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御恩と奉公

《村》が大森林へと組み込まれた時

その人口は百名足らず

諸々あって数千人を巻き込む形で大森林へと組み込まれたのだが

それにしても少ない

急な事だったとは言え、多くの無関係な者達を巻き込み

《村》は大森林へと組み込まれた


ここで重要なのは人口などではなく、ある日突然だったという事だ

その次に大森林に加わった《島》は、一千万の住人と大森林との交易で得た知識と技術があった

そして彼らには大森林との接触から併合まで300年近い時もあった

その次に加わった《館》とそれに続いた周辺地域は覚悟をしていた

自分達がカケラも理解のない未開人だと自覚していた


しかし《村》には時間も何も無く

ただ生きるため

滅びから逃れるため、主人様が伸ばされた救いの手を遮二無二掴んだ

被差別者とは悲惨で有る

だがそれはそれ程コレからの話に関係はない


只々滑稽な話だと笑ってくれればそれで良いのだ


取り敢えず《村》として大森林に向かい入れた者達は極力一か所に集まり暮らす事を求められた

巻き込まれた人々にとっては迷惑な話だろう

当面は全てを与えてやるから溜め込むことも奪うことも止めろと力ずくでそれを押し付けられたのだ


大森林の役人達は《村》の生活基盤を突貫で

でっち上げでやってしまうことにした

こんな小さな所、後は何とかなるだろう

そんな所だ


まず必要なだけ井戸を掘り、組み上げ機を備え付けた

並ぶ蛇口は触れれば水が出て、また触れれば水が止まる

それをみた《村》の住人達は、獣拳に守られながら作業をする工員達を何か特別な存在だと勘違いした


作業は大森林非分断の鉄則をどうにか守るために突貫で行われた

水の次は灯りだ

カマドはしばらく薪や炭で良いだろうが灯りはそうはいかない

ランプや篝火で夜を規則通りの明るさで照らすとなるとコレは大変な手間だ

なので次に送り込まれたのは街灯工事の工員達だ

だが《村》の住人達はそれをただの作業できた工員だとは思わなかった

皆が皆

工員達を大魔法使いの様に

主人様の様に迎えたのだ


とっておきの家畜を潰し

隠し畑の実りを集め

塩を振っただけの肉や水で煮ただけの野菜を並べた

もちろん彼らにとっては大変なご馳走だ

しなびた果物を、のちに長となる少女から渡された工員の親方はどうして良いかわからなかったそうだ

誰かの思いつきで、自分達が持ってきた食料と《村》の住人が用意したそれを交換し

あとで食べると言ってご馳走をゴミ袋に押し込め、工員達は作業に取り掛かった


街灯がなぜ光るか

屋内に照明器具をつけると何故室内の温度が一定になるか

学舎で習ったはずだがサッパリ思い出せない

そもそも私の専門はそちらではない

昼に蓄えた明かりを日暮れ後に放ち

夏に蓄えた暖気を冬に吐き出し

冬に蓄えた冷気を夏に吐き出す

私の理解などこの程度だし多くの人もそうだろう


《村》の住人達も私同様、工員の説明を毛ほども理解できなかった

丸2日で終わった街灯工事

しかし工員達にとってはそれで終わりではない

舗装など後回しに歯車達が力任せで拡張する獣道以下の道を近隣の居住者達の所まで繋ぎ、そこにも街灯を立てて行かねばならぬのだ


ココでの作業は終わったから今度は道沿いに作業を行う

工員の親方はそんな事を伝えたそうだ

道の反対側からは別のグループが同じように作業してくるはずだ

そいつらと鉢合わせたら彼らはそこで御役御免

だが《村》の住人達はこの人達について行こうと言い出す

工員達はお前達のためにせっかく工事したんだからここで暮らせと諭したが《村》の住人にはそれが理解出来ない

それどころかあなた達について行けば住む所も食べる物も何も心配ないと言いだす始末

困った工員達は行政の立ち上げのために来ていた役人を呼び、《村》の住人達の説得に当たらせた


だが住人達は家畜も潰したし蓄えも全部吐き出した、ここにはもう未練はないから魔法使い達について行くと言い、工員達の後を追って行こうとする

そんな中、一人の役人が演劇じみた口調で話し始めた

自分はさっきの魔法使い達の元締めだ、その私がしばらくここに住む事にしたのだがそれでもお前達はここを離れあいつらを追うのか?私はあいつらなどおよびもつかないすごい技が使えるのだぞ?

