12. ミチル救出
防衛圏ギルドに一人の男戦士が少し慌てた様子で駆け込んでくると、カウンター受付に座るヤンキー姉ちゃんなギルド長の前までやって来た。
「ギルド長! 最近、防衛圏ギルドに入ったあの若い娘、何かやらかしたんですかね?」
「若い娘?」
「ほら、ピンク色の髪で、いつもニコニコ顔の能天気そうな娘」
「ミチルのことか?」
「そうそう、その娘」
「ミチルがどうした」
「いや、さっき、通りの先で、「蟻地獄」のやつらが勢揃いで、そのミチルって娘を無理やり拉致ってましたよ」
「あー……、そりゃそうだろうな」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は、火のついていない新しいタバコを口端に加えながら、気怠そうに椅子にもたれかかった。
「どういうことだ」
俺キャラの問いかけに、ヤンキー姉ちゃんは鼻を鳴らしながら答える。
「お前が木の棒でぶっ飛ばした借金取りは、金貸し部隊「蟻地獄」の隊員だったんだよ。ミチルは金のなる木だろうから、力には力でやり返しに来たということだろうさ」
「ミチルはどうなる」
「あいつら「蟻地獄」の噂はろくなものが無い。借用書を失ったにも関わらず、強引な手できたということは、ミチルを娼館へと勝手に売り飛ばすつもりだろうな」
「防衛圏ギルドとして、ギルドメンバーを救出はするのか?」
「バカかお前? そんなことするわけねーだろ。私達はあくまで仕事の斡旋所だ。メンバーだろうが一般人だろうが、たった一人の人間の為に組織が動くなんてことはないさ」
「そうか」
「なに、お前が無駄に正義ぶって、借金取りをぶちのめしたことを誰も責めたりはしないさ。全ては自己責任。それを喜んだミチルにも責任はある。その結果を受け止めるのは当たり前のことだ」
ヤンキー姉ちゃんは根が優しいはずなのだが、どこか性根が腐っている感じがするな。
何かにつけて諦め癖というか、無気力な感じが伝わってくるのは、こういうことだったか。
滅亡がゆっくりと近づいているゲーム世界だ。
世の中に対して無気力になるのも分からないでもない。
「ミチルのことは、兄ちゃんも気にしなくていい」
「どうしてだ」
「スラムではこんなことは日常的なことだし、力の無い奴は、強い奴の餌食になるしかない。そもそもの話、ミチルは、どうせ遅かれ早かれ、「蟻地獄」の奴等に娼館には落とされてはいたんだ。あいつらがミチルという美味しい獲物を見逃すわけがないからな」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長が儚い笑みを浮かべる。
「兄ちゃんに助けられて、例え一瞬でも明日への『希望』を抱けただけで、ミチルの奴は幸せ者だったと思うよ私は」
ヤンキー姉ちゃんは、いつも火のついていない口端の咥えタバコに、マッチで静かに火をつけると、寂しそうにくゆらせる。
……ああ、そうだな。
こんな終わった世界で、少しでも希望を抱けたのなら、悪いことじゃない。
なーんて言うわけねーだろうが!
俺はプレイヤーであり主人公様だぞ。
俺にとっては、ド定番の燃え燃え救出イベント発生だべや!
いつもの古いゲームならば、俺TUEEE!する為に、緊急事態やピンチ状態を放っておいたまま、のんびりレベル上げなどをしていたのだが、このゲームは時間の流れがあるっぽいから、さっさと救出に行くのが正解っぽいな。
「おい、俺はもうギルドに加入したわけだから、専用アイテムや武器やらを売ってくれるんだろう。見せてくれ」
「……何をするつもりだ兄ちゃん」
「ミチルを救出するに決まってるだろう」
「……相手は戦士達だ。死ぬぞ?」
「死なねーよ。そこいらのザコと俺を一緒にするな」
「ま、お前の命はお前のものさ」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は口癖らしい台詞を呟きながら、手元でウインドウを表示すると、モニター画面に商品ウインドウが開いた。
どれどれ。
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■消費アイテム
・薬草3つ 1000P
・毒消し草 3000P
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■近接武器
・木の棒 1000P
・短剣 5000P
・剣 1万P
・銅の短剣 1万5000P
・銅の剣 3万P
・刀 5万P
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■防具
・布の服 1000P
・革の胸当て 5000P
・銅の胸当て 3万P
・銅の小盾 1万5000P
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■素材合成
・火炎瓶(青いぬるぬる1) 5000P
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おー、色々とあって、ワクワクすんなー。
俺の所持金は都市通貨5万5000Pか。
しかし、モヒカンから略奪しておいて、本当に無駄な出費が防げたわ。
ただし、やはりというか、手に入れたのは最低ランクの装備品だったみたいだな。
ま、初期装備の服だけに比べれば、ありがたい装備品類なんだが。
それと、「剣」という投げやりな名前だったから、そりゃそうだろうとは思ったが、銅の剣より下だったとは。
かなり適当な材質で作られているということか。
あと、青アメーバの素材「青いぬるぬる」は火炎瓶になるんだな。
つまり、可燃性生物だったのか、あいつら。
さてさて、何を買うか。
刀めっちゃ欲しいけど、これだけで全財産吹っ飛ぶしな。
今は強武器で強引にゴリ押しするよりも、もう少し効率良く戦う方がいいだろうし。
とはいえ、巻き戻しロードもあるし、それほど考えず気楽にやればいいか。
というわけで、これとこれをポチー。
俺はミチル救出グッズを購入した。
「……お前、本気なのか?」
俺の購入品を見て、ヤンキー姉ちゃんが呆れた顔をしている。
「当たり前だろうが、やるからには徹底的にやるべきだ」
だって、アクションゲームだし、爽快感を求めているからね俺。
「そうかい。ま、骨は拾ってやるから、やりたいようにやればいいさ」
「おう」
ミチル救出準備を終えた俺キャラがギルドから飛び出していく。
俺キャラが飛び出していった出口を、ヤンキー姉ちゃんなギルド長はぼんやりと眺めていた。
「……出会って間もない人間を、命懸けで助けに行くなんてバカがいるんだな」
ヤンキー姉ちゃんなギルド長は、そう呟きながらタバコをくゆらせるのだった。
ちなみに、その思わせぶりな呟き、俺キャラは見ていないけど、モニター前の俺は見ているからな!
