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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第四章 魔術師追い出し作戦編
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第60話 ラブコール

「ご、ご足労いただき、ありがとうございます。何かありましたか?」

バウアー教諭と連れ立って持ち場を訪ねると、転がるように走って来た地質学者のマルティナ・ヴルフ博士は早速オロオロした。


小柄であがり症。どことなく小動物っぽい彼女は、研究を理由に地下に食料を持ち込んでしまうので、地上に現れるのは週に一度のレアキャラ。

そのためマオルヴルフ(モグラちゃん)の愛称で呼ばれている。


「博士の力を借りに来たんです。地下道の人探しって出来ますか?」

「迷子ちゃんですか?」

「迷子のダールベルク探しだ」

バウアー教諭が言うとモグラ博士はみるみる顔を青くした。


「私の地下()に大勢の人が来るんですか?」

博士の耳にも防衛作戦は届いているようだ。


「そうなる前にヴィル様を捕まえたいんです」

「しかもヴィルヘルムが追放されたら、我々の壮大な計画は潰れてしまうかもしれないのだ!」

「リジー!まさか…」


「三食マイホームつきの、研究ライフが出来なくなるんだよ!」

「私のお城…ダメですか…?」

博士は胸の前で手を組むと、泣きそうな顔でそう言った。


以前博士に私の家(小屋)を見せたところ、研究拠点に欲しいと言いだした。

でも『地底湖を観光資源に』と言っている人がいるので、調査が終わるまで待ってもらい、いずれ面白い地質の場所に家を建てると約束していた。

そして先生も同じように、畑の中の一軒家が欲しいらしい。


「スポンサーが貴族向けの町を作りたがっているんです。だからヴィル様を追い出したいようで…」


「それってダールベルク公爵…ですよね?」

「実子より使い勝手のいい婿が欲しいようだ。勝手なことを言ってる派手な男が

いるだろ」

「あの人は無理でしょう…ソフィアが…」

気の毒そうにチラ見されたので

「一緒にいるだけで疲弊するので無理ですね」とキッパリ答えた。


ダールベルク公爵(パトロン)がヴィル様の留守に、領地運営に強そうな見合い相手を連れてきた話は有名で、特に陽キャのルーカスさんの評判は領内でもすこぶる良い。

だが、誰もが日向を好む花ではないのだ。


そしてこの三人は明らかに、どマイナーを好む雑草だった。


「しかし嫌味なほどダールベルクの真逆だな」

「どうするんですか?」

「だからこそ誰よりも早くヴィル様と合流する必要があるのですよ」


「わかりました。やりましょう」

そう言ってマルティナ博士は音叉を取り出して怪しく笑った。


「ふふふ…私ほどになると音の反響で岩や水、それ以外が聞き分けられるのです」

自信ありげに語る博士に

「どのくらいの範囲が解るのですか?」と聞くと

「………数メートル?」

「……………………」


「洞窟は領地の全域に広がっているんだろう?振動に魔力を乗せるのはどうだ?」

「それだと音は遠くまで伝わりますが、サーチ距離は変わらないかも…」


「いっそダールベルクに見つけさせるのはどうだ?」

「ですが音を感じとれても、発信者がわからなければ警戒されてしまうのではないでしょうか?」

他の人に聞かれる可能性を考えると悪手かもしれない。


「アイツがすっ飛んできそうなモールスを乗せればいい」

そしてバウアーは、おもむろに音叉を持ち上げて叩いた。


「ス・キ・ス・キ・ダ・イ・ス・キ・ハ・ヤ・ク・キ・テ」

「ちょっ!なんてメッセージを送ってるんですか!」


「恋人にこんな事を言われて、じっとしていられる童貞がいると思うのかい?」

「さらす必要はないですよね?」


「確かに刺さるかもしれませんねー」そう言いながら博士が

『D・T・D・T・D・T・D・T……』と連打する。

「名乗り出られなくなりますよ!」


「ここに居るのは徴兵を受けていない学生ばかりだろ?今や魔道具が主流だし

アカデミーでも教えていないモールスなんて誰も知らないさ」

「懐かしいですねー。暗号打ち」

洞窟には不可解な金属音が響き続けた。




地下で女子たちが盛り上がっている頃、地上のビルングは寒気を感じて

ブルッと体を震わせた。


「どうかしましたか?」

「…封じたはずの記憶が…こじ開けられる感覚がした…」

