第54話 ドン引きと執着のあいだ
誤解はあったもののヴィルヘルムはシュテルツェ城に通され、魔法を封じる魔道具を装着のうえで、しばし軟禁状態にされた。
シュテルツェ王太子妃であるアレクサンドラ様が、カーラ様以上に苛烈な方だったからだ。
そしてレヴェンテは会うたびに、やつれていった。
「それでよくソフィアを王国に迎えようと思ったな」
「本当にアンバサダーをお願いするだけの予定だったんだ…」
「王太子妃にするって言ってただろ」
「建前だけな」
「それがいけなかったんだ。自分のポジションを掠め取られて許せる筈がない」
「そもそも何でバレたんだ?一部の者しか知らない話だぞ?」
「むしろ、どうしてバレないと思ったんだ。
パートナーがどこで誰と会い、何を話したかが気にならないハズがないだろう?」
「お前、病気だよ!」
「俺だったらソフィアの憂いは全て払う」
「ソフィア嬢はそれを望んでいないと思うんだがなぁ…」
その時、わずかなノイズを感じた。
「…いま波長が乱れたな。貴様、探査魔法をかけられているぞ」
「まさか!妻はお前と違って寛容だ!」
「襟の後ろ、袖の折り返しの中、靴や飾りボタンも疑うべきだ」
「…………犯罪者心理に精通しすぎている…」
そう言いつつも上着を脱いだレヴェンテがジャケットを探ると、
飾りポケットから小さなボタンが転がり落ちた。
フリーズするレヴェンテを他所にボタンを拾い上げたヴィルヘルムは、
ボタンを手のひらに乗せると低い声で言った。
「俺は妻に害をなす全てのものを排除する気でここにいる。この男を消されたくなければ、直ちに投降しろ」
すると隠し扉や窓、ワードローブからバトルメイドが現れた。
ヴィルヘルムはレヴァンテを引き寄せると、バックルに仕込んだ隠しナイフを首に突き付けた。
「…………………やっぱりお前とは友達になれねーわ」
小さく手をあげたレヴェンテはそう言ったが
「話し合いには交渉材料が必要だろ?」と、ヴィルヘルムは全く表情を変えなかった。
そして手首につけた魔力封じの魔道具が砕け、床とぶつかり硬い音をたてた。
明らかに脅しのためとはいえ、城が揺れるほどの魔力を見せつけられ、王太子妃
アレクサンドラは話し合いの場にヴィルヘルムの同席を許した。
そして開口一番こう言った。
「わたくしは夫が誰とダンスを踊ったかを知る権利があります!」
水面下で情報を集め、従順な妻を演じていたらしいアレクサンドラ妃は、すべてが発覚したことで、ついに開き直った。
「つまり王太子の結婚式で帝都に訪れた時には、既に盗聴器が仕掛けられていたという事だな…」
小声で言うとレヴェンテは今更ながらゲッソリとした顔をした。
話し合いにイマイチ消極的なレヴェンテを差し置いて、一歩前に出たヴィルヘルムは会釈をすると話し始めた。
「ご心配をおかけして申し訳ありません。
しかし殿下のお誘いを無下にもできず、我が妻は非常に迷惑しておりました」
味方で連れてきたはずのヴィルヘルムが、悪いのはレヴェンテだとあっさりアレクサンドラに告げたため、憤怒の顔はそのままレヴェンテに向けられた。
「隣国の王族の結婚式ですよ。わたくしも参列するのが道理であるのに、独身の
フリをしてひとりで行ったあげく、目を付けた女を国境に囲うなど…」
「停戦を結んだばかりの国など恐ろしくて行けないと言っていたではないか」
レヴェンテもボソボソ言い返したが、アレクサンドラは聞く耳を持たない。
「しかも一度はシュテルツェ王太子妃として迎えたいと先方に打診したそうではないですか!」
「今後は首に縄でもつけて厳重に管理していただきたい。シュバイネハクセも殿下の要望を無下にはできず、あやうく妻が生贄にされるところだった」
ここは王城で、レヴェンテはシュテルツェ王国継承権一位であるはずなのに、
置かれた状況は完全にアウェイだった。
「そもそもレヴェンテ様は中立都市に行き過ぎなのです。疑われても仕方がないでしょう?」
「ずっと滞在している訳ではない。
今はまだ直通のポータルがないから移動に時間がかかるんだ。
それにあの場所は帝国の足止めに最適だ。友好関係を築くべきだろう」
「結びたいのは婚姻関係なのでしょう?」
「彼女は俺の妻なので、俺と友達になってください」
「お前は友達がほしいだけじゃねーか!」
するとアレクサンドラはハッとした顔をした。
「確かに、いつも一人でいる男から情報を引き出そうとしたら女領主の夫だったから、意趣返しのチャンスだと報告を受けたわ!」
「その報告のおかげで勘違い女がシュテルツェとつながっているのが分かったんだ。
あの町の住人は全て位置情報を管理している。余所者などゲートをくぐっただけで監視対象だ」
「全員を⁈何のために?」
「旦那に盗聴器を仕掛けておいて、それを言うのか?」
「わたくしはレヴェンテへの愛のため…」
「そうだ!愛ある犯罪は許される!」
「許されねーよ‼」
レヴェンテは重過ぎる愛に悲鳴をあげるしかなかった。
最初こそ控えめな態度だったヴィルヘルムも、すっかりいつも通りになっている。
「だいたいレヴェンテが停戦記念に嫁を寄越せと言ってきたのが問題なんだ。
それさえ取り下げてくれれば、俺はすぐにでも帰る」
「帰ったところでボッチでしょ?」
「たとえ敵意でも感情を向けてくれるヤツがいれば、それは孤独ではない」
「果たして帰るところがあるのかしら?」
不敵に笑うアレクサンドラにヴィルヘルムは眉をひそめる。
「鳥かごの扉を開けたまま出てきてしまったのでしょう?
悪いネコにさらわれていないと良いのですけど」