景色がギルドの外に切り替わると、道の左側に向かって矢印が点滅している。
その先に、金貸し部隊「蟻地獄」とやらに拉致られたミチルがいるというわけか。
俺キャラが矢印の方向へとダッシュでスラム街の道を駆け抜けていく。
救出イベント燃えるぜー!
というか、ミチルを拉致った野郎どもは全員ぶち殺してやるずら。
俺キャラが見るからに厳ついモヒカン戦士集団に追いついた。
両手首を縄で縛られたミチルが、赤いモヒカンの男戦士に引っ張られている。
俺はその赤モヒカンに駆け寄ると、そのままスキルを発動して「強攻撃」を叩き込んだ。
赤モヒカンに対して8ダメージがポップアップ。
赤モヒカンは「ぐわぁぁ!」と断末魔の雄叫びを上げると、その場に倒れ込んだ後、点滅して消滅した。
お、一撃で倒せたか、さすがはスキル攻撃だな。
「――カ、カッタさん!?」
必死に抵抗したのか、体のあちこちに擦り傷を受けているミチルが、急に現れた俺キャラを見て驚いている。
「助けに来たぞーミチル」
「え? え?」
ミチルは意味が分かっていないようだった。
「――なんだお前はっ!!!」
モヒカン集団の先頭にいた太り気味で、ド派手な虹色のモヒカンをした男が、俺キャラを睨みながら怒っている。
あれがリーダーっぽいな。
「お前らこそどういうつもりだ。ミチルの借用書は無くなったはずだぞ」
「ほほー、そうかいそうかい、お前が俺の部下を襲って、この娘の借用書を勝手に奪ったクソ野郎か」
虹色デブモヒカンが嬉しそうに体を揺らす。
「探す手間が省けて助かったぜ。このスラムで『蟻地獄のガポリ』様にたてついたバカを、のさばらせていたままでは、俺様の威厳に関わるからなー」
コロコロと楽しそうに笑っていた虹色デブモヒカンが、急に恐ろしい顔付きになる。
「ここで、しっかりと死んでいけや! そして、墓場の下で、この娘が死ぬまで娼館で働く日々を応援してやるといい! ゲヒヒ!」
虹色デブモヒカンが汚い笑い声を上げると、アップテンポで軽快な戦闘音楽が流れ出す。
部下であるモヒカン集団6名も、それぞれが腰に下げている剣を抜き放った。
「むしろ、お前らが死ねぇぇ!!」
俺キャラが何かをモヒカン集団に向かって放り投げる。
次の瞬間、モヒカン集団が炎に包まれた。
「――ぎゃあああ!?」
「――ぎょおおお!!」
断末魔の叫び声をあげるモヒカン集団。
はっはっはー! さすがはゴミクズ共、良く燃えやがるぜー!
俺キャラは更に続けて、防衛圏ギルドの素材合成でしこたま購入した「火炎瓶」を放り投げた。
「――ひぃやぁぁ!!」
「――ぐおぉぉぉ!!」
モヒカン集団6名は全身火だるまになると、次々とダメージが定期的にポップアップしていく。
燃えている間はダメージを受け続けるというやつだ。
数秒後、モヒカン集団は全てその場に倒れ込み、点滅と共に消滅した。
「――て、てめー!! よくもよくもぉぉ!!!」
「お前も燃えろ!」
俺キャラが火炎瓶を投げつけると、虹色デブモヒカンが炎に包まれる。
「ぐももぉぉ!?」
「更に死ね!」
俺キャラがスキル「強攻撃」を叩き込むが、ダメージは1しか通らなかった。
こいつ固いな。
俺キャラが虹色デブモヒカンに対して、更に火炎瓶を投げつけて延焼時間を伸ばすと、スキル「強攻撃」を何度も叩き込む。
ただし、この「強攻撃」は体力が1消費してしまうので、薬草の使用も忘れない。
「ぎょわわぁぁー!!!」
ダメージがどんどん加算された虹色デブモヒカンは、とうとう、その場に倒れ込み、点滅して消滅した。
悪、即、斬!
