醜い盾と次のエルフ
現在の醜い盾は四人である
盾は常に7人ではあるが
一人は主人様のお許しを得て墓の下で眠り
一人はおきていても夢と現を行き来する
もう一人はもう自力で立つことは叶わない
ではこの三人が名ばかりの盾かと言えば否だ
一人は墓の下に居てなお主人様の居場所を隠し続ける
その証に何処の誰であろうと主人様に御招待いただくのとなく主人様の前にたどり着く事は出来ない
直ぐそこにいらっしゃるとしても決してたどり着けない
必ず道が分からなくなるのだ
呆けた一人はそれでもなおその手から弓を離さず、放ての声を待ち、主人様に牙を剥く全てを貫く億万の矢の雨をいつでも放たんと控えている
寝たきりの一人も介助と車椅子が無ければ寝床から立つ事も出来ないが、枯れ木のような身体になって尚、千人組手全勝の伝説そのままに、その目を光らせる
補足すれば千人組手とは千人が一人を何時何処でどの様な状態であろうが、どの様な手段を用意て襲おうが一切構わないもので
実際、闇討ち騙し討ち質を取るなど何でもありであり
複数で襲いかかっても何も構わないと言うものだ
つまり何が言いたいのかと言えば、醜い盾とは死のうがボケようが寝たきりになろうが、次の盾が選ばれるその日まで何があっても主人様をお守りし続けていると言う事だ
それを踏まえその三人を除く醜い盾の皆様との貴重な話の席での事を書き置く
今日はこの様な場を設けていただき有難うございます
早速で失礼ですが、此処にいらっしゃらない三人を除き盾の皆様で一番お強いのは?
それはこの私、エルフ王センだな
胸をはるそのお姿はどうしても滑稽に見えてしまうが、その身体からは想像も出来ぬが、セン様がその気になれば並みの毛人や戦闘用の歯車すらも易々と退けられてしまう
ただしセン様がその気になる事などまずないだろう
主人様を大森林そのものと認めぬ
愚かにも己らを『竜』などと名乗るトカゲの一族も既に滅び
その力を受け継いだ残党も焔の魔女を最後に潰えた
おそらくこの先もしばらくはセン様がその気になるほどの事は起こるまい
では皆様の中で一番の知恵者はどなたでしょうか
その質問にはテイ様とリヨ様が互いを同時に指差すと、お互いしばらく見合って笑い出した
テイ様は努力の人である
盾になった今でも勉学を欠かさず常に新しい知識を蓄え備える
リヨ様は才能の人である
なるほどこうか、こう言う事かと瞬く間に理解してしまい
今日まで学ぶ事で悩んだ事など一度も無いのだ
おそらくこの二人は同格だろう
リヨ様に努力をする才能も備わっていれば話は違ったのだろうが、さすがのリヨ様も全ての才能を持って生まれたわけでは無い
と言うかリヨ様は飽きっぽい
まあそれは仕方がない、あれだけの才能が有れば大概のことは飽きてしまうのだろう
さてと私は此処でキィ様を見た
キィ様は私は何にも出来ないぞ?なにせ何故私が盾に選ばれたのか私が分からんのだからなと笑う
それを聞いたセン様は嬉しそうに笑い
テイ様とリヨ様はまたかと言った顔をする
エルフ開闢以来の才
キィ様の名を聞くにそんな声が聞こえる
同時に頭が狂っているとも
セン様はキィ様が席を外したのを見計らい私に話したくださった
アレは持ったものの内の百の一つだけを持って盾になってしまったのだ
百の内の十をそうしていればテイとリヨが二人掛かりで振り絞った策をさらりとかわすだろう
百の内の五十をそうしていれば私を打ち負かす事も容易いだろう
だがアレは己れを並の人に見せかける事に十を使い、拾った子の一生を見届けるのに五十を使う
一度リヨの家を訪ねてみるといい
驚くぞ?
決して人に懐かぬ天馬を駄馬だと言って荷車を引かせ
森で我らと住処を分け合った狼は雑種の犬だと言って庭で放し飼いにされている
アレの畑も見てみるといい
薬はほんの少ししか使わず
ねじれて曲がった実りばかりだが収穫は管理された大農園と変わらん
味もいいぞ
それにアレには我々に染み付いた毛人への劣等感も無ければ多種族への思い上がった差別意識もない
主人様が二人目の僕を迎えたと聞きその姿を見た私は耳なしでは無いかと思わず口にしてしまったのだ
だがアレだけは違った
なんと言ったと思う?
