歓迎
-9月22日午前9時-
綺堂彩月は車の中から流れ行く街並みを見ていた。休日のため多くの人がいる、子供から大人まで、みなどこかに向かっている。
神奈川支部の拠点は入院していた医療機関から車で15分ほどらしく、外の景色を眺めながら暇を潰していた。
彩月はふと自分が今いる街がどこにあるのか分からないことに気がついた。
「柴大尉、ここって神奈川のどこらへんなんですか?」
柴は人差し指を立てて答える
「ここは厚木だね、ずっとあっちの方が君が住んでた川崎の方」
そう言うと芝は人差し指を後部先の方へ向ける。
生まれは神奈川でない彩月は厚木の場所がいまいちわからなかったが住んでいたところとは離れていることがわかった。
「ところで彩月くんは柚寿ちゃんのことが好きなのかい?」
「きゅ、急ですね、ただの友達ですよ、ただの」
死角から拳銃でこめかみを撃たれたかのような唐突かつ脈絡のない質問に彩月は動揺する。
「そっか、そっか、なるほどね」
彩月にはなるほどねの意味は分からなかったが、からかわれてることは分かった。
「そんなこと言ったら着いたよ」
柴がそう言うと車が敷地内に侵入する。
彩月の目の前には大きな建物が広がる。
「ここが神奈川支部の警備隊基地だよ、今日から君はここで仕事をする」
彩月は大きな会社のビルとあまり変わらないなという平凡な感想を抱いた。
-同日10時50分-
個人情報の登録、軍服の採寸を終えて、彩月は警備隊宿舎に案内された。
宿舎は基地の四階にあり共有スペースと個人の部屋があるシェアハウス形式の宿舎となっている。
四階でエレベーターが開くと弾けるような音がした。
「ようこそ!神奈川警備隊へ〜」
クラッカーを手に持った、ゆるい掛け声で歓迎してきたのは柴大尉と少年一人と少女一人である。
彩月があっけに取られている間に少年少女の自己紹介なるものが始まる。
「俺は白柳敦士!!15歳だよ!!敦士でいいからな!!」
「私は天衣まりん、よろしくね」
彩月も会釈しながら
「綺堂彩月です、16歳です、よろしくお願いします」
と丁寧に自己紹介する。
「ちなみにこの女はこう見えて28歳のババアだから」
赤い派手な髪が特徴の敦士はニヤリとした顔でまりんを指差す。
「う、うるさいなぁ、年齢は言いたくないのよ」
どう見ても28歳には見えない小学生くらいの体躯をした白い髪をなびかせた少女がむすっとした顔で敦士に言い返す。
彩月は2人と握手を交わすと視線の先にあるケーキに気がつく。
「あれは僕たちで用意したケーキだよ、歓迎会しようと思ってさ」
そう言うと柴は彩月をテーブルの方へ誘導した。
「ほんとはうち七人いるはずなのに、副隊長と佐伯さんは人までいないし、紬さんは部屋から出てこないし結局この三人じゃん」
敦士は頬を膨らまし文句を垂れる子供のような態度で椅子に深く座る。
「柚寿ちゃんは制服受け取りに出かけちゃったしねえ」
まりんは皿を配りながらそう言った。
「とりあえず、彩月くん含めた4人で乾杯しますか」
柴がそう言うと、若干よそよそしさがある彩月を交えた四人での乾杯が行われた。
「ねえねえ、たいちょー!!彩月っちのベースってなーに?」
「それは見てからのお楽しみでーす」
柴はフォークをクルクル回し遊びながらそう答える。
「ベースって?」
彩月は首を傾げる。
「ベースってのは手術受けた時に移植される細胞がどんな種族なのかってこと、俺は獣種で狻猊っていうライオンみたいなやつがベースなのよ」
ドヤ顔で敦士は語る。
「俺は生まれつき......って聞いたんだけど自分のベースとかもわからなくて」
「ええ!純正型なんだ!珍しい!」
ケーキを切り分け終えたまりんは驚いた声をあげる。
彩月は自分が珍しいこと以外は何もわからないため少しモヤモヤした表情をしていた。
「ま、そこのところは明日教えるよ」
柴が彩月の方に手を置いてそう言った。
彩月達は他に学校でのことや、育ちのことについてケーキを囲いながら話した。初対面であるが不思議と心地のいい時間が流れた。
-同日14時20分-
与えられた新しい部屋で荷解きをした。段ボールの中からずっとつけていた首飾りが出てきて、彩月はその首飾りを見つめた。
現在は首飾りの代わりに左手の青色の腕輪で力を制御しているらしい。
「あいつ、知ってんだな」
彩月の頭にはシスターセイラの顔が浮かんだ。シスターセイラは彩月が育また教会の中で一番位の高いシスターで、彩月の母親代わりのような女性であった。
「あそこ電話の一つもないからな......」
彩月はシスターセイラがこの真実をいつから知っていて、何故今まで話してくれなかったのか気になったが教会への連絡手段が手紙程度なので諦めて次会った時にゆっくり聞くことに決めた。
「今日は休息日で、明日は何か修行するとか言ってたな」
彩月は柴からもらったスケジュールを眺めて、ベッドに横たわった。彩月はそのまま夕方ごろまで眠りについた。




