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神とは

「神」という言葉をご存知だろうか

大森林にはない言葉だ

蛮族どもや大森林に加わり日の浅い者達ならば分かるのだが

全てを作った創造主と言った意味らしい

森羅万象の主というところか

その程度なら主人様と比べるべくもない


さて、大森林の言葉には「貧困」も「飢餓」も「差別」も存在する

これらの撲滅を掲げ非分断を貫く大森林だがそれはまだまだ道半ばだ


それについて、偉大なるワンワン様の有名な演説を引用しよう

「大森林の外に私の敵などいない、大森林の内にいる皆は賴き仲間たちだ。私の敵は子供を襲う『飢え』だ、子供達はただ息をするだけで腹が減る、それはいい、だが『飢え』は別だ。私の敵は『飢え』を支配する『貧困』だ、『貧困』を影から操る『差別』だ。私は戦う、たとえどれ程の時間がかかろうと、たとえどれ程強大でも。私は拳なのだ、主人様の、大森林の拳なのだ」


素晴らしい

さすがはワンワン様

風上に立つ男


ここで問題だ

「いただきます」という言葉を知らぬ馬鹿は大森林にはいないだろう

ところが蛮族にこの言葉は通じない

奴らは食事の時は「神」とやらに感謝をするらしい


話は翻るが、我々は「いただきます」とは誰に向かい言っているか答えられるかな

答えはワンワン様だ


続いて

大森林において外食をする場合、大人と子供では同じモノでも払う金額が違う

そもそも個人商店などなら子供用に無料のメニューがあるのが当たり前だ


先のワンワン様の演説は月の色が変わる度に繰り返し行われる

つまり7万年おきに繰り返されている

初めてこの言葉が響いたのはまだ大森林が毛人達だけの世界だった時代まで遡る


話が逸れるようで申し訳ないが、私が「いただきます」に興味を持った一件の話をさせてほしい

私が学舎生の時分、学祭で焼きそばの出店を出した

同級のエルフが大の料理好きで、そいつのおかげでお高い鉄板焼き屋にも負けない焼きそばが出来、それはそれは飛ぶように売れた

無論遊びに来た子弟達は食券という紙切れと交換で食えた

たとえ学際であっても子供から金をとろうとはだれも思わない


祭りが終わり、積み上がった小銭とその何倍も積み上がった紙切れを見てふと思ったのだ

何で汗だくで作った俺たちじゃなくてワンワン様に「いただきます」なんだ?って

私は紙切れでパンパンになった箱を持って帰り、手紙をほんの一行だけ書いてその中に入れワンワン様に送ったのさ

ああ、本当に宛先はワンワン様だけで届いたよ


さて、程なくして私は校長に呼び出された

担任に連れられ校長室に入ると一人の毛人が座っていて、その周りを校長や新報でしか顔を見たことがない大人達がヘコヘコしながらその毛人を取り囲んでいて、私を見るなりこの馬鹿者!と一斉に怒鳴り始めた

座る毛人は静かに「うるさい」と言って周りを黙らせるとポケットから一枚の便箋を取り出し私に聞いてきた

これを書いたのはお前か?と

私はその毛人は偉い役人か何かなのだろうと思い、観念してはいと答えた

少しイタズラが過ぎたかと思ってね


毛人は便箋を読み上げた

「私達の作った焼きそばはたくさん売れましたがほとんどは子供達の待ってきた紙切れと交換してしまいました」


毛人は私を睨むと、そんなに売れたのか?と聞き

私がはいと答えるとそうかと言ってまた私に聞いた

「遠慮せずに言うといい、いくらだ?」

私が返答に困っていると毛人は

「遥か昔、出向いた祭りで指を加える子供達を見て大人達に私が言ったのだ、子供から金を取るな、そんな物は後で私の所に取りに来いと」

毛人は私の顔を覗き込む

「それ以来、子供達は私に「コレをいただきます」と言って腹を膨らまし、大人達は「お代をいただきます」と言って私の所に金を取りにくる。随分と久しぶりだが子供達に振舞った分を取り立てたいのだろう?構わん、言ってみろ、いくらだ」


いやまさかワンワン様がわざわざ支払にいらっしゃったとは

役場の偉い人総出で来るわけだ

混乱する私はあーとかえーとか言いながら馬鹿正直に材料代を答えた

いやあ、あの時もっと考えて答えれば遊んで暮らせたのかも知れんね

ワンワン様もキョトンとして無欲な奴めと笑い、残念だが小銭の持ち合わせがない、代わりに少しばかりお前の事を心に留めておく

そんな事を言うとワンワン様は、用は済んだと言って大人達を引き連れ返っていった

今私が話すこの講堂、あの図書館、君らが大きい方と呼ぶ二号校舎、そして毎年沢山の屋台で賑わう多目的広場

それらは全てその年、一斉に工事が始まった

匿名の寄付でね


さて、私は「神」とやらに興味はないが、学者としてそれをなんと訳すべきかと聞かれればこう答える

「ワンワン様」とね

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