捕捉小話③ 悪役令嬢はバケツの水に屈しない
朝日輝く美しい大理石のエントランスに不釣り合いな金属音が響いた。
「邪魔よ!こんなところにバケツなんて置かないでちょうだい」
「ひっくり返せたんですか?スゴイですね。
重たくなるように、一番大きいバケツに並々水を張ったのに!」
「おかげで足が痛くてよ!」
「ケガする前にやめた方がいいですよ…」
今日もフッガー公爵令嬢は無駄に元気だ。
他のご令嬢が口しか動かしていないのに、もっとも足を動かしている。
酒場でもバケツを蹴とばす人は決まっていたから、もしかしたらそういう適性が
あるのかもしれない。
適性……そうか、ネコが箱に入るようなヤツか。だったら仕方が………
「聞いていらっしゃいますの⁈」
「すみません。聞いていませんでした!」
遠くではコチラを見ながら円陣を組んでヒソヒソ話。
このままでは間違いなくフッガー公爵令嬢も評判を落とすし、バケツ蹴ってる場合じゃないと思うんだけど…。
「はやく片づけなさい!」
「はいはい。ただいま……」と大きな水たまりを見て思いついた。
これエドゥアルト王子の水遊びの時みたいに、集められないかな?
さっそく水たまりに手をついて、魔法の水を少量加える。
「あなた何をしてるの?」
そして川の水を汲み上げる勢いで、一気に持ち上げる!
水は一度はベロンと床からはがれたものの、
ひっくり返すのを失敗したお好み焼きのごとく、空中分解して私とご令嬢の上に
降り注いだ。
「何をなさるんですの!!」
「すみません。失敗しました!」
金切声をあげるフッガー公爵令嬢にソフィアが平謝りをする。
その様子を遠巻きに見ていたおしゃべり令嬢たちはザワついていた。
そもそも階級社会では上位の人間が頭を下げる事はない。
だから、すぐに謝ってしまうソフィアは、それだけで立場が弱いと判断される。
しかしソフィアは、やられて泣くどころか対策を講じてくるのだ。
窮鼠猫を噛むという言葉があるが、
ソフィアは引くほど鬼メンタルなネズミとして認識され始めていた。
そしてご令嬢たちが危惧する通り、
後日、重力魔法を付与された魔道具を持ち込み
さらなる身体強化魔法をかけて執念でソレを蹴とばすフッガー公爵令嬢と共に、
周りを驚愕させてしまうのであった。
悪役令嬢キャラが出てくるならばと鉄板のシンデレラムーブを入れましたが、
水遊びシーンを書いている段階で
「これが出来るなら掃除の仕方が変わっちゃわない?」と思って差し入れようとしたけど、うまく挿入できなかったシーン。
常に当て馬になってしまう彼女にも日の目を浴びせたいと思いつつ、活かしてあげられない不遇キャラ。彼女もいつか幸せになってほしい…




