捕捉小話④ たすけて ダニエモン
結婚式の余興で実習生もダンスを披露すると言われて、慌てて練習を始めてみた
ものの、他のご令嬢と同じように、ソフィアもドレスについては思うところがあった。
当然ソフィアはドレスなんて持っていない。
そして相談できそうな相手はヴィルヘルムしかいない。
だが…ほぼ初対面の相手に家をプレゼントするような男だ。
下手に強請るワケにもいかないし、かといって放っておくと何をするか解らない。
アクセルをベタ踏みさせてはいけない。
それはソフィアが見つけたヴィルヘルムの手綱の握り方だった。
一方ヴィルヘルムは
余興の話を聞くなり、やっぱり相談もなしに動いていた。
「それで、なんで俺の所に来るんだよ。俺は仕立て屋じゃねーぞ」
ダニエル・マイヤー技術開発部長は不機嫌そうに言った。
停戦後はダニエルも例のウワサを信じていたが、ある日唐突に
「魔道具のアイデアを思いついた」とやってきて、一心不乱にモノづくりをする
姿を見て「ただの工作好きじゃね?」と認識を改めていた。
斬新な発想自体は面白い。
しかし思いつきでヴィルヘルムが持ち込む仕事は、いつも期限がカツカツなのだ。
「仕立て屋は金を積んで抑えた。デザインも急ぎ起こしてもらっている。
ただドレスの布が重たいものばかりで………」
「今から新素材の開発をさせる気か?間に合わねぇよ」
「探索魔法を付与した布は作ってくれたじゃないか」
「あれは構想があったから、すぐに対応できたんだ」
「軍服の強化と軽量化も実現しているだろう?」
「確かに軽くて強い繊維の研究は進んでいる。
だが俺のところにドレスの原案なんて持ってきてどうする」
「時間がないんだ。助けてくれよ、友達だろう?」
「お前、俺が頼まれれば便利な道具出す何かだと思ってるだろ」
「金は出す!」
「友達を買えると思うな、馬鹿野郎」
そう言いつつもダニエルはイメージ画に視線を落とした。
「そもそもこの『ふわふわでキラキラで可憐』ってキャッチコピーが軍のコンセプトと合わねぇんだよ。どの辺りが軍事利用出来んだよ。予算が下りねぇ物は作らねーぞ」
「ハニートラップ」
ヴィルヘルムが一言いうと、ダニエルはハタと動きを止めた。
「ふわふわでキラキラで可憐な女性が、まさかの工作員。この設定はどうだ?」
「………それだけはダメだ…俺の中では、女スパイは豊満な美女と決まっている」
「それは敵として認定するためであって、貴様の好みはカワイイ系だとロルフから聞いている」
「なに情報漏洩してくれてんだ、あの野郎!!」
ダニエルは天を仰いで頭を掻きむしった。
「いわば社交デビューなんだ。ダンスも不慣れだし負担を減らしてやりたいんだよ」
「お前さ……騙されたりしてねぇ?」
「女性は金がかかるものだと(娼館で財布にされてる)ロルフから聞いた」
「……そこまでの覚悟があるなら止めねぇ。…待ってろ、魔法構造式を書く」
「魔法付与は任せろ。構想は練ってきた」
この二人の思いつきのせいで技術開発部の費用が爆あがりしているのだが、
そこそこ役に立つうえに他の研究員も面白がるので止める者がいなかった。
後日ソフィアは『ふわふわでキラキラなドレス』を送られて
豪華すぎると謙遜しつつも、家の時と同様に全力で喜んでしまう。
ヴィルヘルム的にはプライスレスな笑顔だが、不眠不休でダウンした仕立て屋と、国家予算が犠牲になっている事に、さしもの王太子も気づいてはいなかった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
では、第四章のあらすじです。
停戦協議を進める両国は、歩み寄りの一環として国境に永世中立都市を作る事になった。その場所はかつてグラシ男爵家が納めていた土地で、生き残りである
ソフィアに突然白羽の矢が立ってしまう。
唐突に領主になってしまったソフィアと、提案者として応援するレヴェンテ。
いつの間に仲良くなったんだとジェラるヴィルヘルムは、自立しはじめた
ソフィアに空虚感を覚えてしまう。
さらに隙だらけのヴィルヘルムに近づく女性と、それを目撃してしまうソフィア。
そしてヴィルヘルムを追い出そうと、レオンたちが勝手に決起してしまった……
そんな内容になっております。
よろしければ引き続きお楽しみください。
ここまで読んでくださったことに、心から感謝します。