うーん、爽快。
アクションゲームはこうでないとなー。
俺キャラがモヒカン集団のドロップアイテムを回収していく。
・都市通貨Pカード(10万P)
・剣×6
・布の服×7
・革の胸当て×6
・銅の剣
・銅の胸当て
お、虹色デブモヒカンの奴、少し良い装備をしてやがったみたいだな。
これで、また無駄な出費が抑えられるわ。
俺キャラがミチルの前に行くと、ミチルが何やらそわそわしていた。
「――ど、どうして、カッタさんは、何度も私を助けてくれるのですか!?」
ミチルが戸惑いの表情で俺キャラを見ている。
「しかも、今回はあの『蟻地獄のガポリ』を敵に回してまで……。下手をしたらカッタさんが死んでいたかもしれないんですよ?」
……そうは、言われてもな。
今までゲームを遊んできて、助けを求める誰かを見捨てたり、見殺しにしたことなんて無いしなー。
全員救ってきたし、これからも救うだけの話だし、ミチルもそこに含まれただけの話なんだが。
でも、これ、あれなんだろうなー。
重要イベントなんだろうなー。
選択肢は無いもんなー。
俺が一人で勝手に考えて言うしかないんだろうなー。
……はぁ、仕方ないか。
ミチルには、これからも側にいて欲しいしな。
昔から仲間キャラというのは、一緒にゲームを遊んでくれる存在でもあるわけで、ゲーム友達の居ない俺にしてみれば、どれだけアホなAIであっても、ありがたい存在だったわけで、それと比べれば、このゲームのAIは本当に大したものだよ。
きっと、この先のプレイも、こういう面白いキャラが側にいてくれたら楽しいには違いない、とは思う。
なので、とりあえず、やってみるか。
「……記憶喪失の俺を世話してくれたからな」
「そ、そんな理由で命を懸ける人はいませんよ!」
「あと、おっぱいがデカい」
「な”!?」
さすがに恥ずかしくて、つまらない言葉を発してしまった。
「あ、いや、悪い、えーとな」
「……はい」
「そのな」
「はい」
「ミチルがな……」
「はい」
「いなくなったり、死んだら嫌だなって思った」
「……は、はい」
ミチルが顔を赤らめながら俯いてしまう。
おい、なんやこれ。
なんやこれぇぇ!
俺も顔から火が出そうなんですが?
人生で一度も言ったことが無いキザな台詞を言わされるこのゲーム、なんて恐ろしい子!
でも、ミチルはおっぱいキャラだし、いじりがいがあるし、これからも側にいてくれれば、このゲームも更に楽しめそうではあるのだよ。
頑張れ俺。
「……なあ、ミチル」
「はい」
「俺の仲間になれよ」
「……い、いいんですか?」
ミチルは何やら驚いた表情を見せる。
「わ、私、へっぽこですよ?」
「いいよ。俺が強いし」
「私、のろまですよ?」
「みたいだな」
「あと、よくバカとかアホとか言われてしまうようなダメな女ですよ?」
「でも、それがミチルだしなー」
「こんな私が、カッタさんみたいな凄い人の仲間になったら、きっと他の皆さんに笑われてしまいますよ?」
「そんなこと、どうでもいいよ。俺は俺が一緒にいて楽しそうだなと思う仲間がいて欲しいだけだし」
「……カッタさん」
「これからもさ、一緒に魔物を倒したりしながら稼いでさ、色んな食堂を食べ歩きしようぜミチル」
ミチルが少しだけ驚いた表情を見せたあと、涙目で微笑んだ。
「……それは、きっと、とても楽しそうですね」
「だろ?」
「私、カッタさんについていきますよ?」
「おう」
「どこまでもついていきますよ?」
「ああ」
「い、いいんですか? ほ、本当の本当についていっちゃいますよ?」
「いいって言ってんだろうが」
「わ、分かりました! そ、それでは、ご、ご迷惑をおかけするとは思いますが、私なりに精一杯、頑張りますので、よ、宜しくお願い致します!!」
俺キャラに深くお辞儀したミチルが顔を上げると、その表情はひまわりのような満面の笑顔だった。
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ミチルが仲間になりたそうに、こちらを見ている。
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システムメッセージに吹き出しそうになったが、俺は「仲間にする」を選択した。
すると、チャラリラリ~ラ~ラ~ンと優しい音色のチャイム音が鳴り響き、ミチルが俺キャラの仲間になったのだった。
めでたしめでたし。
……しかし、この時の俺は、まだ知らなかった。
なにせ、ネットの攻略情報を、ほぼ遮断していたのだから仕方がない。
後々に知ることにはなるのだが、このゲームが発売されて今日まで、物語最初の案内役キャラでしかないミチルを、仲間キャラとして加えることに成功したプレイヤーは誰一人として存在しないということを。




