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09. 防衛圏ギルド支店

 食堂の「玉将~スラム支店~」で腹ごしらえを済ませた俺キャラとミチルは店を出た。


「美味かったか?」


「それはもう! 本当にごちそうさまでした!」


 ミチルが満面の笑顔でぺこりとお辞儀をしてくれる。


 デートで女性をリアルに玉将に連れて行ったら、二度と連絡が来なくなりそうな女性が多そうだが、ミチルは本当に嬉しそうだ。


 ゲームとはいえ、何だかホッとするな。


 無理に見栄を張らなくて良い感じが癒やされるわ。


 クリエイター側が、かわいらしい女性キャラに庶民的な味を好ませるのは、こういう願望があるのやもしれないな。


 いや、むしろ俺達の淡い願望を見抜いて、ゲーム内だけでもと優しく叶えてくれているのかもしれないか。


 ありがとう、その優しさが目がしみるわ。


「では、最後の『防衛圏ギルド支店』を今度こそ案内させてもらいますね!」


「……ああ、頼む」


 俺キャラはミチルに続いて、防衛圏ギルド支店へと再度、歩いていく。


「先程も言いましたが、ギルドに入れば、討伐任務の依頼を受けたり、懸賞首の情報を調べたり、その報酬や懸賞金を支払ってもらえたり、魔石を換金したり、専用アイテムや装備品の購入などができますからね」


「あとはランクをもらえるということだったな」


「はい。ですが、無職では防衛圏ギルドへの加入は無理なので、まずは、戦士の『ジョブクリスタル』を購入して下さい」


「おう」


「値段は覚えていますか?」


「いくらだっけか」


「都市通貨20万Pですよ」


「そうだったな」


「では、防衛圏ギルド支店のギルド長に紹介しておきますから。後は、色々と助けてくれると思いますよ。見た目と態度に反して結構、良い人ですから」


 嫌な前振りだな。

 どんなキャラなのだろうか。


 俺キャラとミチルの前に、スラム街だというのに、しっかりとした石壁作りの大きくて広い平屋建てな建築物が近づいてきた。


「では、入りましょうカッタさん」


 俺キャラがミチルに続いて、防衛圏ギルド内へと入っていく。


 ギルド内は、カウンターで区切られた外側と内側という単純な二面構造だった。


 カウンターの内側では数名の防衛圏ギルド職員がデスクワークをしており、外側であるこちらでは数名の戦士らしき人達が、壁に貼り付けられている張り紙を確認したり、情報交換なのか雑談している。


「ちょうど、カウンターが空いてますから、ギルド長に挨拶に行きましょう」


 ミチルに連れられて俺キャラがカウンター前に向かうと、カウンターの受付に、一人の女性が気怠そうに座っていた。


 ド金髪のサラサラなロングストレートをかき上げるように後ろへと流し、眉毛は細く、目つきも鋭い。


 口端には火の点いていないタバコをくわえており、OL風な黒のギルド制服とタイトスカートを履いており、胸の大きな膨らみは明らかに巨乳の部類である。


 若くて、とても美人ではあるのだが、見た目がほぼヤンキーな姉御風なので威圧感と貫禄が凄い。


 現在ではほぼ絶滅したと言われているヤンキー文化だけれども、未だに女性キャラのジャンルとして、細いながらも生き残っているよな。


 根は優しいというツンデレ成分を含んでいるのが定番だから、時代を超えて男性達に愛され続けているのかもしれない。


 あと、簡単にエロいことをさせてくれそう、みたいな男の下心を刺激してくれるのが、支持される原因かもしれないが。


「おー、ミチルか。どうした」


「あ、ギルド長、失礼します」


 おいおい、このヤンキー姉ちゃんがギルド長かよ。


「防衛圏ギルド入りを目指している新人さんを連れてきましたので、顔見せのご挨拶にと」


「……ふーん」


 ヤンキー姉ちゃんなギルド長が、俺キャラをジロジロと面倒くさそうに見る。


「なんだこの裸族。頭がわいてるのか?」


「ちょ! ギルド長! カッタさんの実力は凄いんですよ!」


「これでか?」


「はい!」


 ヤンキー姉ちゃんなギルド長が嫌そうに顔を歪める。


「ミチル、お前は無駄に優しいから、騙されているんじゃないのか?」


「そんなことはありません! 青アメーバ3匹に囲まれて死にそうになっていたところを、無職なのに素手で助けてくれましたし、借金取りを木の棒で殴り倒して、私の借用書を奪い取って破り捨ててくれましたから!」


