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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第四章 魔術師追い出し作戦編
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第57話 グラシ領攻防戦

かくして防衛戦は始まった。

帝国最強と呼び声の高い魔術師を領内に入れない…それだけなのだけど、結果としてヴィルヘルムは自分の作った結界に締め出される事になった。


ソフィアは火消しに奔走したが、お祭り好きの学生たちはイベント感覚で盛り上がり、アカデミーからは人が大挙して押し寄せた。


作りかけの結界は、ヴィルヘルムに思うところのあるビルングとゲオルグが中心となり、人海戦術で解決。ポータルも設置。

遅れていた工事がボランティアのマンパワーで一気に進んだ。


そして足りない宿泊施設を補うべく、計画していた建物が一斉に着工され

特にまったく進んでいなかったリゾート計画は、アカデミー生の口コミから

上位貴族の融資話につながり、鉄壁防御を証明せざるを得ない状況から、日を追うごとにヴィルヘルムを絶対に入れてはならない事態になってしまったのである。



そして現在。

領地に戻るなり牢に閉じ込められたヴィルヘルム達は、外部との連絡を試みたが、魔術を阻害する牢獄によって封じられていた。


「どうすんだ?俺が壊して国際問題にされる訳にはいかないのだが…」

呆れ顔のレヴェンテに

「俺が最小限の破壊にとどめる」と答えると

布製のロールポーチを取り出し、牢の内側から慣れた手つきでピッキング工具を

鍵穴に差し入れた。


「…………三角割りで不法侵入してきた時も思ったが…手慣れすぎじゃね?」

「捕虜になった場合を想定して練習した」

「努力の方向性を間違えてる気がするんだが…」

「俺の魔力量だと小さく壊す方が難しいんだよ」


程なく牢を脱出した三人と一匹だったが、ヴィルヘルムは「次はドアだ!」と別の工具を取り出した。


「…お前…楽しそうだな」

「ギミックをバラすのって楽しくないか?」

「俺にはこの先に楽しくない未来が待っているようにしか思えないのだが…」


「よし、出来…」

ドアノブを回した途端に扉が爆発した。


「なんだ、失敗か?」

魔法障壁の後ろからレヴェンテが顔を出す。

チェルはマルセルの背中におんぶされて涼しい顔をしているが、マルセルの方が

余程血の気が引いている。

ヴィルヘルムも障壁を張ったが流石に近すぎたのだろう。何でもない顔をして煤をはらっていた。


「解除すると爆発するようになっていた。ここまで用意周到な仕掛けを誰が作ったんだ?」

そう言って廊下に工具を転がすと、さらに爆発が起きた。


「魔法で建物を補強しているところを見ると魔術師だな。ゲオルグか?」


地上に続く階段を登り外に出ると、不思議な事に見張りがいない。

門兵はレヴェンテの顔を知っている筈なのだが…



不意に殺気を感じて全員を囲む魔法障壁を発動させたが、振り返った時には障壁に魔法が着弾したのが見えた。


「な、何事です⁈」

チェルを背負ったまま狼狽えるマルセルに「橋まで下がれ!」と後退を促す。


下がると砦の全容が見えてきた。

関門と塀の上に大勢人が立っている。兵ではない。学生か?