「確かに…切ない響きを感じる気が…」

そう言ってゲオルグは胸に手を置いた。


小高い丘から見下ろすと、町の中心部では戦勝記念と銘打って、商業学科がお祭り騒ぎをしている。

だが賑わいに背を向けて、苛立った様子のレオンがやってきた。



「おい、魔術師!探査魔法とか使えないのか?」

「その様子だと手掛かりなしか?結界は破壊されなかったんだ。それで十分だろ」

ビルングは呆れたように言ったが、ヴィルヘルムを永久に追放したいレオンは未だに駆け回っていた。


「敵にまわさず実害を食らわない距離を保つのが、あの男の扱い方ですよ」

ゲオルグも諭すように言ったが

「お前、いまはソフィの部下だろうが!」と食いつかれた。


どうやら夏休みの実習で近衛騎士団長の兄が騎士科の担当をしたようで、ゲオルグは事あるごとに、とばっちりを食らっていた。

だが、今回は別の話だ。


「直属だからこそ、これ以上は望まぬよ」


実害をモロ被りしてきたゲオルグだからこそ、ヴィルヘルムの厄介さは熟知している。そして生贄だと思っていたソフィアが唯一、その手綱を捌けるのだ。


ゲオルグはソフィアに、自分の部下にならないかと打診されていた。

上司の婚約者ではなく、直属の部下としてのヘッドハンティング。

ただし、高給取りの魔術師に見合う給料が出せないので、内通者としての契約で

ヒスイも同様に引き抜かれていた。



この国では王太子妃の事を戦乙女と呼ぶが、ゲオルグにとってそれは戦場で見た

ヒスイだった。


名門の騎士家に生まれ体格こそは恵まれたが、繊細すぎる内面から早々に魔術師の道を勧められた。

それはゲオルグを思ってこその父や兄の勧めだったのだが、受け止めるのが困難なほど自尊心は傷ついた。


だが事実、戦場では足がすくんでしまった。

綺麗事では済まされない世界。


しかしその地獄のような戦場をツバメのように駆け巡っていた少女がいた。

いかに軍服が泥にまみれようとも、宝石のような瞳は輝きを失わなかった。


まさか公爵家の私兵になっているとは思わなかったが…


グラシ領に来てヒスイとの関わり合いが増えたのは、間違いなくソフィアがそうしているからだ。


「物事の優先順位は人それぞれだわ。

だからこそ、あなたが何を大切にしたいのかを考え続けて。

嫌になったらソレだけ抱えてグラシ領にいらっしゃい。歓迎するわ」そう言って笑っていた。


「必要と言われたのは耐久値のデータ。

その後は祝勝ムードを盛り上げて、尾を引くなと言っていた。

あの方は、争いごとを好まぬのだよ」するとレオンは、舌打ちをして踵を返した。


ほとんどの学生は悪ふざけだが、本気でヴィルヘルムを追い出そうとしているのが数人いる。

戦力を自ら追い出すようなマネをしたら、それこそ国の反感を買うというのに…


「見回りをしてくる」そう言うと

「進んで実害を(こうむ)りに行くとは…ご苦労な事だ」とビルングは笑いながら町へと

歩いて行った。



ソフィアを探しに町役場に来たレオンだったが、すでに別の仕事で動いていると

ヒスイに告げられた。応接室では金づるどもが笑っているのが見える。


レオンも貴族ではあるが、ダールベルクに資産額で勝てる家はそうはない。

自活が出来る上位貴族はともかく

『スポンサーの機嫌を損ねてはいけない』というのが貧乏領地の共通認識だった。


だがアカデミーのような雰囲気を実際の町で実現してきただけに、ルーカスという男が来てから自由度が減ったと考える学生は多かった。


苛立ちながら隣の部屋でブルーノを探したが、アルベルタすらいなかった。

ジオラマに向かってソフィアの名を呼んでも、どこに隠れてしまったのか一向に

見つからない。


しかし、誰もいない静かな部屋で小さな音が繰り返し聞こえていた。

秒針のように規則性のある音ではなく、ポップコーンが弾けるような連続音…


音を探すとアルベルタの机の下からのようで、椅子を引くと空き箱に重石のように画材が乗っていた。


『………虫?』

嫌な予感がしたが画材をどかすと、案の定なにかが飛び出して、思わず声をあげて飛びのいた。しかしソレは虫ではなかった。


小気味が良い音を立てながら床を跳ねた木の駒は、布がまかれた立体マップの下に入って行った。

駒は全部で六つ。そして不遜な顔をした駒を見落とす事はなかった。


「見つけた…」

殺気をまとったレオンは唸るように呟いた。


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