「おいおい、何やら物騒な話が連続していて理解が追いつかないんだが? そもそも、ミチル、お前、死にかけたって?」


「あ、いえ、そのー……」


「あれだけ、都市から離れた場所には行くなと忠告しただろうが」


 ヤンキー姉ちゃんなギルド長の眉間に少しだけシワが寄る。


「す、すいません。借金取りの人達に見つかりたくなくて……」


「……ま、自分の命をどう使おうが、私には関係ないけれどもさ。一応、最初に忠告はしてやったんだから、死ぬ時は私を恨むなよ?」


「は、はい……」


 ヤンキー姉ちゃんはすぐに怒りを霧散させてしまうと、興味を失ったように椅子にもたれかかる。


「で、次に、借金取りを殴り飛ばして、借用書を奪ったあげく、破り捨てただって?」


「はい!」


 ミチルが嬉しそうに「犯罪」の自慢をする。


 おい、ミチル、お前はやはりアホなのか。


 防衛圏ギルドとか言うぐらいだから、警察&軍隊ぽい組織とかじゃないのか?


 怒られるのか、それとも強制逮捕イベントか。


「ふーん。やっぱり、こいつ頭がわいてるんじゃねーの?」


 お前さっきからそればっかりだな。


 お前もおっぱいパンチをお見舞いしてやろうか!


 ヤンキー姉ちゃんは腕を組みながら、俺キャラを気怠そうな目で見てくる。


「ま、力こそ正義の世界なんだ。勝てて良かったなーミチル」


「はい!」


 防衛圏ギルドの見解は、それだけらしい。


 というか、お褒めのお言葉を頂けた。


 さすが、スラム街。


 色々と緩いらしい。


 というか、既にゲーム内世界は滅びに向かいつつあるわけで、ヤンキー姉ちゃんなギルド長の言葉通り、まさに力こそ正義なヒャッハー状態ということなのだろう。


「で、裸族の兄ちゃんは、これから戦士のジョブクリスタルを目指すわけか?」


「ああ、そうだ」


「そうかい。なら、そこの掲示板にスラム街の求人広告もあるから、そこから好きな仕事を選んで、頑張って働いて都市通貨Pを貯めるんだな」


「……仕事?」


「当たり前だろうが。働かないとPは貯まらないだろ。やっぱり、お前は頭がわいてんのか?」


「黙れドヤンキー」


「……あんだとゴラ!?」


 ゲームキャラに凄まれた所で少しも怖くないわい。


「都市通貨Pは青アメーバを狩って稼ぐ」


「……そういえば、さっき、無職のくせに素手で狩ったとか言ってたか」


「はい!」


 なぜか、ミチルが自慢げに答える。


「ケッ! そういうホラは聞き飽きてるんだよな~。ま、それならそれで結構さ。都市通貨や魔石の出どころなんて私には関係ないからね。どんな方法だろうが、都市通貨20万Pか小魔石200個を持ってくれば、戦士の『ジョブクリスタル』は売ってやるから安心しな」


 本当にいつかおっぱいパンチしてやろうこいつ。

 俺の中で新たな目標ができたので、ゲームプレイを続行する意欲が向上したわ。


「おう、宜しく頼む」


 とりあえず、社交辞令的に礼だけは言っておく。


「行くぞ、ミチル!」


「あ、はい!」


 とりあえず、こんなヤンキー姉ちゃんと殺伐とした会話をいつまでも続けていても仕方がない。


 さっさと、青アメーバを狩りに行こう。


 俺キャラが防衛圏ギルドから出ていこうと出口に向かうと、ミチルはヤンキー姉ちゃんなギルド長に対して丁寧に礼をしてから、俺キャラの後を追いかけてくるのだった。


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