すると大砲のような圧縮空気の塊が飛んできた。

障壁で受け止められるが圧が強く、巻き起った風で木の葉が裏返り、焦げた立ち木が軋んだ音をたてる。


真っすぐ飛んできた攻撃の先にいたのはレオンだった。


「お前が扇動したのか⁈」

そう叫んだが、答えを返したのは子供だった。


「貴公にはスパイ容疑がかかっている。よって関所の通過は認められない。

即刻退去せよ!」拡声魔法の声が響く。


いや…そのスパイを片付けてきたのだが…。まったく状況が飲み込めない。


「ソフィアは留守なのか?」

「立ち去らないのであれば、対抗措置をとる」取り合う気はなさそうだ。


その時、聞き覚えのある声が響いた。

「えー…ダールベルク魔術師副団長。聞こえるか?」


「マイヤー技術開発部長…?」

「知り合いか?」林に隠れたレヴェンテが声をかけてきた。


「友達だ。ヤツなら…」

光明に見えた。だが信じられない言葉が続いた。


「ただいまより結界の衝撃試験を行う。関門を通りたくば、コレを破壊すべし。

なお、こちらは防衛戦を想定しており、貴殿の攻撃に全力で抵抗させていただく。

刻限は日没までとし、それまでにグラシ領に侵入出来なかった場合は、永久的に

貴殿の入国を拒否する」


「待て!グラシ領は妻の領地だ!」

「まだ妻じゃねぇだろうが…」

渋い顔のダニエルに割り込むように、先ほどの子供が叫んだ。


「罪状はこの度の失踪・不貞行為に加え、暴力や暴言、モラハラだ!」

罪を告げられた途端に、揺れるほどのブーイングが上がった。相手は随分大所帯のようだ。


発起人はレオンかもしれないが、小柄な男の方が厄介だ。

それで面白がったマイヤーが手を貸したのか?ニヤニヤしやがって、あの野郎……


「お前、友達の定義を改めた方がいいぞ。これは武装蜂起だ」

レヴェンテは冷静に言ったが、ヴィルヘルムには届かなかった。


「……妻と話し合う必要がある。会わせる気がないのなら無理にでも押し通るが…どうする?」


皆の頭の中で警鐘が鳴り響いた。

あの夏空に沸いた黒雲が、再び目の前に現れたのだ。

息苦しいほどの殺気は瞬く間にヴィルヘルムの足元から広がり、地中から冥府の王が現れたようだった。


「破壊しろ…と、言ったよなぁ…?」

そう言うと右手が炎に包まれ、拳から打ち出された巨大な火の玉は塀の上部を直撃した。


門に負けないほど巨大な火の玉は、結界に触れると

バリバリと落雷のような音をたててグラシ領を揺らした。


学生たちは逃げ惑ったが、しばらくすると『ばいん』と間抜けな音と共に弾かれて、火の玉はレヴェンテ達が隠れていた焼けた森に落ちた。


「ギィャァァァア‼」

結界がない分、こちらのリアクションの方が学生たちより大きい。

そして枯れ木の森はよく燃える。


「お前!何て事をしてくれるんだ!」

怒鳴るレヴェンテの背後では、森の上空に作った魔方陣からマルセルが雨を降らせている。


「あの壁は衝撃音はハデだが、攻撃を吸収するように作ったんだ。シュテルツェ兵なら、これで逃げ出すんだが…」

「調子づかせただけじゃねーか!」学生たちは塀の上で小躍りしている。


「お前が作ったままだと思ったか?」ダニエルが勝ち誇ったように言った。


「はじき返したら近隣への被害が拡大する!」

「自分の攻撃で自領が傷つくんだ。シュテルツェだったら攻撃をやめるだろ?」

「確かに……」


「お前らシュテルツェを見くびりすぎだろ!」

そう言いつつも、レヴェンテも水魔法で延焼を防ぐのが精一杯。


「火はやめろ!それ以外だ!」

そう伝える間にも、塀の上からは魔法や投擲が降ってくる。


仕方なく風魔法をまとうと、竜巻で攻撃の軌道はそれたが、森の火がさらに激しくなってしまった。


「馬鹿!風もやめろ!」

影響は出るが飛ぶ方法はコレしかない。強力だが使いどころを選ぶ魔法だ。


騒ぐレヴェンテを尻目に空に駆け上がる。

未完成の結界にはまだ綻びがある…はずだったのだけど


「………出来てる…」

大変だったけど、完成間近だっただけに、ジグソーパズルの最後のピースを知らない誰かがハメてしまったような虚しい気持ちになった。


そして出来ているのは結界だけではなく

町の施設も自分がいない間に随分形になっていた。


やるせない気持ちで腕を振り上げたヴィルヘルムは

「ふんっ!」と怒り任せに結界の頂点に向けて特大の雷を落とした。

そしてドーム状の結界は沈み込んだ後で波紋のように電流を流し、四方で煙を上げた。


これなら現在の帝国技術では容易に破れないだろう。

狙い通りなのに心は虚無感が占めていた。



「…テメェ…いい加減にしろよ…」

火消しのために水を撒いていたレヴェンテ達は、感電して地面に這いつくばっていた。


「結界を壊すのは無理そうだ…」

「…それで…どうするんです…今のでポータルも…壊れました…よ」


確かに転移魔法の魔方陣が描かれた四阿(あずまや)は柱が折れて倒壊している。

これではシュテルツェ城に戻ることが出来ない。

ひっくり返ったまま恨み言をいうマルセルの側では、逆毛を立てたチェルが違う

生き物のようになっていた。


「…ソフィアに会って…話をしてくる…」

「…おい、どうした?」

先ほどまでの悪ノリの表情と比べると、ヴィルヘルムの顔が明らかに暗い。


「…結界も町も、俺の手伝いが必要だと言っていた所は終わっていた……

…必要がなくなったから追い出されたのかも…」

「はぁ⁈」思わずレヴェンテは起き上がった。


「レヴェンテの奥さんみたいに怒ってるのかも!レヴェンテの奥さんみたいに‼」

「俺はともかく妻を悪く言うな!」

「あぁ……」

ヴィルヘルムは顔を覆って膝から崩れた。


「………………友達の誤解なんて解きに行かなければよかった」

「恩を押し売りするな…」

「レヴェンテ様…これ構うと手伝わされるヤツですよ…」

マルセルもゆっくり体を起こす。


するとショゲるヴィルヘルムにチェルが鳴きながら近づいた。

「チェル…君だけは俺に協力してくれるんだね。ケチな王太子より君の方がよほど王の風格がある」


「………………………なにか手はあるのか?」

「…ソフィアにも教えていない、秘密の場所があるんだ」

ヴィルヘルムは少し複雑な顔をして呟いた。


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