捕捉小話⑥ 深淵に沈む思い
男子という生き物は実に不思議な生態を持っている。
お腹がすいたらご飯を食べ、眠くなったら眠る。それと同じレベルで『棒』があると拾うのである。
棒は手の延長であり武器。それを握った瞬間から少年は勇者になるのだ。
そして素直で腹ペコでおなじみの騎士科男子もまた同様の反応を示した。
「ここの防護壁は帝国最強レベル。攻撃はほぼ無効化されると考えていい。
そのうえでコレだ」
そう言ってダニエルが出した新兵器に、騎士科男子は目を輝かせた。
「結界は外からの攻撃を防ぐが内側からの攻撃は通す。これで勝てない道理はない。理屈の上ではな」
「それで負けるってどんな状況なんですか?」レオンが手を挙げながら言った。
「なにせ相手が規格外のバケモノだからなぁ……」
王城での一件を見る限り「物理攻撃無効じゃね?」と思わないでもない。
しかし「だったら未認証武器撃ってもいんじゃね?」と考えるのがダニエルなのである。
自分が作った最強武器を最強魔術師にぶつけたい。ダニエルもまた少年の心を持ち続ける一人であった。
「コレはどうやって使うんですか?」騎士科にまざり、魔術師達はやたらとゴツいファン付きのベルトにご執心だ。
「それを装着して風魔法を使うとスゲー事が起きるぜ」
「あ、あの…女性用は…?」
「ブローチにコスメ型、ステッキもあるぞ。だが俺のオススメはピンクだ」
「趣味に走りすぎじゃありませんか?」
「むしろこれはコアユーザーによって守られてきた伝統的なスタイルだ。
実際に装着しただけでモチベーションが爆上がりするってデータもあるんだぜ」
自信ありげなダニエルに、ヨハンは眉をひそめる。
「結局は気持ち次第でしょう?」
「モチベーションが上がんねぇから誰もやらねーんじゃねぇか」
「…確かに騎士科には効果がありそうですが……」
騎士科の皆さんはクリスマスプレゼントを前にした子供のようにキラキラしている。
「お前さんも眉間にシワ寄せてねぇで試してみたらどうだ?変身願望なんて誰にでもあるもんだ」
「いえ、私は…」
「まぁ、お前さんの場合は頭にのせてるネコ降ろすだけみたいだけどな」
ピクリと反応したヨハンが、冷たい視線を投げかけた。
「無理にとは言わねぇが、オススメがある」
「変身グッズは必要ありませんよ」
するとダニエルは翼の生えた杖に二匹の蛇が絡みつく、
修学旅行の小学男子がいかにも手を出すデザインのペンを差し出した。
「茫漠としたこの世界でお前が愛するのは孤独と哲学……違うか?」
口ごもったヨハンの顔を見るだけで心の深淵にブッ刺さったのは明白だ。
「それには拡声魔法が付与してある。お前さんの弁舌の役に立つと思うぜぇ」
そういって手渡されたペンを胡散臭そうに眺めたヨハンだったが
「実用性があるなら邪魔にはならないな。いただいておきましょう」と胸ポケットに収めた。
「では追い出し作戦はおまかせしますよ」
「おぅ、まかせとけ!」
陽気に手をあげたダニエルだが、防護壁と新武器のデータにしか興味はなかった。
「でも任されちまったからには、仕掛け作んないとなー。
まずレインボー爆炎だろ、脱獄しようとしたら爆発するのもいいな。
あー、ロボ作りてぇーーー」
ダニエルの悪ノリのせいで、開発費用が爆上がりしていると言れているが、
そここそ役に立つうえに他の研究員も面白がるので、やはり止める者はいなかった。
【急募】モチベ爆上がりの変身ベルトを誰か開発してください。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
では、第五章のあらすじです。
誤解も解けて、ようやく同じ方向に進み始めたソフィアとヴィルヘルム。
だがそれを良く思わないダールベルク公爵が無理難題を押し付けてきた。
そして「クリスマスまでに町が出来なければ『大公の血筋』って札を下げて売り飛ばす」と言った事でヴィルヘルムがガチギレし、親子関係が断絶。更に続々と反旗を翻す者が現れた。
さらに長く戦乱が続いたこの国で安全を求める者は想像以上に多く、続々と増えるクセ強住人。そして追い出し作戦の扇動者として逆に追い出されたレオンが、
またしても問題を引き連れて帰ってきてしまった…そんな内容になっております。
よろしければ引き続きお楽しみください。
ここまで読んでくださったことに、心から感謝します。




