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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第一章 捜し人編
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第5話 重すぎ男と感情のジェットコースター

夕暮れ時、煙突からはシチューの香りが立ちのぼる。

食品で痒みが出ている訳ではなさそうなので、奮発してシチューを作ってしまったけど、今日も来るとは限らないのよね…


ピンでまとめた前髪に触れながら、浮かれていることを反省する。

この家で誰かと食事をするなんて、母が亡くなって以来だ。


でも貴族様をお引止めするワケにはいかないし、今日は薬を渡してお帰りいただこう。

こんな家じゃ風邪をひかせてしまうかもしれないし、それにもう来ないかもだし…


そもそも貴族と…ましてや軍人と知り合っても碌な事にならない。

戦争で人生が変わった人を何人も見たではないか。


そう思うのに妙にソワソワしてしまう。

だってこの家を訪ねてくるのは、憎みきれない野菜泥棒の太ったアナグマくらいなのだ。



雑念を追い払うべく、八つ当たりのようにシチューをかき混ぜていると、背後で聞き覚えのない音がした。


振り返ると甲高い音に合わせて光る魔法陣が現れ、中央に現れた人影はやがてヴィル様になった。


「こ、こんばんは」

「いい香りだな」

「召し上がりますか?」


「実は仕事を抜けてきた。この中から好きな家を選んでくれ。

気に入るものがないなら、要望を出してくれれば、その通りの屋敷を用意しよう」

そう言って紙束を渡された。


「…屋敷?」

「この家では不埒者どころか隙間風からも君を守れない。

もちろん思い入れもあるだろうから、大切に隅に寄せておこう。

選んだらこの便箋に入れて封をすると俺の元に届く。食事は帰ってからの楽しみにしておくよ」そう一方的に言ってヴィル様は消えてしまった。


部屋にはコトコトとシチューの煮える音だけが響く。


「はぁっ⁇」

受け取った紙束を見ると立派なお屋敷と間取り図が書いてあった。


ちょっと待ってこの家は、

いや本来、家とは呼んではいけないこの場所は

森を勝手に開拓して不法占拠しているだけなのですが⁉


考えてもみたら騎士様にバレた時点でアウトだった。

なに浮かれてシチュー煮てんだ、私!


どうしよう…ここの野菜にも効能があると思われたのだろうか?

今からでも逃げるべき?そもそも隠れて住んでるのに?


「…………気に入らなかったら要望を出せって言ってたよね」

それ自体が不敬に当たりそうだけど…


添えられてい封筒に

「分不相応なので、いただけません」と書いて封をするとすぐに手元から消え、

また現れた。


封筒には

『要、隙間風の吹き込まない家。治療の為、風呂場と寝室必須。間取りを検討し

返信』と走り書きのように書かれていた。


要するに治療院だろうか?

風呂場と言われても私はタライで済ませているし、他は…娼館でしか見た事ないのですが…


娼館の部屋を見せてもらいに行こうかな。

営業時間内は行きたくないんだけど…



フード付きのコートを羽織って橋のたもとに向かうと、川の手前の植込みのあたりで見えない壁にぶつかった。


「‼︎」

見えないが壁がある。ずーっと、家と畑を取り囲むように…


私は何を勘違いしていたのだろう。

役立たずとはいえ、私は魔法が使える事を隠して不法占拠をしていた罪人で

治療目的で生かされているだけ…


遠くで教会の鐘の音が聞こえる。まるで贖罪せよと言わんばかりに。

………逃げられないならば、せめて治して差し上げよう。

貴族のヴィル様は私と違って必要とされる人なのだから。



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― 新着の感想 ―
まぁ実質監禁なんだけど、拘束だと思うよね。
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