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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第四章 魔術師追い出し作戦編
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第55話 パラダイムシフト

アレクサンドラ妃との面会後、すぐにグラシ領に帰ることを伝えると、レヴェンテが同行を希望した。


「さっきの含みのある言い方が気になる」

「アレはひとりにすると更に荒れるぞ」

「…………苛烈なところがあるのは理解していた…つもりだった。だが……盗聴器には…引いた…」


いつも余裕のあるレヴェンテが気の毒なほど気落ちしている。

マルセルを見ると『そっとしておけ』と言わんばかりに静かに首を振った。



レヴェンテが所用を片付けるのを待ち、転移魔法でグラシ領に戻ると、

到着した場所はいつもの町役場ではなく、関所であるシュテルツェ門の外にいつの間にか作られた四阿(あずまや)風のポータルだった。


それは焼け跡が残る森に囲まれた国境の橋のたもとにあり、瞬く間に門兵に囲まれた。

そして「入国審査だ」と案内された先で「どうぞお寛ぎください」と言われ、

牢の扉は閉じられた。

信じがたい状況に格子にすがり門兵を呼んだが、そそくさと行ってしまった。


「おい…囚人番号1番」

「なんだ2番」

「熱烈な歓迎に痛み入るが…お前の方がヤバいんじゃないか?」

すぐ隣の牢から、レヴェンテがあきれた声で言った。

牢には番号が下げてあり、マルセルが3番。

そして4番のネコは格子をすり抜けて、ヴィルヘルムの足元でくつろいでいた。


三人と一匹はグラシ領の関所であるシュテルツェ門に投獄された。




ヴィルヘルムが姿を消して間もなく、ソフィアも窮地に立たされていた。


「…お義父さま…お見合い話はお断りしましたよね…」


「もちろん、無理強いをするつもりはないよ。でも彼らはこの町にも興味を持ってくれているんだ。

この町の運営に関わってもらうか、ダールベルクの別の仕事をしてもらうか、

それをソフィアとの相性も見ながら検討しようと思ってね。

だからソフィアはそのままでいい。あの者は候補から外すから…」


ダールベルク公爵(お義父さま)が連れてきた中に、村娘姿のソフィアを領主と気づかずに不遜な態度をとった奴がいた。

炊き出しをしていたし、そもそも慣れているのでソフィアは気にも留めないが、

それを村人を懐柔し両国をつなぐ試みと公爵が捉えているため

「自分と結婚すれば惨めな思いはさせない」と言った勘違い男も一発退場をくらった。


当然平民暮らしが長いので私の感覚は村人寄り。

それを貴族目線しか知らない人に強要するのもどうかと思う。


でも一度懐に入れたら全てを是とするこの感じ。

『…ヴィル様ってお義父さま似だったのですね…』


『ヴィル様が戻ってきたらエミリア様に間に入ってもらうしかないかも…』

そう思ってため息を吐いていると

「大勢で押し掛けて驚かせちゃったね」とフェーリン様が急に顔を覗き込んできたので慌てて飛びのいた。

「いえ、ご足労いただき感謝します。どうぞよろしくおねがいします」


人懐こい笑顔のルーカス・フェーリン様はアカデミーの商業学科出身で、水運業で財を成している二十七歳。商業貴族。とにかく距離が近い。


「あれっ?予防線引かれちゃった?

婚約者候補って言われて来たんだけど、おじさんは嫌だった?」


「ルーカスがおじさんだったら俺はどうなるんだ?」

そう言ったのはダニエル・マイヤー様。

ヒョロリとしたフェーリン様と比べると筋肉質で、セクシーおじ様の片鱗を感じさせる二十九歳。

防衛開発部の技術屋さんで、都市開発にも明るい。


「年齢を言われちゃうとヨハン君には勝てないな」

長身のおふたりの後ろでモジモジしているのは、小柄なヨハン・イェーリング様。

アカデミー法学科に在学中らしいのだけど…


「アカデミーで会ったことは?」

「残念ながら…」

「私はお見かけした事があります。放課後にビルング准教授の研究室に通われていますよね」


「…………悪目立ちしていましたか?」

「はい!騎士科のふたりを宥める姿をよく見かけます」

顔を覆ってため息を吐く。やっぱり悪目立ちしていましたか……。


改めましての笑顔を作り

「いままでは法政学にご縁がありませんでしたけど、よろしければ色々教えてくださいね」と言うと、急にボンッと効果音がつけたくなるほど赤面した。


「あらら、その反応はおじさんには真似出来ねぇわ」マイヤー様は楽しそうだ。


「婚約者候補なんて言われているが、最新機器が実際に使われているところを見に来たんだ。だから怖がらないでくれよ。おじさんの事はダニエルさんでいいからな」そう言うと頭に手を置く。


