側からは見えないんです」


とはいえ流石に貴族様をゴミ箱だらけの路地にお通しする訳にもいかないし、

埃っぽいところは症状を悪化させかねない。


遠くで男性の大きな笑い声が聞こえる。

酒場の人達は顔見知りだけど私の世界は路地裏までだ。

だから通りを歩く人の気配を感じるだけで、逃げ出したくなるほど気持ちが落ち着かない。夜に比べたら人通りはずっと少ないのに…


フードで顔を隠して手を組んでいると、ヴィル様の大きな手が肩に置かれた。

肩からぬくもりが伝わり、温かく包まれていく気がする。


ギュッと縮まる心臓を意識しないように、強く手を握る。

すると奥から返事が聞こえた。



「早い時間からスミマセン」

「何かあったのかい?」

そう言いながら、おかみさんの目は真っ直ぐヴィル様に向かう。


「…お兄さん。この間、脱ぎ散らかしてった服なら取りおいてあるよ…」

「それには感謝する。だが俺はソフィの治療について来ただけだ。

騎士団の男に付き纏われていると聞いたのでな」


「この子は店に出してない。買うなら他の娘にしてくれ」

「おかみさん、こちらの方もテオのような皮膚かぶれがあって薬をお渡しているんです。子供の頃からお困りらしくて、治療すれば治るって知ってほしくて同行してもらったんです」

おかみさんは怪訝な顔でこちらを見た。


「ソフィア、あんたこの兄さんが何者か知ってるのかい?」

「名前とお城で働いている事しか知りません」


「……とりあえず中に入りな。戸口じゃ目立っちまう」



いつも賑やかな店内には当然誰もおらず、知らない所に見える。

「お店側は随分久しぶりだわ。以前は厨房を手伝っていたんです」

「それなのに目をつけられたのか?」

「時々、兄さんみたいな目ざとい男がいるんだよ」

ヴィル様のご厚意にも、親代わりのおかみさんは『ご常連さん』と同じ扱いだ。


騎士様でも貴族様でも態度を変えないおかみさんだからこそ、ここでは女性が

安心して働けるんだけどね。

そして、ソレが出来るのも騎士様の行きつけの店であるからで、なんとも皮肉な話である。



「テオは起きていますか?」

「あぁ、明け方にグズって不機嫌なままだから風呂に入れてやってくれないか?

眠れば機嫌も良くなるだろう」

「じゃあ、甕にも水を溜めておきますね」


ヴィル様に声をかけようとしたら、おかみさんに椅子を勧められていた。

お風呂で綺麗にしたらテオを紹介しよう。



「さて公爵様、こんな朝からあの娘の肩抱いてここに来た理由を教えてもらいましょうか?」

女将は迫力のある顔で聞いてきた。


「夕方に酒場に行くと言ったのでな。朝なら騎士団と顔を合わせずに済むと思ったまでだ」

「どこでお知り合いに?二階の窓突き破って娼婦(ウチの娘)から逃げ出した公爵様」

「その晩、川辺で体調を崩していて助けられた。修理代は支払う」


「あの娘はまだ子供だよ。死んだ母親からも頼まれてるんだ。魔術師になんて

やれる訳がない」

戦争で魔術師の評判はよろしくない。

脅しの為とはいえ敵国の主要都市を()()更地にしたからだ。


「俺なら不埒者から守れるぞ。逃げる事しか出来なかったようだし、(くだん)の男が

隠れ家を見つけるのも時間の問題だった。残念ながら消し炭にする前に保護されたようだがな」


「捕まったんなら保護する必要は…」

「ヤツの同僚もおもしろがって捜査に加わっていた。奴等はハンティング気分なんだ」


「公爵家に連れて行く気かい?」

「彼女は俺の正体を知らない。素朴な暮らしがしたいのなら邪魔するつもりはない」

「小綺麗な服を着せて肩抱いて、それを言うのかい」

「………」


「アタシから見たら、公爵様もあの娘に執着する騎士団の男と同じだよ」

言い返そうとしたら二階のドアが開く音がしてソフィアが降りてきた。



「ヴィル様、この子がテオです。まだ肘と膝裏に湿疹がありますけど、こんなに

綺麗になったんです」

見ると湯上がりの幼子がタオルに包まれて、ソフィアの柔らかそうな胸に甘えていた。


「ヴィル様もすぐ綺麗になりますからね」

ソフィアは「服を着せてきます」とすぐ二階に戻って行った。



「あの子供は?」

「こういう店だからね、娘達も気にしているが時々デキちまう」

「ソフィもここで産まれたのではないか?」


「まぁ、ここにいた娘の子なのは確かだ。だけどね…」

そう言って女将はギロリとこちらを振り向けた。


「あの子にそんな顔を向けるなら、やっぱりあんたも執着男と同じだ!」

「そんな顔とはどんな顔だ!」酷く不快な気分になった。




おかみさんから食品を分けてもらい荷物をまとめていると、ポケットに何かが押し込まれた。


「えっ?これは…」 

「とりあえず返すが、あの兄さんには見せるんじゃないよ」


そしておかみさんは耳元で

「あんたの両親から預かった物だ」と言った。


驚いて顔を上げると

「いつかあなたを助けてくれる。お前の母親からの言伝(ことづて)だ」そう言ってポケットを叩いた。


「それと『隊長さん』が嗅ぎまわってる。兄さんと知り合いみたいだから、

ボロ出すんじゃないよ」

「隊長さんって、もしかして…」


「あぁ、娼館(うち)の娘たちが骨抜きにされてる太客だ。兄さん共々サイフにする気なら

止めないが、惚れんじゃないよ」

「あー……解りました」

先日の軽薄なマッチョを思い出し、そうか『あの男(ロルフ)』かと納得がいった。




帰宅後、ポータルから登城するヴィル様をお見送りし、ポケットを探ると

それぞれ違う紋章の入ったピンとカフスとネックレスが布の中から出てきた。


以前、隊長さんに『両親は貴族ではなかったか?』と聞かれたが…

「まさか…ね」

だって、それならなぜ隠れ住んでいたのだろう。隠れる理由…


そんなものは、この目以外には無いではないか…

私は優しかった両親すら不幸にしてしまっていた。


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