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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第三章 誰がための鐘編
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第33話 タネを撒かなきゃ草すら生えない

就業時間の食堂はいつものように魔法棟から降りてきた魔術師であふれていた。

ここは昼はもちろん、朝晩も開放されていて、食事休憩をとってから業務に戻る者もいる。


混み合う時間なので皆相席だったが、一角だけ明らかに人の座らない場所があり、ヴィルヘルムは今日もぼっちだった。

そしていつものように深いため息をワインで流し込む。

とても婚約間近とは思えない姿だ。


最初は揶揄う者や、レオンの噂を聞き鼓舞する者もいたが、なんにしろ

本人が動かない事にはどうにもならない。

もはやヴィルヘルムに声をかけるのは幼馴染の王太子くらいになっていた。



胃腸の調子もずいぶん良くなったのでソフィアの負担軽減のため

食事は魔法棟で摂ることになり、ソフィアは王城でまかないを食べている。


年配の給仕係に手をあげてワインを頼むと

「また酒量が増えていませんか?」と嫌な顔をされた。


「朝食の時は人並ですが、夕食時は世界中の不幸を背負い込んだような顔をされてますよ」


歯に衣着せぬ言い方に、近くで椅子の動く音がする。

他人の不幸、特にいけ好かない筆頭魔術師の不幸など、いい酒のつまみだ。

だが少し酔っていたのかもしれない。一般的な意見が聞きたくなった。


「………女性を喜ばせるにはどうしたらいいと思う?」

小さく呟いたのだが、遠くで吹き出した奴がいた。魔法で聞き耳を立てているのか?悪趣味なヤツめ…


「媚薬でも仕込んじまったらどうですかね?」

普通の音量であっさり言った給仕係に、周りにいた者が一斉に吹き出し、むせかえって涙を流している奴までいる…

ヴィルヘルムは一気にワインを流し込み席を立った。


イライラしたまま家に戻りたくなくて、用もないのに執務室に戻る。

立体マップのソフィア人形は、まだ王城だ。


だったら仕事でもするか…と思いつつ

『問題の先送り』とフリードリヒに言われたのを思い出して頭を掻きむしる。

そして引き出しの奥にしまった小箱をふたつ取り出した。




ヴィルヘルムは中毒事件の後、アカデミーのビルングを訪ねていた。

通された部屋で待っていると、やってくるなり机に置かれた飴玉の瓶を見て、

奴はこう言った。


「なんだ、もうバレてしまったのか?」

「薬物がアカデミーで取引されていたんだぞ。教師としてどうなんだ!」

噛みつくように言ったが、ビルングは全く動じない。


「これはほとんど嗜好品だろ?薬物という程の薬効はない」

「だが自白剤と同じ成分が…」

「恋の総合感冒薬だよ。少しのぼせて、口と心が軽くなる。酒やカフェインと変わらない。君は彼女にお茶を飲むことも禁じているのか?」


「そうではない。だが問題はそれをサーチ出来ない結界内で与えたという事だ」

「やはりそうか」

「なにがだ!」

「今のは君が位置情報を常に把握し、逐一監視しているという証言だ。

犯罪抑止と言いながら、君自身が犯罪に抵触している!」

「……………」


コイツは以前からこういうヤツだった。

だが、まさか7年も前の事を、未だに根に持っているとは思わなかった。


ビルング家は、代々腕のいい魔術師を輩出する名門で現当主も魔法省の大臣だ。

血筋がものを言う貴族の世界では世襲制が一般的で、ビルングも当然のように魔術科にいた。

むしろ法学科に行くべき俺が魔術科にいたのがイレギュラー。

そして魔法実技で常に次席だったことに逆恨みして、当時からチクチクと嫌味を

言っていた。


「…………お前は昔から、何かというと俺に絡んできたもんな…

だが、ソフィアを巻き込むのはやめてくれないか?大事にしたいんだよ」


「巻き添えを食らったのは私の方だよ」そう言ってビルングは左足を軽く叩いた。


アカデミー卒業後、お互い戦地に送られたが、大規模展開させた攻撃魔法に巻き込まれて膝から下がなくなったと聞いた気がする。


「君は魔法しかなかった私に医学という新境地を教えてくれた。その点は感謝している。だが残念ながら失ったものは戻らないんだ」


そしてビルングは意味深に笑うと

「お詫びにこれをあげよう」と白衣のポケットから箱を出した。


「上級者向けの恋の総合感冒薬だ。

ヴェッティン弟にあげる予定だったが君が病院送りにしてしまったようだからな」

「貴様、またこんなものを!」


「バウワー先輩に賭けを持ち掛けたんだが、どちらもヴェッティン弟に賭けてしまって成立しない」

「あの変人までアカデミーにいるのか⁈」


「ソフィア嬢の生産学科担当だよ。君は本当に何も聞かされていないんだね。

まぁ、束縛男を信用しろというのもおかしな話か…」

完全に小馬鹿にした顔に苛立つと、ビルングはむりやり薬を握らせた。


そして耳元で

「これがあれば君にも勝機があるだろう。どうか私を勝たせてくれ。

もちろん私はヴェッティン弟に賭けるがね」


いうだけ言って部屋を出ていこうとするビルングに、研究室の結界を解くように言うと

「子供相手にその程度も許せないとは、器からしてヴェッティン弟の完勝だな。

掛け金を上乗せするとしよう」と手を振って行ってしまった。


思い出し怒りで机を殴りつけると、総合感冒薬の箱が馬鹿にするように跳ねて転がった。




「おかえりなさいませ、ヴィル様。遅くまでご苦労様です」

「あ…うん…」

疑うことなく言われると、今更ながら遅くに帰宅する罪悪感を感じる。


「軽いお夜食も用意していますが、先にお風呂になさいますか?…ヴィル様?」

「……あぁ」


思わず口元を抑えて顔をそむける。

セリフだけ聞くと実はもう結婚しているんじゃないかと錯覚したくなる。

そんな事実はまったく無いのだが…


「その…ソフィ、いつもすまない…これ…」

思い切ってポケットから箱を取り出すが、出てきたのは総合感冒薬。


『おまえじゃない!』咄嗟に床に叩きつける。


「どうされました?お加減が…」

「いや、その……今日も変わりはなかったか…?」

誤魔化そうとしたのがまずかったらしい。ソフィアの笑顔が急に引きつった。



「お城でホールのお掃除をしておりましたら、いきなり壺が爆発したのですが…

なにかご存じではありませんか?」

「い、いや………………知らない」

「さようでございますか」満面の笑顔が怖い。


少し前まで…少なくとも公爵家にいた頃までは、疑うなんて事はしなかった。

学習することは素晴らしいが、そんな急いで覚える必要はないのに…


「…とあるご令嬢に言われたのです。惰性で居座るなどもってのほかだと」


…………それは……俺の事…か?

足元がグラついた気がした。


「ですから、私…」

それ以上聞きたくなくて、魔法で眠らせてしまった。


「そのままでいいんだ。何も覚えなくていいから…………俺のとなりにいて…」

そう懇願するとソフィアは腕の中で静かに目を閉じた。ヴィルヘルムはただソフィアを抱きしめることしか出来なかった。


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