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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第四章 魔術師追い出し作戦編
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第59話 こころの温度

「まぁ、並んで歩きだしたわ。可愛い!」

公爵夫人エミリアは少女のような声をあげた。

立体マップでは住民登録をしたばかりの二つの駒が仲睦まじく進んでいる。


門の外にある二つのポータルは転移魔法の為だけではなく、魔力痕の登録と識別が出来るようになっている。

魔力痕は指紋のように全く同じ紋様を持つ者がほぼ無いので、以前から捜索で使われていた技術らしい。


コントロールが出来るほどの魔力量を持つのは貴族だけだが、平民であっても微量な魔力が血液のように流れており、それを位置情報としてキャッチした駒が

ジオラマ内の同じ場所に移動する仕組みだ。

始めは不思議がっていた領民も、山で迷子になった子供がこのシステムで発見されたので、おおよそ好意的に受け止めてくれている。


グラシ領民はすでに登録されているが、外部から人が入ってきた場合は白木の駒が動き出す。

しかし希望者にはアルベルタが登録者に似せた人形を作ってくれる。(有料)

今後は駒を持っているリピーターに対して、領内の各種割引サービスを提供する

予定だ。


さらにマップに向かって呼びかけると一定時間名前が浮かび上がるようになっていて、駒が建物に入ってしまっても見つかるようになっている。緊急の時など、相手の位置が一目でわかるのが本当に便利だ。


「ここは若い人が多くて活気があるわねぇ」

応接室に移動したエミリア様は満足げだ。


「特に今はアカデミー生が流入していますからね」

理由は言わずと知れた事。

嬉しそうにエミリア様が口に運ぶ不遜な顔した饅頭も、生産学科と商業学科が

勝手に作って売りだした『魔術師ブッコロまんじゅう』だったりする。


私としてはエミリア様に『ヴィル様追い出し計画』への異を唱えてほしかったのだけど、彼女の興味はすでに別の所にあった。



「宿泊施設はいつ頃できそう?」

「貴族が利用することを考えると、突貫工事という訳にも…」

「オープンが遅くなるほど回収が遅れる。年明けまでにどうにかしなさい」


「そうだわ!クリスマスに合わせるのはどう?そして大々的なお披露目パーティを催すの!社交シーズンに合わせるのよ!」


タイトなスケジュールに笑顔が引きつる。ずいぶんと簡単に言ってくれる…


「それでヴィル様の事ですが…」

「あの子はね、随分前から養子を取るって言っていて自分を中継ぎぐらいにしか

思っていないのよ。だから気にしなくていいわ」


あまりに軽い言い方に返す言葉が見つからず、開いた口が塞がらずにいると

「貴族が使うならゴージャスにするべきだ」とまたルーカスさんが言いだした。

そしてそのまま三人で盛り上がって、もう別の話をしている。


いたたまれなくなって「お茶のおかわりをお持ちします」と言って退出してしまった。



「大丈夫ですか?」

応接室で話していたから、隣の部屋にいたアルベルタにも聞こえたのだろう。

「うん、平気」と返事をしながらも、気持ちがザワついている。


「魔術師さんが気の毒に思えてきましたよ。居場所を追われて、婚約者を取られて…」

「追い出してしまったのは、私かもしれない…」


たしかに公爵は追い出すような事を言っていたけど、エミリア様まで同じ考えだとは思わなかった。でも実子を追いやってまで?私になんの……


頭の一部が冷たくなり、無意識に首から下がったお守り袋を掴んだ。


『……私に価値など無い。必要とされているのは私ですらない…

何を自惚れているんだ。レヴェンテ殿下も、自国の王太子だって……』

「ソフィア様!」耳元で叫ばれてハッとした。


見るとアルベルタは泣きそうな顔をしている。

お守りが下がった胸元では、心臓がドクドクと脈打っていた。

深く息を吐いて「大丈夫」というと

「つらいのに大丈夫な筈がないじゃないですか!」と言われてしまった。


「だいたい面倒ごとを全部ソフィア様に押し付けておいて、用が済んだら今度は

チャラ男ですか?」

歯に衣着せぬ言い方に、つい苦笑いが出た。でも妙に腑に落ちてしまった。


「そうだね。私も追い出されちゃえばいいんだ」

「ちょっ!ソフィア様⁈」

「大丈夫。アルベルタを路頭に迷わせる事はしないから」

心配してくれる人がいる。それは少し前の自分を思えば、とても贅沢な事ではないか。


「とりあえずお茶の用意を…」

………小さな音がして視線を向けると、アルベルタの足元で何かが動いた気がした。


「えっ?なに?」

私の視線に気づいたアルベルタが移動すると、三体の駒が立体マップの乗ったテーブルの下を進んでいる。


「これ…」

声に出そうとしたアルベルタを制止して唇の前に人差し指を立てる。

そして小声で

「とりあえず私はお茶の用意をしてくる。

その間にアルベルタはテーブルの下が見えないように布で覆って。この事は誰にも知られないようにね」


そして「どう話が進むか聞いておいて」と給仕係のヒスイに紅茶を渡し

「工期を縮める相談をしてくる」と応接室を後にした。


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