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家出公爵様がお帰りになりません  作者: 虚夢想
第一章 捜し人編
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第13話 ヤドリギの祝福

国の中枢を支え、度重なる困難を乗り越えてきたダールベルク公爵だったが、

今回に限っては全くの後手にまわってしまっていた。


式典は無事に終わったが、会場周辺はヴィルヘルムが吹っ飛ばした木材で一部道路が封鎖され、夜通しの撤去作業が決まり、問題を起こした者たちは騎士団に連行された。

主犯の男はすでに退職が決まっており、人手の足りない式典を最後に職を辞する筈だったらしい。


そして既にヴィルヘルムが市井の娘を振り回しているというウワサを掴んでいた

貴族達に、詳細を聞かせろと揉みくちゃにされた。



「国内最強の魔術師が魔女に魅了魔法をかけられたって、あれヴィル坊なんだろ?」

「声を抑えてください、ヴェッティン騎士団長」


「それであの朴念仁を篭絡した魔女はどちらのお嬢さんなんです?」

「詳細どころか息子が捕まらんのですよ。シェーファー魔術師団長」


「囲い込み方が犯罪者じみてるんで、早急に止めた方がいいですよ」

「いっそ捕獲機をつくってください!マイヤー技術開発部長!」


騒ぎが大きくなるなか、面白半分に揶揄われ、這々(ほうほう)(てい)で帰ってみれば、

反省するどころか未だに怒りが収まらず、ソファでふんぞり返る息子と対面する

ことになり、疲労はピークに達していた。



「ヴィルヘルム、お前はあの娘を…」

「妻にします。身分の問題があるなら側室でも構いませんが、その場合本妻は娶りません。爵位も養子に継がせます」

食い気味に一気に言われてしまった。そしてガンとして譲る気がない。


「いや、本妻で構わない。教育は受けてもらうがな。

そもそもあの容姿でそれは出来ない…って何故睨む!お前が怒られる立場なのだぞ!」


「年配の使用人がこぞって言ってましたよ。あの娘はエリーザベト様の生き写しだと」一口お茶を含むと妻はため息を吐いた。


「その方は…」

「先帝の妹君で、すでにお亡くなりになっています。

あの子は先代王弟の血を引いた娘で、母も養父も貴族。王家が手駒に…

…させませんから落ち着きなさい!」

魔力が漏れ出してテーブルのティーカップがカチャカチャと音をたて、棚の本も

倒れた。


湿疹のせいで子供の頃から常に不機嫌そうではあったが、こんなに感情を露わにするタチではなかったはずだ。


「あの娘に絆されてから何度魔力暴走を起こす気です!恥を知りなさい!」

頭ごなしに叱られてバツが悪そうにする姿など…子供の頃ですらなかった気が

する。とにかく何を考えているのか解らない、不気味な子供だった。


するとお茶のおかわりを運んできたメイド長のベリルが

「以前、隠れて子猫の世話をなさっていた時とそっくりでございますね」と微笑んだ。

「確かにありましたな」

家令のトーマスも嬉しそうだが、妻は頭を抱えている。


あの時も屋敷を抜け出そうとするわ、湿疹は悪化するわで、原因が分かるまで大騒ぎだった…と。

確かにそんな事を聞いた気もする。



「とりあえず怪我が治り次第、お嬢さんを紹介してくれ。

フリードリヒ殿下からも婚約を進めるようにと言われているし、あの容姿を知られる前に公爵家で抑えるべきだ」


「婚…」

「妻にしたいのだろう?」


望む方向に話を進めているのに、真っ赤になったヴィルヘルムは何故かのぼせて、頭から湯気を立てている。


「…………ヴィルヘルム…念の為に確認しますが、彼女は結婚に同意してくれているのよね」

妻が言い終えた途端に閃光が走った。

気がつけば息子はトーマスとベリルが作った魔法障壁の中で、ソファと共に爆散していた。


「待って!同意なし?ストーカー男と一緒‼︎」妻の絶叫を聞きながら

「ネコの時と同じですね」と笑顔で見守るトーマスとベリルに、引きつった顔を

向けるしかなかった。



ヴィルヘルムを部屋に帰し、明日は陛下に詳細を伝えなくてはと寝支度をしながらゲッソリしていたのだが、息子の暴走はまだ終わっていなかった。


「ヴィルヘルム様がいらっしゃいません!お嬢様と一緒に姿を消しました!」

トーマスはそう叫んだが、もうお腹いっぱい過ぎて「明日聞くから」とベッドに

入り布団をかぶった。




微睡(まどろみ)に囚われながら、僅かに目を開けると温かな腕の中でヴィル様の香りに包まれていた。

夢じゃないかと疑いたくなるほど幸せな朝だ。

そして寝ぼけたフリをして胸にもたれると、そのまま抱き寄せられた。


「………起こしてしまいましたか?」

「いや…夢見が良すぎて起きたくないな…」

「どんな夢だったのです?」

すると、うっすら目を開けたヴィル様は髪を撫でながら


「毎朝目を覚ますと、ソフィが腕の中で幸せそうに眠ってるんだ」と言った。


「……私もそんな夢を見てみたいです」と伝えると

「現実にしてもいいか?」と頬を撫でられた。

「望んでくださるのでしたら」


ヴィル様が優しくキスをするその頭上には、天蓋に引っ掛けられたヤドリギが見えた。

嬉しくて首に手を回すと安心させるように、より深くくちづけてくれた。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

甘々な短編が書きたくて筆を執ったのですが、欲がでてしまい、お話はまだまだ続きます。


第二章では

嫡男が初めて興味を持った女性を囲い込もうと公爵夫妻が動きますが、

ソフィアが世間知らずの平民育ちで猜疑心ゼロという三重苦だったので、

社会経験を積ませるためにアカデミーに通うことになります。


心配のあまり奇行に走るヴィルヘルムと、のんきに学園生活を楽しむソフィア。

そして過去を知る者が現れる。そんな内容になっております。


よろしければ引き続きお楽しみください。

ここまで読んでくださったことに、心から感謝します。

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