まだ子供じゃ無いか
そう言ったのさ
いつか我々エルフから主人様の僕をと
それが私達エルフ長年の悲願だがアレ一人はそんな事これっぽっちも思っていなかったのさ
我々盾は皆その手に刃を持つ
いくら時が進み時代が変わろうと、最新の兵器に決して引けを取らぬ刃だ
墓の下のオキは鉄人などと言われているがヤツは機械のようなその頭脳こそが刃だった、ヤツは死の間際に遂にその術を完成させ、主人様を害さんとする焔の魔女の様な輩を近付けさせる事は二度とない
耄碌したシャはそれでも千枚通しをその手から離さんし、ん?ああ、千枚通しはな、なんでもぶち抜く特殊合金の矢の雨を降らせる大森林の知恵が生んだ弓の事さ
凄いぞ?物理だ科学だとかはよく分からんが放った矢は一本だが狙った獲物には矢の雨が降るのだ
現在過去未来全ての時間の千枚通しが降り注ぐと説明は受けたが
あれは何なのだろうな
寝たきりのヨウだがヤツの拳は一万年鍛えた特別製だ
ヨボヨボになった今でも砕けぬ物などないだろうよ
ついこの前も主人様に何かあれば私らを突き殺して己れも死ぬとぞと言って私らを脅していたぞ
テイの魔人刀も正真正銘の魔人刀だ
ワンワン様の毛を除けば切れぬ物などこの世にはあるまい
リヨの短刀などは命を奪う事だけを追い求め造られ。その危うさから最初の二振りのみで製作者が終わらせた悪夢の様な代物だ
私の腰の物も、その昔、星の海と大森林の大地を繋いでいた決して切れぬ糸から作られた物をエルフ宝物殿から持ち出した特別製だ
でキィのヤツが振り回すあの金棒
あれもそんな類いのひとつだと思うだろう?
そりゃそうだろう
キィと初めて会ったあの日
ヤツはあの金棒を手に私に挑み、私と五分に渡り合ってみせたのだからなぁ
ん?五分なら何故勝ったか?
それは私が本物の刃を抜いたからさ
良いぞ、教えてやろう
別に隠しているわけではないからな
私が盾として振るう本物の刃は剛力だ
長く生きてきたからな、鍛える時間は事欠かんかったよ
ああいや話が逸れたな
キィのあの金棒な
私もてっきり《山田》に伝わる宝具の類で、ヤツも時長くアレで鍛錬を重ねたのだろうと思っていたのだがな
全く笑ってしまうよ
私の所へ殴り込みに来る途中、たまたま見かけた古道具屋で見つけたのだそうだ
分かるか?
ヤツはあの日初めて手にした古道具で宝具を持った私と五分に闘ったのだ
このエルフ王センとな
お話を聞くに才能がとかではないのだろう
不敬を覚悟で言えばキィ様には大森林の何か意思が関わっているのではと
はっきりと書き記せば主人様がお創りになられた何か
それを疑わずにはいられない
そんな事を考える私をみたセン様は私の顔が余程面白かったのだろう
悩むな悩むなとうれしそうに笑い
あそこから新しいエルフの歴史が始まると思えば良いんだと呟かれた
ちょうどそこへ酒を抱えたキィ様テイ様とつまみを持ったリヨ様が戻っていらっしゃった
さあ学者、お前も男なら飲めぬとは言わせんぞ
ニヤリと笑うキィ様
望むところだ、この世の水が全て酒であればと私が何度夢想したか
私の盃を焦らすように満たすキィ様の御姿を見て思う
遥か昔、勇気を持ち大樹の実をかじりその葉を呑んだ我らの始祖は新しい身体を得たのち、それを拒んだ者達を(耳なし)と呼んで蔑んだ
ならばキィ様から始まるであろう新世代の人達は私達をなんと呼ぶのだろう
そうだな、どうせ変な名で呼ばれるのならば今のうちに(才無し)とでも名乗っておいた方がいいだろうか




