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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第二章 アカデミーの伏兵編
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第15話 やきもちと春の嵐

長い冬が終わり春到来、なのに王城の一画ではブリザードが吹き荒れていた。


「本当だ。聞きしに勝る迫力だねー」

「フリードリヒ殿下!危険ですのでお下がりください!」


「私は護衛(きみ)達も、開発部のパワーシェルターも信じている。

信じられないのはあの男の行動原理だけだ!」

開いたままのドアからは冷気がダダ漏れていた。


自分が立っている場所は温かな王城の庭なのに、扉の向こうの執務小屋(プレハブ)はまるで

異世界だ。

そして言わずと知れた発生源は幼馴染のヴィルヘルムである。



かつて不機嫌はこの男を指す言葉とさえ言われていた。

子供の頃のお茶会で初めて会った時、皮膚炎を患っていると聞いてはいたものの、

包帯まみれの姿は異様なものを感じた。


そして誰もが王族である私に媚びへつらう中、コイツだけが世界の全てを恨んで

いそうな顔をしていて、遠慮のない子供達は「呪われている」とヒソヒソと悪口を連ねていた。


だが皆が嫌厭(けんえん)する中、絆創膏まみれのロルフだけは違う反応をし、

ヴィルヘルムを指差して叫んだ。


「お前!その包帯の下に魔力を隠しているだろう!」


『なんだソレ、カッコいいな…』そう思ったのは私とロルフだけで、

気がつくとそれ以外の子供達に物理的な距離を取られていた。



だが離れたかと思えば、すぐにまた擦り寄ってきた。

子供達は王族と仲良くしろと親から命じられているからだ。

やりたくなくてもやらなきゃいけない。それは貴族の義務である。


王子の仮面をつけて分け隔てなく微笑んで、

興味のないドレスや菓子の話ばかりで欠伸を噛み殺していると、

ふと視界に入ったヴィルヘルムが腕を掻いていた。


観察するとソレは、私がくだらないと思った話ほど如実に反応する。

『コイツも同じ事を考えている』そう思うと胸がすく思いがした。



呪いだと言われていたが話してみれば何のことはない、

不機嫌な態度はただ皮膚炎の痒みに耐えていただけだった。

何かに集中すれば痒みを紛らわせられると

当時から魔法に興味を持っていて、魔力もすでに大人顔負けだった。


そんな感じで今まで魔法にしか興味を持たなかった男が皮膚炎を治療してくれた

少女に恋をして、この有様である…



「いやー、清々しいほど迷惑だよ、ヴィルヘルム。魔法棟を追い出されてなおソレか…」

ソフィア嬢と出会ってから、やり場のない思春期のような魔力暴走で器物破損を

繰り返したヴィルヘルムはついに魔法棟を追い出された。


シェルター作成に至ったのは危険極まりないという理由と、技術開発部が実証実験をしたがったからだ。そして許可を出したら半日で出来た。

マイヤー技術開発部長は「二軒目は手慣れたものだ」と言っていた。


「そろそろお昼だ。愛妻のランチが待っているのではないか?」

「…………まだ…妻じゃない…」

ヴィルヘルムがつぶやくと、冷気が静まり花が咲いた。


「呼びかけに反応したって事は集中力が切れたんだろう?休憩の頃合いだ」

そう言われてヴィルヘルムもやっと羽ペンを置く。

デスクの上では書類が凍えていた。


「そういえば聞いたかい?財務大臣が重要書類にうっかり紅茶をこぼした話」

「いや」

「水分を含んだ途端、凍えた書類が粉砕したらしくてね、暗号文書に流用できないかって技術開発部で盛り上がっている」

「水をかけると砕ける?おもしろいな」

「だろう?

ちなみに砕けた書類は君の所の予算だ。次は凍りつかせる前に提出してくれ」

ヴィルヘルムの眉間に割れそうなほど深いシワが寄った。




冷気の籠った執務室からしぶしぶ出てきたヴィルヘルムだったが

用意されたティーカップに持参した紅茶を注いだ途端に、春の雪解けのような表情を浮かべる。


「誰だ、お前?」

「なにか?」

「いや、人間こうも変わるものかと思ってね」

両極端でなく、どうにか間が取れぬものだろうか…


「君のおかげで色々なものが実用化された。

パワーシェルターに始まり、凍らないインク、簡易式転移ポータル、

探索魔法を練り込んだ繊維は、捕虜の逃亡防止に役立っている。

そして今度は魔除けのアミュレットだと?」


「趣味の範囲です。迷惑はかけません」

「それを許すとソフィア嬢に迷惑がかかるだろう?」

「公爵家の財力を持って取り組んでおります」

「それ、後で売りつける気だろう。一番嫌なヤツじゃないか!」


最初はヴィルの暴走だけだった。

だが舞踏会の夜にソフィア嬢が公爵家に保護され、公爵夫妻が身の上に同情したとかで、更に包囲網が厚くなってしまった。


「アカデミーに通うソフィア嬢に持たせるつもりなんだろ?」

「俺はまだ承諾していません」


「でもヴィルも、人慣れさせた方が良いと思ってるから用意しているんだよな?

公爵夫人になれば、人付き合いは避けて通れないんだ。同世代の友人を作る良い

機会だと思えばいいんだよ」

するとヴィルヘルムは暗い顔をして笑った。


「……最近…家令のトーマスと仲がいいんです」

「ソフィア嬢の事だよね?家令は許そうよ…たしかご高齢だったよね?」


「それだけではないんです!彼女は一年も前に若い男にプロポーズまでされていた!」

「若いってどれくらい?」

「九歳です」

「一桁は許してあげようよ。きっともう忘れているよ」


「クルトを侮ってはなりません。ヤツは俺たちよりソフィと歳が近いのです」

あらためて言われると、ヴィルの方がマズいのではないだろうか…


「ですから破邪守り(アミュレット)を入学までに完成させないと…」

「なるほど…ではソフィア嬢はアカデミーに行きたがっているんだね」

言った途端にヴィルヘルムが固まった。


この男、職場では不平を垂れ流し放題なのに

ソフィア嬢の前ではしっかり保護者(ズラ)をしているようなのだ。

本来なら逆のような気がしないでもないが…


「私達も学生生活を楽しんだだろ?経験は無駄にはならないさ」

冷たい風が吹き、春の花が寒そうに震えていた。


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