第67話 何度生まれ変わろうとも
ヴィル様がシュテルツェから戻った翌週、私はセノーテに連れて行かれた。
やたらと時間を気にしていると思ったら、ハートから降り注ぐ光が
ちょうど桟橋の先端を照らしており、そこには常識では考えられないほど大きな
バラの花束…いや、バラのステージが……
「…………ソフィ?」
思わず両手で顔を覆ってしまった。
『もしかしなくても、あのバラの位置に立たされるのよね…』
予想はしていた。期待しすぎると違ったときに立ち直れなくなるから、むしろ考えないようにしていた。
でもあまりに作り込まれちゃうと、なんか居た堪れなくなるじゃん…
しかしサプライズの仕掛け人であるヴィル様までモジモジしている。
彼の中で私は感動にむせび泣いているように見えているのだろう。
このためにハートの穴を掘ったんだ。ここは褒めてあげるべきだ。
「とっても素敵です」と声を震わせながら言うと
「よかった!殿下に相談した甲斐があった」って
『演出指導、王太子殿下!王子さまってヒマなの!!』
叫びそうになり、間髪入れずに再び顔を覆うしかなかった。
そして手を引かれて誘われた光の中で、片膝つき指輪を捧げながらジュテームされたのですが、やはりヴィル様はセオリー通りの人ではなかった。
「装飾品に傷がつく事を気にしていたので、現存する最高硬度の物質を魔法で加工した」それは耐性がなければ押しつぶされそうなほどの怨念を感じる指輪だった。
ダイヤの指輪が選ばれるのは、硬いからってだけじゃなくて綺麗だからなんだよ。ヴィル様…
残念ながら未成年の私は後見人の許可がなければ婚約すら出来ないのだけど、長年領主がいなかったグラシ領では事実婚が当たり前。
だから追い出し作戦の時でさえ領民は
『貴族は痴話喧嘩も派手だなー』くらいにしか思っていなかったらしい。
カーラ様が聞いたら爆笑必至だろう。
…そんなことを思いながらも、私は指輪を受け取った。
ヴィル様の新たな趣味である穴掘り、もとい港づくりは
先日侵入した洞窟付近の岩壁を崩してゲートにすると、港部分の天井にあたる
丘陵を巨大セノーテを作る感覚で、魔法を駆使してくり抜いた。
アルベルタが湖に小島があると景色がもっと良くなると言っていたので、お風呂の栓のように引っこ抜かれた丘陵は湖に設置され、楕円形の小島になった。
この時点で、ヴィル様を追い出そうとしていた者たちは全員口を閉じた。
ゲオルグによると帝国内には魔力量ランキングなるものがあって、
一位と二位の差はモース硬度で言う硬玉とダイヤモンド程の違いがあり、
ヴィル様だけが呆れるほど突き抜けているらしい。
そして港は船着き場らしく整えられ、掘り上げた壁や水底の鍾乳石は建築学科と
芸術学科がタイルや作品に仕上げてくれた。
あとはダニエルたちが補強したり水門を作っている間に、シュテルツェ門に近い
倉庫までのトンネルをひたすら掘っている。
積み荷を運ぶ魔道具もダニエルさんと作っているようで、最近楽しそうだ。
でも貴族エリアばかりを作っているワケにもいかない。むしろ町のメインは平民街なのだから。
そう思っていたら移築作業を見ていた学生が、自領の領民を紹介してくれた。
それは歴史や文化的な価値はあるけど、継続が難しい生活スタイルを選んだ人たちだった。
移住を打診された二つのグループはどちらも伝統的な暮らしを守る人達。
ひとつは村ごと引っ越してきた教会集落。
修行目的で代々厳しい土地に暮らしていたけれど、いろいろ限界集落になってしまっていたので保養地にお招きした。
今は無理のない範囲で炊き出しの手伝いをお願いしているが、町ごとにひとつは
教会があるものなので、紹介していただけてコチラとしても助かった。
もうひとつのケースは放牧を生業とする人たちなのだけど、野生動物に襲われる
被害が絶えないらしく「柵の中で飼ったら?」と言っても「遊牧の民だから」と
納得してくれないらしい。
彼らが育てる家畜はとても美味しいのだが、草を求めてほかの領地まで行ってしまうので近隣でトラブルになっているそうだ。
「そういう人ほど環境が変わるのを嫌がるのでは?」と思ったのだけど、打診をしたら「家畜と共に漫遊できるなら安全な方がいい」と言ってきたそうなのである。
連絡は取ってくれたものの、領主も子息も都合がつかないと断られてしまい、
仕方なくヴィル様とふたりで遊牧の民に会いに行くと、荒野で出迎えてくれたのは動物を愛する優しそうな大家族と、やたらと強面の家畜たちだった。




