表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第二章 アカデミーの伏兵編
18/27

第18話 まさかのリピーター

授業初日。

騎士科実技の授業では恒例のバトルロイヤルが行われていた。


地面が揺れるほどの怒号に、ぶつかり合う金属音。肉だが骨だかが潰れる音に、

崩れ落ちる音…


「見てられぬのなら無理をしなくてもよいぞ」

アワアワしていたら、騎士科実技担当のギュンター教官が少し気の毒そうな顔をした。


生徒達と比べたら、ふたまわりも小さい柔和な老人だが、太い腕や節ばった手が

ここに居るべき猛者であることを証明している。


「すみません、参加を希望しておきながら…」

「まぁ、軍属の家でもなけりゃぁ、お嬢さんは寄りつかない所じゃからな。

じゃが、嬢ちゃんの護衛は体捌きが見事だ。体が小さい分、確実に急所を捕らえておる」


ヒスイはメイド服の下に隠していた連結式の金属棒で、手足が長くなったのかと

錯覚するほど自在に攻撃を繰り出している。見慣れた姿なだけに違和感が凄い。


お屋敷では身軽さを生かしてよく高い所の掃除をしていたけど、もしかしてモップはそのため?

公爵家で戦えないのも私だけだったりするのだろうか?


「確かに護衛につけるとは言われたのですが…まさかこんなにお強いとは…

私も知りませんでした…」教官はその言葉に眉を上げた。


「余程じゃな、そのアミュレットをよこしたヤツは…」

「コレ、分かりますか?」

お守りと言って渡されたネックレスの石をすくいあげる。

魔力の強い人には黒い怨念のようなエフェクトが見えるらしいソレを、

教官は眉根にシワよ寄せながら眺めた。


「防御と破邪と認識阻害…たぶん他にもついとるな。

とにかく術式が幾重にも、気持ち悪いほど重ね掛けしてあるわい。

攻撃も弾きそうじゃから試しに行ってきたらどうだ」と乱闘会場を指差す。


「ご冗談を」と苦笑いすると

「もちろん冗談じゃよ。アミュレットに威圧を込めた本人に出て来られちゃかなわない」

「威圧…」

確かに見えるように身につけろって言われたな…

製作者の瞳によく似た石は、有無を言わせぬ印象でこちらを睨む。



そこに幼さの残る大柄な青年が、少し緊張した面持ちで近づいてきた。

「どうした?レオ」

「ちょっと、その子に話があって…」

「なんじゃ?言ってみろ」と何故か教官が答えた。


「その…ふたりで話が…」

「護衛をつけてるようなお嬢さんと、盛りのついたサルを一緒にすると思うか?」

「はぁあ⁈」

レオと呼ばれた青年は真っ赤になってしまった。


「だいたいお前にそれを許したら、他にも同じ事を言ってくる奴が出てくるじゃろう。それでもと言うのなら…」


するとギュンター教官は大きな声で叫んだ。

「レオが勝負に勝ったら、お嬢さんとふたりきりで話がしたいと言っておるぞ!」

その途端に、虎が一斉に振り向いたような殺気がこちらを向いた。

そこにはヒスイも含まれている。


「全員倒したら三分許可する」

レオは野球部かよとツッコミたくなるような大声でお礼を言い、頭を下げると

呆気に取られている私を置き去りに、雄叫びを上げて走って行ってしまった。


「すまんの。勝手に景品にしてしまって。

アイツらはみんな騎士か兵隊になるから目的を持たせておいた方がいいんじゃよ」

「目標ではなく?」

「帰ってくると決めた人間は強い」



走りながら練習用の木刀を構えたレオは風を起こし上空に舞い上がった。

そして文字通り乱戦に飛び込むと、竜巻を発生させ周囲の人間を吹き飛ばした。


「すごい気合いじゃの~」

教官は楽しそうだが気合いだけで、こうはならないだろう…

レオの勢いに押されて戦意を失くす者も居る中、突っ込んで行ったのはヒスイだった。


今迄よりも明らかにスピードを上げて連撃を打ち込むが

空中に現れた小さな光の盾がそれを阻み、間を縫うように剣が振られる。


金属音といくつもの火花が散る中、ヒスイが棍を軸に繰り出した回し蹴りがこめかみに入りレオは膝をついてしまった。


「身の程を知るデス、若造が…」

瞳孔をかっ開いたまま棍を突きつけヒスイはそう言った。

なんだか「です」が「(デス)」に聞こえる。

そういえばヒスイの年齢を知らない。でも聞くのは怖いから黙っていよう。


するとレオは思いもよらぬ行動にでた。

「一分でいいから、話をさせてくれ!」

それはそれは男らしい土下座だった。



「一分じゃ会話にもならないでしょう」と取りなすとヒスイは砂時計を取り出した。

「三分間だけ待ってやるです」

そして右手に棍、左手に砂時計を乗せたヒスイに見守られながら何を言われるかと思ったら、レオは思いもよらぬ事を口にした。


「君、月猫亭に居た()だろ?」

一気に血の気の引いた顔を見てヒスイがレオを殴り飛ばした。


当然、砂時計の砂はたっぷり残っていた。




ヒスイがレオを十字固めで締め上げた結果、レオは私が月猫亭の厨房スタッフだった頃を知っていた。


「君がキッチンに立っていた頃と今とではシチューの味が違うんだ!」

「……よく分かりましたね」


確かに停戦で戻ってきたお客さんの中に心身ともに疲弊して食が細くなっている人がいて、魔法の水を使ったシチューを出していた。

でもお酒を飲む人ばかりだから、お得意さん限定の裏メニューだったのに…


「あれがもう一度食べたいんだ!」

「いいですよ」

そう言うとレオは嬉しそうに顔を上げたが、ヒスイは咎める顔をした。


「その代わり私が働いていた事は伏せていただけますか?」

「もちろん、話さないし事情も聞かない。それに俺は君が厨房専任だった事も知ってるんだ」


「ですが、ご主人様が嫌がると思いますです」

確かにトラブルに巻き込まれたと思われたくはない。


「だったら、あくまで授業の一環として生産学科の調理室を使わせてもらうのはどう?

同じ材料を使って水だけで味が変わるかの実験。

許可が取れてからになるし、レオ様には時間を作ってもらう事になるけど…

それでどうでしょうか?」

ヒスイはしぶしぶ頷き、レオはしっぽを振る幻覚が見えるほど喜んでいた。


「あとさ……様ってガラじゃないから呼び捨てにしてくれないか?

それで俺もソフィって呼びたいんだけど…」


「いいですよ」

全身で喜びを表現するレオを『おっきな犬みたいだなー』と思っていた私は、

背後で慌てるヒスイに気がつきもしなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
ワクワクしときます((o(^∇^)o))
レオの命が心配。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