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第12話:新米冒険者

 冒険者になる為の冒険者試験。

 その内容は、簡単な筆記試験と実技試験に分かれている。

 

 筆記試験はいわゆる基礎知識を問うもので、代表的な魔物の名称や、冒険中のトラブルの対処法などが出題される。

 また、実技試験では冒険者ギルド側が用意した課題、主に薬草採取や小型魔物の討伐等を、付き添いの冒険者と共に成功させれば良い。

 加えて実技試験には3日間の猶予が与えられている。


 ──と言うようなことを隣町カルーズへ向かう馬車の中でラドローズに説明した。

 魔王城に引き篭もっていたせいで、冒険者が職業として成り立っていることを知らなかったらしい。


 早朝、屋根付きで藁の敷かれた馬車にはウォーセンの乳製品と共にミルドとラドローズが乗っていた。

 商品運送のついでということで、馬車代は料金はタダである。余談だが、牧場夫婦と親しいミルドはよくこの手法を使っている。


 わざわざカルーズ町へ出向くのは、小さなウォーセンでは冒険者試験を受験できないからだ。

 冒険者試験の開催には複数の条件があり、ウォーセン支部は実績こそあるものの、従業員数が最低基準を満たしていないのだ。


「ふむ、魔王たる妾が落第することは無いだろうが、そもそも受験できるのか?」

「安心しろ。試験は11歳から受けられる」

「そ、そうではない!こういうのは身分証とやらが必要じゃろ。魔族であることがバレてしまうのではないか?」


 ひそひそと声を落としてラドローズは聞く。

 新調したローブで身を隠し、そのフードを目深に被っている。

 一見した限りでは魔族だとは分からないらしいので、ミルドは機動性を優先するべきだと提言したが、それ以前に日光による外傷から守らねばならないとのことで、普段から身に纏うことになった。


「冒険者ギルドの管理は案外お粗末なんだ。フードを被っていようが、身元不明だろうが"資格"があれば冒険者になれる」

「強ければ良いのじゃな」

「ああ、元々冒険者というのは荒くれ者の手綱を握るために出来たという話もある」

「なかなか興味深い話じゃのう……」


 冒険者が急増した昨今、一部では品行方正を求める声が上がっている。しかし、日常的に命の危険が纏わりつく冒険者にそんな余裕は無い。いつだって生き残るのは強い者だけだ。 

 

 ゆっくりと進む馬車の中、目的地までは半分といった所。

 ラドローズは眠そうに目を擦っていた。ウォーセンを出発した時のウキウキ姿はどこかへ行ってしまったらしい。


「そういえば聞いておきたかったんだが、失った力は戻らないのか?」


 これから戦闘の可能性を孕んでいる今、仮眠であろうと身体が鈍るのは好ましくない。世話のかかる奴だ、と思いながらミルドは気になっていた疑問を言葉に表した。

 今更感のある質問だが、共に冒険をすることになるとは思っていなかったので仕方が無い。


 ラドローズが魔王らしい事はもはや疑っていないが、それにしても弱すぎる気がしたのだ。

 急激な成長の見込みがないのだとしたら、魔王城への道は困難を極めるだろう。


「……ああ、そうじゃった。お主には聡明なる妾の仮説を話しておかなければならなかった」

「仮説?」


 暇を持て余したミルドは深堀りする。


「お主を説得する傍らで色々と考えてたんじゃが、妾が力を失った原因は魔神器が破壊されたからではないかと思う。──まあ待て、今から説明する」


 聞き慣れない単語に反応したミルドを制止し、ラドローズは話を続けた。


「今から、ええと何年前じゃったかの……ヒューマン族と魔族が平和条約を結んだのは知っておるじゃろ?うむ、そこで不戦の証として、お互いの種族の最高峰戦力を封印することにしたんじゃ」


 遥か昔、両種族の不戦と不可侵を約束した平和条約。

 条約の作り出した環境は、ミルドが生まれた時には既に当たり前となっていた。残っているのは古い文献のみで、当時の状況を詳しく知る者は誰もいないだろう。


 それをラドローズは平然と語る。


「ヒューマン族は『勇者の聖剣』を、魔族は『魔王の魔力』を。そうして妾の魔力の源は4つの欠片となって大陸各地に散らばり、封じ込められた。それらを集約、制御していたのが魔神器だったわけじゃが……」

「それが破壊されたから供給が絶たれたというわけか」

「ふむ、物わかりが良くて助かるぞ」


 なるほど、とミルドは納得する。

 もはや空想上の賜物だと思っていた『聖剣』などが存在しているらしいことに驚きつつも、状況は把握できた。

 

 遅れて、ラドローズの語ったエピソードが幼少期にシャロンと読んだ『勇者の旅』の内容と合致していることに気付いて、肌が粟立つのを感じた。 


「破壊した者が誰なのか見当はついていないんだな?」

「そうじゃ……それが一番の謎でのう。魔神器は聖剣でしか壊せないはず。スウェーズル領で勇者は復活していないじゃろ?」

「ああ、聞いたことはないな」

「まあ復活すれば妾も気付くはずじゃからのう。とにかく破壊した者がいるということは城に戻ったとて、また追い返されるやも知れん。つまり!」


 嫌な予感がミルドを襲う。


「お主には、各地に散らばった魔力の源を一緒に集めてほしいのじゃ!」


(これが『話しておかなければならない仮説』か)