どよめく住人達をみた他の役人も同じような事を言い

中には魔法だと言ってマッチを擦って見せるものや懐中電灯をつけたり消したりして見せる者もいた

住人達はそれならばと工員達の後を追うのをやめた


やめたのはいいのだが

今度は役人達の為に住まいを明け渡そうとした

それは工員達が道の完成後に持ち込まれる集合住宅が届くまでの間にとりあえずと、片手間に、彼らのために建てた難民用のテントだ

無論役人達もしばらくはそれで我慢するつもりだったのだが

数はあるのだからみんなで使おう

役人はそうさとし

何とかなだめてすかして

美味くもない非常食を持たせて住人達を追い払った


その夜

随分と遅く

役人達は交代で仮眠を取る事にした

とりあえず獣拳もいる事だし襲われることもないだろう

そう思っていた矢先

その獣拳が困ったような声をあげ役人の元にやってきた

その後ろには先ほどの少女と数人の女がいて

困り果てた獣拳がとにかくコイツらの話を聞いてやってくれと役人に泣き付いて来たのだ


そして少女の話を聞いた役人達は皆顔を引きつらせた

皆様からはこの世の物とは思えぬご馳走をいただきました

弱っていた誰それの子供達はそれを口にした途端飛び跳ねています

もはや余命幾ばくも無いと思われていた誰だかは頂いた薬を飲み全ての痛みから救われました


そんな話を何人分も聞かされそして最後に彼女はこう言ってその身を投げ出し額を地に擦り付け

後ろの女達もそれに倣った

「私達には皆様に差し上げられる物は何も御座いません、私達でどうかご容赦ください」

獣拳達はコレをどうして良いかわからず役人に押し付けようとやって来たわけで

それは役人達も同じで

受け取れと言われても

それは大森林の法が禁じる「役人に対する過度な接待」というヤツにあたるし

そもそも少女や妻帯者に手を出せば犯罪だ

たとえそれが数日前まで蛮族であって

しかも蛮族内で剛力の一族として虐げられてきた者達だったとしても

役人達はそれについては明日話そうと言って女達を何とか追い出し

思いつきで彼らを迎え入れた主人様を呪う言葉を吐き

これからの事を考え頭を抱えた


人数が少なかったこともありその後の《村》への教育は順調に進み

大森林への共化も程なく終わった

しかしこの時の女性達は灯りがともったその日の事を終生感謝し続け

皆が皆、死に際し

「魂は偉大なる森へ、身体は朽ち果てるまで大森林のために」

と言い残し

いつの日か訪れるかもしれない外敵との戦いの為、戦装束で葬られた

不思議なことだが彼女達の遺骸は干からびはしたが、腐ることも果てることもなく

ハナビ様の号令を受けると在りし日のままに剣を取る

ハナビ様曰く、彼女達はまだ御恩に対する奉公が終わっていないのだそうだ


ハナビ様と彼女達は蛮族相手に何度か小さな活躍をしている

いるが、まだ灯りがともったことに対する「奉公」とやらは終わっていないらしい


さて、この話を笑えないと思うのはあなたの思い上がりだ

何せこの話を笑い話として私に語って聞かせたその人こそハナビ様なのだ

あの日から御奉公が終わるまではと変わらぬ少女の姿を選んだハナビ様なのだ

その彼女が笑い話だと言うのだ

《村》を訪れ、歩く死体を率いる少女を見ても驚く事なく「馬鹿だなぁ」と笑ってくださいと

彼女はそれを望むのだ

彼女達がそれを望んだのだ

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