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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第四章 魔術師追い出し作戦編
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第63話 カルガモ計画

「これで防衛作戦は終了だ。広場で祝勝会をするぞ!」

レヴェンテ殿下は周りを見回しながら言った。


グラシ領はシュバイネハクセの領土ではあるが、平穏な暮らしを願う領民は争わない王を求めていた。

そして気さくすぎる王太子は、領主と仲の良い人当たりのいい貴族としか思われていなかった。


さらにレヴェンテに呼応したマルセルやゲオルグたちが誘導をはじめると、野次馬たちは町に向かって移動をはじめた。


盛り上がりきったところで幕を引く。

後始末は裏方の仕事だ。



「ソフィア…こっちにいらっしゃい…」

よほど怖かったのか、顔色を失ったエミリア様は私に呼びかけた。

真っ先に声を掛けるべきはヴィル様なのに、ただ怯えた目を向けるのみだ。


構わずヴィル様の背中を撫でると、その仕草が気に入らなかったのか

「あなたはウチの養女になってルーカスと公爵家を盛り立ててくれるのでしょう?」と金切り声をあげた。


「再三お断りしたではないですか。私はヴィル様から離れる気はありません」

するとヴィル様の身体がピクリと震えた。

そして私を抱えたまま「婚約者候補の話ですか?」と口を開いた。


「先ほどレオン(駄犬)が吠えていましたが、そんなに気に入ったのならその男を養子に

したら如何ですか?俺は除籍で構いませんので」

真顔で伝えたソレは、とても親に向ける口調ではなかった。


「除籍などしたら、お前が継ぐべき財産は手に入らないぞ」

「忙しすぎて自分の稼ぎも使えないのにですか?ソフィア以外はすべてそちらに

差し上げますよ」


ゲオルグに聞いたけど、海外流出させたくない人材確保のために、国家予算が組んであるらしい…

それでも公爵家の純利益を超えることはないだろうけど。


「お前らのやり方では人は集まらん。貴族のための町を作らないのであれば出資はせんぞ」


ダールベルク公爵の言う『人が集まるところ』というのは、貴族が散財する場所の事らしく、その時点で庶民の町ではない。


庶民が金貨を見たことがないように、上級貴族は銅貨を下賤なお金だと思っているし、私たちが来るまで領民たちは、ほぼ物々交換で暮らしていた。

縁あって集まった人たちだけど、お金持ちしか住めない町ではグラシ領民は生活できないのである。


「では公爵様が考える貴族の町では、どれほどの採算性を見込まれていらっしゃいますか?」

言い含められそうになっていた所で、場違いなほど良い笑顔のヨハンがトーマスを連れ立って現れた。


「…………アレも婚約者候補なのか?」ヴィルヘルムは不機嫌そうに言ったが

「お義父さまが集めてくださった人材ですよ」と返しておいた。



最初こそネコをかぶっていたヨハンだったが、なにぶんアカデミー生が多い町なので、すぐに在校生によって腹黒い本性をバラされてしまった。


優秀ではあるが嫡子ではない彼は、暇つぶしに公爵家を乗っ取ろうとしたらしい。

なのでヨハンには新しい娯楽を提案しておいた。


「つまり、金づるの尻の毛をむしり取るのか?」

「そういう事です。やりがいを感じませんか?」

「一応、お義父さまなんだろ?」

「酒場では金払いの良い人をご主人様と呼ぶのですよ」

「身も蓋もないな!」

そう言って爆笑するヨハンの瞳は悪戯に輝いていた。

隣の部屋で話を聞いていたアルベルタは心底引いていたが、今もヨハンが現れるなり同じ顔をしている。



ヨハンとトーマスが交渉をしている間にダニエルを呼びに行くと、展開を見守っていた主要メンバーが集まってきた。


「スポンサーがクリスマスまでに町を作れと無茶ぶりをしてきました」

「はぁっ?」ダニエルは開いた口が塞がらない。


「口だけ野郎のせいで予算も組めてねぇのにか?」

「ヨハンが直接交渉でどれだけむしり取れるかに掛かっていますが、間違いなく

低予算で高品質と言われるでしょう」


「持ってるクセにケチだよなぁ」

「出さないからこそ持っているんですよ」

「そういうソフィアも清貧主義じゃないか」先生が口を尖らせた。


「門と塀と人件費には使いましたよ。

ここは国境地帯ですから、安全確保が最優先なんです。

それに公爵が渋りだした辺りから、頓挫の可能性を考えていましたから」


「頓挫したらどうなってしまうのですか…」

「最悪国有地になって、お取り上げ」

「私の穴蔵ライフがぁ~…」


「でもケチ公爵もそれはしたくない筈です。ですから貴族と庶民の居住エリアを

分けようと思っています」


「貴族で括らないでくださいよぉ!私みたいな貧乏学生はどうすればいいんですか⁉」アルベルタが悲鳴を上げた。


「今の生活水準で満足できる人は庶民エリア。そして散財エリアでカモを育てるのよ!」

「お里が知れますよ。ソフィア様…」


呆れるブルーノを他所に、ブツブツ言っていたダニエルが突然キレた。

「あ¨ーーーーーくそっ!

何も決まってねぇのにどーすんだよ!カノン砲で整地すんぞ!」


「それなのですが、ちょっとしたアイデアがありまして、可能かどうかダニエルさんの意見が聞きたいのですが…」


すると背中に張り付くように立っていたヴィルヘルムが肩を突いた。

「………………お、俺にも手伝える事は…あるか?」すっごく緊張した声だった。


「あなたが居ないと成功しない作戦なのですが、お願いできますか?」

すると内容も聞かずに頷いた。その様子をベリルが笑顔で見守っていた。



結界に守られている以外は、ありがちな鄙びた町。

でも長く戦乱が続いたこの国で安全を求める者が想像以上に多かったことを痛感するのは、そう遠い未来ではなかった。


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