 魔力の源が散らばってる、辺りから薄々と勘付いてはいたが、改めて面倒くさいと感じる。

 仕事が増えたことも面倒だったが、それよりも得体の知れない大きな問題に首を突っ込んでいるような雰囲気が、何より後悔の念を促進させた。


 ミルドは揺らぎそうになる決心を、金貨の海で泳ぐ自身の姿を想像して何とか建て直す。


「この際、最後まで付き合おう。それで場所は大体分かってるんだろうな」

「うむ、ちょうどこの辺じゃな!」


 ふたりを乗せた馬車はカルーズ街へと到着しようとしていた。


 大陸のほぼ最西端に位置する海の町カルーズは、立地を活かした漁業が盛んだという。

 また、海沿いの岩礁と街から北東付近に位置するラズンの森に挟まれているせいで、魔物の出現数も多いらしい。

 

 魔物がいるから冒険者が集まる。

 冒険者が多くなれば宿屋、道具屋が増える。

 といったようにウォーセンより発展した街並みが形成されていた。


「魔力を感じるか?」

「ううむ、近いが、ここではないのう」


 昼前の冒険者ギルド【カルーズ支部】。

 故郷のものより大きな建物を前に、後ろをトコトコ歩くラドローズへ一声かけてから扉を開ける。


 内装は似たような作りで、右手に依頼掲示板、その先に受付がある。

 しかし、人が織りなす騒がしさが桁違いだ。左のホールを見れば冒険者達が群れていて、中には酒を煽っている者もいた。


「ウォーセンとは大違いじゃのう」

「はぐれるなよ」


 依頼掲示板前の人混みを掻き分けて、受付口に向かう。

 すると、そこには若者の集団があった。何やら揉めているようでもある。


「それじゃあ、誰かひとり残ってくれるかな」

「誰かって誰だよ!オレは残らねーぞ!」


 男が3人、女が2人。

 初めに周囲に呼びかけた細身の男は、他の若者より少し大人びていて防具にも傷が見られる。

 

 逆に言えば、呼びかけに反発した刺々しい髪型の少年や、傍観しつつ身を寄せて会話している2人組の男女は、ピカピカの武具を身に着けていて、どこか落ち着かない様子だ。

 

 その中で、他とは少し違う雰囲気を持つ両刃の斧を背負った少女には見覚えがあった。

 輪に入りきれておらずオロオロとしている少女にミルドは近付いた。


「久し振りだな。ヨシロ」

「ひゃっ!あ、あれ……ミルドさん!?」


 小さく驚いたヨシロ。

 小動物のような仕草は教会で出会った頃と変わらない。しかし、広い袖口から伸びる腕には靭やかな筋肉が付き始めていて、背負う両刃の斧は以前より鈍く光っていた。

 それは間違いなく、努力の証だ。

 

 そんな偶然の出会いとヨシロの成長にミルドもまた驚く。


 こちらを無視して言い合いを続けている集団を眺めながら、ヨシロに事情を聞くことにした。


「これは何の集まりなんだ?」

「ええと、わたしたちは冒険者試験を受けに来たんですが、付き添いの冒険者の方につき受験者は3人までらしくって……」


 ヨシロの言葉で彼らが口論していた理由が分かった。 

 推察するに、細身の男が現役の冒険者で、4人の若者達は受験者。このままでは誰かが受験できなくなるのだろう。


「他に冒険者はいないのか?」

「たしか……【本部】の大掛かりな遠征で皆さん出払っているそうです。あの、わたしが帰りますので、ミルドさんは用事を済ませて下さい」


 あたかも自分が悪いような態度で頭を下げたヨシロは受付口の方へどうぞ、と手を向けた。

 そういえば受付係は何をしているのか、と見てみれば、禿頭の男が情けなさそうな表情で突っ立っていた。


(どいつもこいつも仕方がないな……)


 【本部】で対応されたマンドラゴラ顔を思い出しながら、ミルドはため息を吐く。


「ラドローズ、いいな?」

「うむ!」


 念の為、ラドローズに確認を取ってから、ヨシロを追い越して若者の集団へ割って入る。主体となって言い合いをしていた細身の冒険者と刺々しい髪型の少年が、口を閉じてこちらを見る。


「あー、俺も冒険者試験の付き添いとして来たんだ。それでコイツ……ヨシロは知り合いでな。良ければ引き受けてもいいか?」


 揉め事の解決案を差し伸べる。

 ミルド自身の仕事量が増えることにはなるが、努力した者が報われないのは気に食わなかった。


 突然、名指しされたヨシロは目を丸くしながら、嬉しそうに頬を真っ赤に染めた。


「おお!助かるよ!僕はC級冒険者のキースだ」

「同じく冒険者のミルドだ」

「よし、それじゃあ君達は僕と一緒に来てくれるかな」


 細身の冒険者キースはホッとした顔をして他の若者達に声をかけた。

 相変わらず傍観していた2人組の男女は頷いて、了解の意を示したが、刺々しい少年は何か言いたげだ。


「待てよ。おっさんの冒険者ランクはいくつなんだ?オレは強い人から教わりてえ」

「D級だ」

「チッ……落ちこぼれかよ。じゃあアンタでいい。早く行こうぜ」


 乱暴に言った少年は不貞腐れたように冒険者ギルドを出ていった。


(……俺は『おっさん』なのか?)


 ミルドは心に傷を負った。

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