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ep 4

二人の王、月下の誓いと未来への種

獣王国ベスティア、月明かりが照らす静かなバルコニー。同じ日本から、しかし全く異なる運命を辿り、異世界の「王」となった二人の青年、佐藤太郎と獅子田怜央レオは、初めて互いの素性を明かし、そして、それぞれの胸に秘めた想いを語り合っていた。レオの壮絶な過去、そして平和への切なる願い。それを受け止めた太郎は、彼に、そしてこの混沌とした世界に、新たな道を示すことを決意していた。

翌日。場所は、ベスティアの王城(まだ質素だが、力強さを感じさせる)の一室。そこには、太郎国の主要メンバー(ライザ、サリー、デューク、フェリル、フレア、サクヤ、ヒブネ、ヴァルキュリア、ピカリ)と、獣王国ベスティアの首脳陣(レオ、マリー、カーシャ、そして陸獣将ラオガー、空獣将エージュ、海獣将リオン)が、緊張した面持ちで顔を突き合わせていた。二つの国の、歴史的な会談が始まろうとしていたのだ。

最初に口を開いたのは、太郎だった。

「獣王レオ殿、そしてベスティアの皆さん。昨夜、レオ殿とは個人的に話をさせてもらった。そして、僕は決めた。これ以上、このゼステリア大陸で、人間と獣人との間で、無益な争いが続くのは見過ごせない、と」

太郎は、集まった全員を見渡し、力強く宣言した!

「まず、全ての国に対し、現状の戦闘行為の即時停止を求める! 我が太郎国が、その仲裁に入り、今後一切、武力による紛争を禁じる! これに異を唱える国があれば、我が国は、それを『平和への挑戦』とみなし、断固たる措置を取ることも辞さない!」

その言葉は、穏やかでありながらも、盟主国としての、そして世界の秩序を守るという、絶対的な意志と力を感じさせるものだった。ゼステリア三国(使節団は、まだアステリアに滞在中だ)がこの決定を聞けば、おそらく反論はできないだろう。

レオは、静かに、しかし深く頷いた。「…分かりました、太郎王。その言葉、信じましょう。もし、真に人間たちとの間に平和が訪れるのであれば、我が獣王国ベスティアは、これ以上の武力行使を望むものではありません。…ラオガー、エージュ、リオン、良いな?」

王の言葉に、三人の将軍たちは、顔を見合わせた。ラオガーが、少しだけ不満げに、しかしレオへの忠誠を込めて答える。

「…は、はい、レオ様。人間たちが、二度と我らに牙を剥いてこないのであれば…」

エージュとリオンも、静かに頷いた。

「ありがとう、レオ殿」太郎は、安堵の表情を浮かべた。「だが、ただ争いをやめるだけでは、本当の平和は訪れない。大切なのは、互いを知り、理解し合い、そして交流を進めることだ。閉鎖的になるのは、決して良い結果を生まない」

太郎は、そこでニヤリと笑って続けた。

「例えばさ、もっとこのベスティアの国を、他の国の人たちが『訪れてみたい!』って思うような、魅力的な場所にしてみないか? 素晴らしい観光名所を作ったり、皆が楽しめる娯楽施設を作ったり、そして何より…とびきり美味しい名物料理を生み出したりさ!」

その提案に、レオも、マリーも、カーシャも、そして獣人の将軍たちまでもが、きょとんとした顔をしている。

太郎は、おもむろに【100円ショップ】スキルを発動! 取り出したのは、真新しいサッカーボールと野球ボール、そしてプラスチック製のバット

「これは…!?」レオの目が、驚きに見開かれた。「サ、サッカーボールと…野球の道具じゃないか!?」彼もまた、日本の記憶を持っていたのだ!

「うん!」太郎は頷く。「こういうのでさ、皆で一緒に汗を流して楽しんでれば、自然と人も集まってくるし、言葉が通じなくても、なんとなく心が通じ合えるもんだと思うんだよな! どうだ、ベスティアで、スポーツ大会でも開いてみないか?」

その、あまりにも平和的で、そして楽しそうな提案に、レオの顔にも、久しぶりに、心からの笑みが浮かんだ。

そこへ、サクヤが静かに一歩前に進み出た。

「太郎様、レオ様。もしよろしければ、わたくしからも一つ、提案がございます」

彼女は、ベスティアのマリー、カーシャ、そして空獣将エージュに向き直り、料理人としての、純粋な好奇心と敬意を込めて言った。

「マリー様、カーシャ様、エージュ様。わたくし、皆様の国、獣王国ベスティアの、伝統的なお料理や、独自の食材に、大変興味がございますの。もし、ご迷惑でなければ、その素晴らしい食文化を、わたくしに見せてはいただけないでしょうか? そして、願わくば、共に新しい料理を創造する、そんな機会をいただければ…」

サクヤの真摯な申し出に、マリーは少し頬を赤らめながらも、嬉しそうに頷いた。

「は、はい! もちろんです! 私たちも、サクヤさんのような素晴らしい料理人の方に、ベスティアの味を知っていただけるなんて、光栄ですわ! こちらへどうぞ! 厨房へご案内します!」

カーシャとエージュも、サクヤの熱意に心を動かされたのか、笑顔で頷き、マリーと共にサクヤを厨房へと案内していった。女性たちの間には、もう国境も種族も関係ない、美味しいものへの共通の情熱が芽生え始めていた。

その光景を眺めながら、太郎は満足げに呟いた。

「うん。なんだか、すごく面白くなってきたじゃないか」

レオもまた、その顔には、これまでにないほど穏やかで、晴れやかな表情が浮かんでいた。

「……ありがとう、太郎さん。君が来てくれて、本当に良かった…」

二人の王の間に、確かな信頼と友情が芽生えた瞬間だった。

さつまいもが繋いだ縁、そして飴玉が溶かした心の氷。今、二人の王は、スポーツと、そして何よりも美味しい料理を通じて、人間と獣人との間に、新たな平和と共存の道を、力強く切り開こうとしていた。

その道のりは、決して平坦ではないだろう。しかし、彼らの心に灯った希望の光は、きっと、どんな困難をも照らし出し、未来へと導いてくれるはずだ。第五章、月満ちる100円の勇者。その物語は、今、まさに、新たな、そして希望に満ちたページを開いたばかりである――。

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