おそらく蛇足。そして相変わらずの様子。
タンッ。
意味もなく高い打点から必要以上の力をもって一番最後のエンターのキーを押してしまうのは、もはや初めてパソコンを触った時からの癖である。床に座り、同じ姿勢でい続けたことによる疲労感と、ようやく目的のところまで作業を終えた達成感を味わいながらエンターを合図に、私は姿勢を倒し、床へと寝そべる。
「うーーん。とりあえず目標達成かなあ……」
前傾に凝り固まった肩甲骨が床に沿うように広げられて緩む。同時に重力負荷を目いっぱいに受けた背骨が平らに伸ばされてえげつない音を立てた。メキメキと軋む骨の音に、体が軽くなるのを感じながら、さらに二度三度と左右に腰をひねる。それによるごきりという骨鳴りを最後に私は体から力という力を抜いて床に身をゆだねた。
仰向けから転がるように姿勢を代えれば、今の位置から数十メートルと離れていない場所に、この生活のためにと比較的高価な、ゲーミングと名の付く、日がな一日座ってパソコンに向き合うことに特化した椅子とその揃えの机が目に入る。だというのにわざわざこの床に座り込んで限界まで腰と肩を追い込んでしまうのはもはや私の趣味になるのではないかと思ってしまうほどだ。
ただ、いくら腰を痛めても、どうしたって構えて仕事をするということが私はまだできないでいた。結局、やはり。何をしていても怠け癖と呼ばれてしまう根深いものは変わることも抜けることもないのだろうなあと心の底からそう思う。
趣味の延長で、もっと嫌なことから逃げるために。私はいまだにそれだけのためにこの仕事をしている。毎度締め切りのギリギリまでさぼり、何なら少しはみ出すほどに怠けている私が、布団から這いずるようにして低いこたつ机でわずかな仕事をするだけで許されている環境は本当に何よりも恵まれていると思う。
「さてそれじゃあちょっと休憩」
冷静に見ればどう考えても、ギリギリのラインを半歩ほどはみ出した状態である私はそれを見ぬふりして、自身を甘やかし一応は我慢をしていた娯楽に手を伸ばす。
ピッという軽い起動音は私が文字キーを叩く音の数倍、ぴろんと無常に入るチャット通知の音の数億倍私の心を躍らせる。
「三十分……いや一時間かな……」
ゆるく握ったコントローラーは文字を打ち込むキーボードのホームポジションよりもよっぽど手になじむ。
そしてそのまま没頭し、フレンドたちと遊びたおした私は、そこからほぼ一日を潰し、半歩どころか全身でデッドラインを駆け抜けたせいで、またも苦労することになるのだった。
この後彼女がどうなるか。仕事を続けられるのかやめるのか、また気持ちを入れ替えるのか入れ替えないのか。それは現時点ではわかりません。
でも、一つ言えるのは、人間は何か信じられないような事件が自身の人生の中で起こらなければたぶん、気持ちが入れ替わるなんてことはないのでしょう。
たとえプラスでもマイナスでも、変化というものはそういうものだと思います。