母に生まれ
私の
私達の編纂は実に多くの人の手を借り
協力者の名だけで1冊くらい使ってしまうのではないかという有様だ
時間もかかっている
今日まで六千年かけたが未だに終わりが見えない
短命な者達は皆完成を待たずに去っていく
皆が皆、満足そうに「こんな駄作の完成に立ち会わずに済んでホッとした」と笑って去っていくのは私の誇りだ
だから私は去っていった皆が残したものを全て把握している
しているはずなのだが
だがこれから貴方が目にするモノをわたしは知らない
知る者も居ないのだ
全員に聞いた
聞いて回った
そして皆が皆自分ではないと答えた
ではコレは一体何なのだろう
歯車を使い文章を管理していたのだからおかしなものが紛れるはずもないのだが
だがしかし、現にここにこうしてモノがあるのだ
ならばコレを作者不明だからといって外すのはルールに違う
紛れもなく
有益でも無く
貴重でも無く
ためにもならない
ならばコレは私の編纂する歴史書の立派な一部なのだ
しかし、もしかすると歯車が何かの意思を持ってコレを紛れ込ませたのでは無いか
そんな馬鹿げた事を考えてしまう私を皆さんは笑ってほしい
それではご覧になっていただこう
おそらく、ある一家の
ひとりの母の
ひとりごとを
私には娘と息子がいる
兄と妹だ
歳の離れた兄妹だが兄はとても面倒見がよく、何時も妹を可愛がっている
そんな兄なのだが、手塩にかけて育てた娘が嫁に行ってしまうと丸で抜け殻のようになってしまった
何時もの事ではある
だが妹にとっては初めて見る兄の姿
随分と心配していた
そんなある日
妹はいつもの様に庭で惚ける兄の上に腰掛けると兄に久しぶりのワガママを言った
「母にあわせてほしい」
私達親子は訳あって離れて暮らしている
無論私は何時もそばにいる
しかしそれは私の仮の姿であるのだ
いつか分別がつく頃に
そうは思っていたのだが
娘がそれを望むのなら是非もない
息子もそう思ったのだろう
久方振りに起き上がると、支度をしてくると言って身なりを整えに戻った
二人の子はどちらも私が産んだ子ではない
残念ながら私にはそれが出来無い
ではあるが、我が子らは私の事を母と呼び慕ってくれる
ならば何の問題もない
息子とは幾度となくあっている
だが、娘とはまだその機会に恵まれていなかった
怯えや不安
おそらくそんな感情だろうものが私にはあった
騙された
そう思われてしまうのではないか
娘が娘で無くなってしまうのではないか
そんな事を考えていた
そんな思いをよそに、粧し込んだ息子は娘の手を引き私の勤める
私の住まう屋敷へとやってきた
私はとある方の僕であり
その方の命でその方のお子のお世話を申し使っている
まずそのお子が私の二人の子供を迎えて下さる
そして私の主人の領域を抜け、私のもとへとやって来た
ココからはお前一人で行くといい
息子はそう言い娘を私のもとへと向かわせた
私のもとに現れた娘は辺りを見渡し首を捻ると何度か私の名を呼び
私はそれに答えた
娘は私の声に向かい
途中足下の花を積み
私の名を呼ぶたびに集まる小鳥と戯れる
娘に私の名は難しく
なので私は私の中で暮らす小鳥の名を己の名としているのだ
娘は小鳥に向かい、あなたがお母さん?と聞いたりしながら私に近づく
そしてその時が訪れた
私はココです
目の前に立つ娘に向かい私が声をかけると
娘はマジマジと私を見つめ
思っていたより小さいのですねと笑う
私は娘の何時も通りの態度に安堵し
今お前がいるそこは全て私の中なのだと言って驚かせた
娘は驚いて周りを見渡し
まるで森に沈んだ都市ですねと珍しそうに笑う
娘は触れてもいいですかと言って、小さいと笑った一番最初の私を抱きしめた
一番最初の私にはそんな感覚器官など無いのだが
娘が私をそっと抱きしめる感触が確かに感じられた
娘はしばらく私を抱いたまま私の中を散策し、鳥や獣と戯れる
ここに小屋でも立てて暮らそうかしらと娘は笑い
それでは私が落ち着かないと答えると、娘は珍入者を見に来た熊の頬をつまみ冗談ですよとまた笑う
その毛並みが気に召さなかったのか、娘はクマの毛をいじくるのを辞めると、いつになったら兄に生気が戻るのかと呟く
お前がもう一人子を授かれば直ぐにでもと答えたがまたその話かとため息をつかれた
私は至って真面目なのだが娘にその気はないらしい
ならばせいぜいお得意の我儘で困らせてやればいいと言うと、まあそれならと答え、腕の中の最初の私を色々な方向から覗き込み、これは何かしらと言って押したりねじったり
老人は労わるものだと娘を叱るとわかりましたと言って、もとあった所に最初の私を戻し、その後ろにゾロゾロと続く私の中に暮らす鳥や獣たちの前に立つ
娘は、では兄様を連れてきてくださいと言い
呼ばれてやってきた息子が満足したか?と言いかけるその言葉を娘は遮る
そして、獣や鳥たちを見渡すと息子に向かい怒ったようにこう言い放った
どこにもシジュウ様はいらっしゃいません
息子は少し呆れたように、この全て見渡す限りがおふくろ様よ、さあおふくろ様、スズに声をかけてやってくださいと言うが私は黙して語らず
娘は、騙しましたね、ワンワンにはお仕置きですと言ってクマの尻を叩き
クマは嫌そうにノソノソと息子に向かう
息子は、おふくろ様おふくろ様とのしかかってくるクマの相手をしながら幼子のように何度も私を呼び
娘はそれ見たことかと兄に「お仕置き」を続けた
その光景を眺め私は
これならば二人目の孫は案外直ぐなのかも知れないと笑った




