邂逅-前編-
異種族から防壁により守られた街は穏やかで学校には人数こそ少ないが未来の日本を担う子供達がいる。
この白松高等学校は国内でも多くの生徒が集まる学校で9月15日の文化祭に向けて活気があふれていた。
-9月11日午後15時42分-
教室のスピーカーから授業を終えるチャイムが聴こえる。騒がしくなる教室を綺堂彩月は足早に去った。
廊下ではもう既に教室の装飾に取り掛かる男女が笑い合っている、そんな明るい青春を横目に階段を駆け降りていく。
下駄箱は教室や廊下と違い、閑散としている。透明のドアから夕陽が差し込んでとても美しい。すっと胸を撫で下ろし、疲れた表情で靴を取り出す。
「はぁ、やっと帰れる。」
思わず口から漏れた言葉を仕舞い込むように手で口を塞ぐ。
綺堂彩月は学校という環境には不適合であるものの、昔から独りには慣れているため"ぼっち"であることを気にしてはいなかった。しかしこの文化祭準備期間だけは苦痛を感じていた。
平凡な住宅街を抜けて、畑道を通り坂道を登る家路は少し遠い。そのため放課後は学校で少し休んでから帰るのが日課であったのだが、落ち着かない放課後が展開されるこの時期は一直線に自宅を目指す。
「学校疲れるな......」
またしても声が漏れてしまった。
彩月は島生まれで高等教育を受けるため海を渡り、この白松高等学校に入学した。しかし手続きに時間がかかり一週間遅れで入学したことや、島で同い年の子供と接することなく育ってきたことが原因となりクラスで孤立してしまった。
他に思い当たることとしては、透明の首飾りをつけているため周囲からは不良なのではないかと噂されていることである。透明の首飾りは実家の教会で育て親から貰ったものであり、「ある約束」のもと意外では常につけておくようにと言いつけられていることから外すことができない。
透明の首飾りを見つめて実家での思い出を想起していると背後から自転車のブレーキの音がした。
思わず振り向くとそこには自転車に跨る1人の少女が息を切らしてこちらを見つめている。
「あ、すいま......」
と言いかけるとそれに被せるように
「綺堂くん!!!」
と少女が大きな声で指を刺してきた。
「えっと......」
この少女を知っている、同じクラスだ。知っているのだか名前が出てこない、なんせ名前を呼ぶ機会なんてないのだから。
「私のことわかる?同じクラスの寿です!」
彼女はそういうと自転車を降り、隣に並ぶように近づいてきた。
「あ、コトブキさん......」
「寿柚寿、寿退社の寿に柚子の柚、そして最後にまた寿!!」
彼女はとびっきりの笑顔で自分の名前の漢字について説明している。
寿柚寿、彼女はうちのクラスの中心的メンバーだ、友達には常に囲まれているような。そんな彼女が僕を見つけて話しかけてくるとは、どんな重要な用件なのかと彩月は思考を巡らす。
「ところで綺堂くん、あなた買い出し係なんですけど!!」
彼女は顔を近づけ、頬を膨らませしかめっつらをする。
「え?買い出し?」
なんだそれはいつ決まったのだといわんばかりにとぼけてみせる。
「もう、今日のホームルームで綺堂くんがなんの手伝いもしてくれないから買い出し係に任命したの、聞いてなかったの?」
「うん、全然聞いてませんでした。」
彼女の問い対して聞いてるわけがないだろというばかりの即答を見せる。
「なのにすぐ帰っちゃうんだもん、だから私、急いで追いかけてきたんだよ」
今にも折れてしまいそうな細い腕で額の汗を拭う彼女を見て、本当に急いできたことが彩月にも分かった。
「すいませんでした」
彩月は自分の非を認め素直に謝罪をした
「仕方ないなぁ、許したげる!じゃあこのまま買い出し行こっか」
「えっ」
突然の買い出しイベント発生で頭の中が整理されないまま彼女が歩き出す
「あの、俺は行かないから」
彩月はそう言いながら彼女に追いつく
「なんか用事でもあるの?」
「いや、ないけど......俺はクラスに馴染めてないし、今更文化祭の買い出しとか言われても困るというか」
そう言ってから彩月は彼女の顔から目を逸らす。
「そっかぁ、残念だなぁ......じゃあ一人で行くか......」
彼女の声色は悲しみで一杯で少し胸が痛くなった。
「帰りは学校の前までしか戻らないなら買い出し行ってもいい.......」
罪悪感に敗北した彩月は彼女の提案を受け止めることにした。しかしクラスの状況を思い浮かべるだけで吐き気がするため、条件付きで買い出しに付き合うと提案する。
「え、本当に?一緒にいってくれるの?」
「う、うん」
彼女は「やったー」と言わんばかりにピースをしてこちらを見いている。
彩月は不安げに天を仰いだ。




