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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第二章 アカデミーの伏兵編
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第17話 悪めだち警報

このところ魔法技術の発展が目覚ましい。

必要に駆られた魔術師が、次々とアイデアを出すからだ。

会議に現れたヴィルヘルムは、今日も技術者の目を釘付けにしていた。


「ヴィルヘルム…それはなんだい?」

フリードリヒは額に手をやりながら目の前の大作を眺めた。


「地形データから縮尺した立体マップを作ってみました。

対象の位置がより確認しやすくなり、制圧の際も有効です」


「これアカデミーだろ!対象は彼女か?」

「狙撃ポイントを決める際にも役立ちます」

「君が撃ち抜かれた側だろうが!」


「さらにこちらをご覧ください。

移動する対象を中心に描かれた円の中に人が入ると表示され

半径5メートル以内に複数回立ち入った不審者は自動でロックオンされます」


「なにその技術の無駄遣い!」


「殿下、これは凄い技術ですよ。平面図より格段に解りやすい!」

技術屋さん達が立体マップを取り囲み盛り上がる中、

褒められて満更でもないヴィルヘルムにそっと近づく。


「やはり君の暴走を止められるのはソフィア嬢しか居ないようだ。

いったい何時になったら紹介してくれるんだい?」


「残念ながらお披露目できるほど、人に慣れておりませんので」

「希少動物の赤ちゃんじゃないんだよ!

君をそこまで変えた相手にお礼が言いたいだけなんだ」


私なら恋人を自慢したいところだがな…

チラリとヴィルヘルムを見るが表情も変えずに技術者達を見ている。


「しかし…本当の事を言えば、何か隠しているのではと疑ってもいる。

君だけではなく、公爵家として匿っているのは、いくらなんでもやりすぎじゃないか?」


「幸い、母のお気に入りになりまして」

「普通の娘ならそれで済むんだがな…」

するとヴィルヘルムは急に真顔になり眉間に皺を寄せた。


見ると、半径5メートル以内に複数回立ち入った不審者が次々とロックオンされていた。




建物に入る前から、なんとなく視線を集めている気はしていた。

アカデミー全体の男女比はほぼ同じだが、その中で断トツで男性の割合の多い騎士科は、圧倒的に大柄な人が多い。

その中を小柄なヒスイが、人の波を割るように我が物顔で進んでいく。


「ヒ、ヒスイ待って…」慌ててローブの裾を掴むが止まらない。

「居心地が悪いのは解るです。だから声を掛けられる前に、早く用を済ませるです」


珍妙な客に道を開ける大きな人たちは、好奇心旺盛な視線を惜しみなくそそぐ。


なんだろう。アリの行列を座り込んでガン見してる子供のような視線?

おかげで益々顔が上げられなくなってしまう。


今まで下を向いて生きてきた私は、顔を上げるのが何より怖い。

それは今まで見ずに済んでいたモノを直視する事に他ならないからだ。


さらに舞踏会の夜に追いかけられてから、体の大きな男性に急に近寄られると緊張で硬直してしまうようになり、ヴィル様にも気を使わせてしまっている。

それなのに私たちが向かう方向に、壁のように大きな人たちが一緒に移動していませんか?


ローブを掴まれながらズンズン進むヒスイと、引きずられるように必死についていくソフィア。

それになんとなく付いていくデカい人たち。奇妙な行進は教務室まで続いてしまった。


騎士科のおまけ参加は想像以上にアッサリ許可されたのだけど、その後が悪かった。

退室しようとドアを開けた途端に、廊下で立ち聞きをしていたデカい人達が雪崩れ込んできたのだ。


「ヒッ!」

「いい加減にしやがれです!」

そしてついに、それまで我慢し続けたヒスイがブチ切れて生徒たちを蹴り飛ばしてしまった。


慌てて謝ったのだけど、むしろ教官たちはヒスイの身体能力をいたく気に入り

さっそく翌日から、鳴り物入りで騎士科に参加することになってしまったのだった。



逃げるように騎士科を後にして、次に向かった先は生産学科。

ハーブと蜜蝋で塗り薬を作っていると話したら、やはり薬医学科を勧められ紹介状も書いてもらった。


「これ…本当に効率的にまわらないと、移動だけで時間がなくならない?」

「そんな時こそ札束ビンタ」

「それはなし!」代わりに馬車を使って駆け回る


ゴリゴリの騎士学科、ほんわかな生産学科、そして薬医学科は冷たーい感じで

オプションかな?ってくらいメガネ率が高い。

かくいう私も伊達メガネだけど、人の顔を覚えるのが大変そうだ。



薬学科の学務主任に紹介状を渡すと、症例をまとめてみてはどうかと言われ、魔法の水にすごく興味をもってくれた。


もしかしたら水の秘密が解るかもしれないけど、アカデミーに居る人の中でも、

屈指の魔力量の少なさだと笑われ、魔力の強さがステータスの魔術師の前では水の話はしない方がいいと言われてしまった。



その後、薬学科では魔法の水の話がちょっとした話題になっていた。


「そもそも魔法で出した水をどうやって集めるのですか?」 

「それが魔力が少なすぎて形作ることもできずに、バシャっとこぼれてしまうんだ。

魔力量というよりコントロールを学んでこなかったのかな?

ゆえに攻撃性はないが、水自体が肌荒れや火傷の治療に使えそうなんだよ」


「……ヒース子爵令嬢ですか…あの家で医療に秀でた者の話は聞いた事がないが…」

「編入生な所を見ると最近認知された庶子だろうね。

どうもダールベルク公爵家が後見についているようで、ひょっとしたらご子息の

婚約者になるんじゃないかと言われているそうですよ」


「…………ダールベルクの?」

話半分に聞いていた若いメガネが振り返った。


「そういえばビルング准教授は宮廷魔術師のダールベルク氏と歳が近いんじゃないですか?アカデミー在籍期間がかぶっていたりとかは?」


「そうですね、見知っている程度ですが…」


その後も尽きない教諭達の話を聞きながらビルングは

「…そう、ダールベルクの……」と呟いていた。


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