「じゃぁ、ボクの事はルーカスって呼んでくれないか?」と髪を一筋すくってキスをする。


これだけで限界なのに、ふたりはニヤニヤしながらヨハン君に振り返る。

ギクシャクと進んできたヨハン君は、手を取ると片膝をつき

「ヨハンと…そしてソフィと呼ばせてください」と言って、真っ赤になりながら

手の甲にキスをした。


小っ恥ずかしいシチュエーションに、私も負けずに真っ赤な顔をして

「はい」と言うしかなかった。



「まずは条例の制定ですね。揉め事が起こる前に呼んでいただけて良かったです」

「でも、この町の皆さんは比較的穏やかな方が多いので……」


「…ソフィ…」

名前を呼んだだけで真っ赤になるヨハンにつられ、こちらも赤くなる。

「は、はい」


「君は領主なんだ…法は君を守る為のものでもあるんだよ…」

「………はい」


……なにこの羞恥プレイ。

しかもお義父様とトーマスさんがニマニマしながら眺めてる。


「ヨ、ヨハン様」

「…出来れば呼び捨てで……」


「………ヨハン…」

「…なに?」

「……………………………」


言えない…

私はヴィル様が好きだから誤解を招くようなオーラを出さないでって言いたいのに……言えないっ‼


思い切り頭を掻きむしりたいほど混乱しているのに、背後のお義父さまはご満悦。

『違うの!誤解なの!』

トーマスさんは笑いを堪えてプルプルしている。


その後もサクサク仕事をするヨハンがトーマスさんに資料の説明を受けている間に、他のふたりの所に行く事になったのだけど、まずは町役場を出てすぐ、お義父さまの誤解を解くことから始めなければならなかった。



「お義父さま、釣書にヨハン様はいなかったと思うのですが?」

「ソフィアは年上が好きそうだからイェーリング家の親戚に声をかけたんだけど、

話を聞いたヨハン君が立候補してきたんだよ」


「私、ヨハン様とは初対面ですよ?」

「おそらくアカデミーで見染められたんだね。護衛を増やすかい?」

「今でもオーバーキルって言われているのでお構いなく…」

「そういうところで目立っちゃったのかなー。初々しくて良いじゃないか」


「お義父さま」意を決して陳情する。

「私…は、ヴィルヘルム様に、ひ、惹かれております、ので、ヴィル様じゃないと嫌です!」そう言うと、お義父さまは少し寂しそうな顔をした。


「そこまで息子を買ってくれるのは嬉しいけど、いま王城でソフィアの株は

どんどん上がっているんだ。争いばかりで疲弊するこの国を憂う者は多いんだよ。

それに対してヴィルヘルムは戦争のイメージが強すぎる」


「ですがそれは…」

「国の施策だ。二年前までは重宝された。だが今は違うものが求められている」


「中和…出来ませんか?」

「ソフィア…

君を好ましく思う者がいる一方で、君を利用しようと思う者がいる。

いまソフィアに必要なのは、革新的な考えを持つ者と揺るぎない後ろ盾だ」


「ヴィル様の悪評は虚像ですよ!」

「だが、それを受け入れたのもヴィルヘルムだ。

そして多くの人にとってヴィルヘルムが何者であるかなんてことは些事なんだ。

人はね…自分の見たいものしか見ないんだよ」


泣きそうな私にお義父様はハンカチを貸してくれたけど、私は誰が優しいのかも

解らなくなっていた。



やがて城門のように大きな関所が近づいてきた。

門の上では川を見下ろしながら工事関係者が話し合っているのが見える。


「早速やってるな。関所のある川は大河に続く支流で、

船でやって来るとちょうどこの辺りがシュバイネハクセの帝都とシュテルツェ王都の中間にあたる。そして大河は海まで続くんだ。

ルーカスはここに交易拠点を作ろうと提案してきた」


「船で運ぶんですか?」

「陸路を行くより安全性が高く、大量に運べる。大事業になるがダニエルの知恵と技術があれば可能だ」


「港が必要になりますね…

着工は住人の確認を取ってからで良いですか?物流倉庫のために丘陵を削る承諾を得るのも難航しましたから」


「ソフィアは領主なんだよ。住人に気を遣う必要はない。その分、責任はあるけどね」


「…東側斜面に葡萄畑がありまして、そこで作られるワインはアカデミーの教授陣にもウケがよく、帝都で売れるとお墨付きをいただいております」

すると途端に公爵は破顔した。


「そういうトコだよ!ソフィアは案外ルーカスと合うと思うんだ。

私としてはアイツがイチオシなんだよ。そもそも何でそんなに商売に明るいんだ?」

「酒場という場所は情報が集まるのですよ」


この大陸で唯一帝国を名乗るシュバイネハクセだが、営利主義に転換しつつあるのは商人の共通認識。

酒場に出入りしていた商人から教わった事だけど、なにが役に立つか分からないものだ。


そしてパトロンが求めるものは結果のみである。


「だがそういう場所は悪い噂の掃き溜めになる。ヴィルヘルムの話は聞かなかったのかな?」

「噂は聞いておりましたが、あまりに本人とかけ離れていたので、自分で見たものを信じるべきだと思いました」


すると公爵は父親の目に戻った。

「ヴィルヘルムはソフィアに出会えてよかったと思うよ。でも出来ればもっと早くに会うべきだった」


「人は変われるのですよ。お義父さま」

精一杯自信ありげな微笑みを浮かべると、公爵(パトロン)は意外そうな顔をした。


当然ハッタリだ。これ以上の値崩れを防ぐには可能性を示すしかない。

でもだからこそ、ヴィル様が虚勢を張り続ける意味に気がついた。


「…どうしたんだい。ソフィア」

「いえ…いま無性にヴィル様に会いたくなってしまっただけです」


空を見上げると、高い所を鳥が飛んでいた。

魔力を持たない鳥は、結界の影響を受けることなく空を行き来できるのに、

その鳥は同じところを旋回し続けていた。


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