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3話 幼馴染みがマッチョになっていました

やっと幼馴染みが登場します……しかも後半に。

そして4話で終わる予定です(笑)


怒涛の展開でマッチョな『パパ』が出来てしまった私。

前世の日本人の父に未練がないわけではないが、それはそれ。

マチョ村は欲望に忠実な人間なのである。

家族ならば、もはや父の筋肉は私の筋肉も同じ――だと思いたい。

いや、思おう。


さて、いつまでも寝ているわけにはいかない。

重病人か、はたまた大怪我でもしたかのような騒ぎになってしまったが、実際はたんこぶ一つこさえただけで、あとは前世の記憶を取り戻したことによる浮かれポンチに他ならない。

興奮しすぎていまだおかしい自覚はあるが、筋肉熱中症を万年発症しているマチョ村にとっては、これがノーマルなのである。

さっさと仕事に戻らなければ。


洗濯はホセが続きを干してくれて、すでに乾いていた。

竿も新しくなっていた。

午後から仕事へ行った彼にはあとでお礼を言っておこう――などと思いつつ、あらかた母が作ってくれていた夕食の仕上げにとりかかったのだが。


ここは筋肉レストランなの?

焼肉レストランならよくあるけれども。


倒れた私を案じたのか、パパ(仮)である団長自らが調理場を手伝いだしたせいで、部下の騎士たちまでもが狭いキッチンへ流れ込んできた。

おしくらまんじゅうの夢はなんと予知夢だった!


「ここは私とカレンでやりますから、皆さんは休んでいらして。ね、カレン……って! 大丈夫? ぼーっとしちゃって全然進んでないじゃないの」

「……ああ、ごめんごめん。すぐにやるから」


母に怒られ、中断していたサラダの盛り付けに意識を向けるが、その手はすぐに止まってしまった。

なぜなら、お皿を手渡してくれたり、向こうでスープを混ぜていたり、オーブンの前でしゃがんでいる騎士たちの筋肉が目に入って作業に集中できないのだ。

前を横切られるだけで気を取られてしまう。


もう! これじゃあ全然仕事にならないじゃないの!

そうか、筋肉って業務妨害になるんだ。

マッスルハラスメント、略してマッハラ!


完全に自分が悪いにもかかわらず、馬鹿なことをつらつら考え、視線はキョロキョロと挙動不審な私。

こんなに様子がおかしい私に対しても、騎士のみんなの目は優しい。

どうやら団長の一言のせいか、本気で反抗期が終わったばかりの難しいお年頃だと解釈されたらしい。


いやいや、それは無理があるでしょうが。

反抗期が終わった途端に筋肉に反応し始める女子なんていないって。

でも本当のことも言えないからこのままでいいか。


ということで、筋肉嫌いだったはずのカレンから、マッチョ大好きマチョ村への移行は周囲に不信感を抱かれることも無くスムーズに終了した。

マチョ村の自我が受け入れられて一安心だが、翌日、さらにマッチョが増えることをこの時の私はまだ知らなかった。


◆◆◆


マチョ村の自我が芽生えた翌日、騎士団寮に新人騎士がやってきた。

必ずしも寮に入らなければいけないシステムでもないので、今回入寮するのは一人だけだという。

新人を連れ帰った団長が談話室に全員を集め、まだ若い騎士の紹介を始めた。


「今日からここで共に暮らすマットだ。まだ十六だが、なかなか有望な男だぞ。皆、よろしく頼む。マット、他の騎士は徐々に覚えてもらうことにして、とりあえずこの寮の家政婦を紹介しよう。よく教えてもらえ」


騎士は、遠征時に簡単な炊事、洗濯が出来ないと苦労する為、新人騎士は寮で家政婦の手伝いをしつつ、家事を身に着けることが多かった。

よって、ここ数年の間に入ってきた新人騎士とは必然的に共に過ごす時間も長く、気心がしれているのである。

ホセもその一人だ。


気付けば、団長が「俺の妻となる予定の――」などと母を紹介したせいで、場が荒れている。

仕事は出来るし剣の腕もいいのだが、困った人だ。


「団長、それが言いたかっただけっすよね?」

「おいマット、あくまで予定で未定だから! スルーして!」

「お前ら黙れ!」


騎士に揶揄われ、レオナードが青筋立てて怒っている。

彼らにとってもうちの母は身内同然なので、レオナードにとられるようで悔しいのかもしれない。


やれやれ、パパってばすっかり浮かれちゃって。

新人くんがほったらかしじゃないの……って、なんだか新人くんにめっちゃ見られているような。

あれ? 彼ってどこかで……?


じっとこちらを凝視する新人騎士が、カレンの記憶に残っていた少年の思い出と結びついた


「あーーっ、マットってあのマット!? なんで騎士になっているの?」

「やっと気付いたか。遅いんだよ」


新人のくせにふてぶてしく腕を組んで溜め息を吐くマットは、確かに昔の面影が少しだけ――いや、ほとんどないじゃないか。

気付けっていうほうが無理だろう。


「そんなこと言ったって、昔のマットはヒョロヒョロで色白だったじゃない。背も私より小さかったし。そんなムキムキでノッポじゃなかった!」

「悪かったな、ムキムキで。俺だって好きでこんな風になったわけじゃない。鍛錬したら、筋肉がつきやすい体質だったんだよ」

「全然悪くないわよ。むしろ最高! ご馳走様です」

「は? だってカレン、鍛えた男は嫌いだって昔言ってたじゃないか」

「そんなこと言った? 嫌いどころか大好物だけど」

「はぁぁ?」

「なによ?」


いつの間にか言い争っていた私とマットを、揉めていたはずのレオナードたちが不思議そうに見ている。

私はマットのことを彼らに説明することにした。


「マットとは昔お隣さんだったんです。ここにお世話になる前の家で。まあ、マットは次男とはいえ子爵家のおぼっちゃんだし、彼は私の一つ下なんですけどね。幼馴染みってやつです」

「懐かしいわね。すっかり立派になって。ご両親はお元気?」


母が嬉しそうに話しかけ、マットも朗らかに答えている。


マットったら随分社交的になったじゃないの。

前は本が好きで、全然喋ってくれなかったのに。

でもいつも私の後を付いてきて、可愛かったんだよね。


騎士爵を与えられていたカレンの父は、かつて王都に屋敷を構えていた。

そこがたまたまマットの家の隣だったのだが、父の死によって爵位を返上し、私たち母子は騎士団寮へやってきたのである。


久々の再会なのに、私はしっくりこないものを感じていた。

それは私がマチョ村だからなのか、それともマットがあまりにも変わってしまったからなのか――


「ねえ、マッチョ。あ、間違えた、マット」

「どんな間違え方だよ! わざとじゃないだろうな?」

「何よ、もういっそのこと『マッチョ』でいいんじゃないの?」

「いいわけあるか!」


思わず『マッチョ』と呼びたくなるほどに、マットはマッチョに変貌を遂げていた。

それも私の好みの筋肉の付き方をしている。

……マットのくせに。


「なんで騎士になっているのよ? 勉強ができたし、てっきり文官になるつもりなんだと思っていたわ」

「俺だって昔はそう思ってたよ。でもカレンが騎士団寮で働いているって聞いたから……」

「私?」

「そうだよ、俺はカレンに会うために騎士になったんだからな!」


ええええっ??

告られた?

私、告られましたか?


……いや、冷静に考えたら会いたかったと言われただけである。

復讐の為に探していたという可能性だってあるわけで。

そんなハードボイルドな展開は嫌だなと思いながら、私はマットのマッチョな体をうっとりと見つめていた。

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