ヒバナ侯爵最後の進軍
下らない話をと言われるのなら
ならば我が家の事を
街の皆は我家をヒバナ侯爵家と呼ぶ
今となっては元侯爵家なのだが
当家の家宝
時代がかった炭素製の鎧
軽イントゥーン製で気圧弾射出機付きの槍と制圧用の盾型火炎放射器
初代シミンはコレを纏い蛮族を蹴散らし
祖父である二代目シミンは蛮族からヒバナの地を守った
まあ銃弾飛び交う時代に鎧も無いものだし、剣と弓矢、それとほんの僅かな魔法の様なものが精々の外界ではコレでも充分脅威だった様だ
ああ、魔法と言う言葉がきらいなら科学でも構わないよ
まず鎧
炭素製で無重精製イントゥーン粒子でコーティングされている
つまりバリバリの軍用品
こんな物をどうやって手に入れたのか
《村》の長であるハナビ様からの贈り物なのだが、彼女の家の蔵にでも転がっていたのだろうか?
次に槍なのだがこれは歯車が威嚇攻撃用に持つものと同型だ
同型なのだが管理番号が力任せに削り取られており何処から持ち出されたものなのか見当がつかない
軽イントゥーンを削り取るとなると蛮族では無理な話で
削り跡からするとノミかなにかで削った様に見える
かなりの怪力の持ち主だ
それこそ鉄球でも振り回せそうなくらいの
ああ、いやいや
ハナビ様がやったとは思わない
思ってはいけない
そう私は言いつけられて育った
十年前の事だ
蛮族の流入騒ぎと言うのをご存知か?
いやまあ、ただのから騒ぎだったんですが
ここらのじい様達はみんな「テイコクが攻めてきた!」って言って
手に手に危なげなモノを持ってウチの庭に集まりだしまして
いやまあ迷惑だなぁと思い
そんなものは魔法使い白姫様にお任せすれば良いじゃないかと
後で聞いたんですが、ウチの庭に集まったじい様達のうちの半分は魔法使い様のお屋敷をお守りするつもりだったそうで
あんたらが行って何かの役に立つのかねって言ったら物凄い勢いで怒鳴り散らされましたよ
あの人らは本当に元気だよ
まあしかしそれでも庭にそんな物持った爺さん連中がどんどん集まってくるもんで
うちの爺さんに追い払ってもらおうと思い爺さんの部屋へ向かったんだ
うちの爺さんは何時も安楽椅子に腰掛け本を読んでいるような人で
私も子供の時分はよく一緒に本を読んでもらっていたので
「じい様」って言いながら戸を開けて我が目を疑いましたよ
じい様が家宝の鎧を着て槍を手に取っていたんですから
何だよそれと思わず固まっているとじい様は私をみて「おお!きたか!」なんて言って私に飾りだとばかり思っていたサーベルを投げてよこしてきて
初陣には遅いがお前もヒバナの男だ、私についてこいと言って颯爽と庭に向かってね
もう頭が痛いとはこのことかと
うちのじい様までコレかと
じい様が庭に出ると、もう庭から溢れるほどに増えた爺さん達が一斉に声を上げて
ウルサいの何の
近所迷惑だよ
そしたらウチのじい様が見渡して
誰と誰はどうした?って言うと
アイツらはダメだ腰をやっちまったって誰かが答え
じい様はそれを聞いてそれは仕方がないって頷くと「ではいくぞ!」って声を上げて大通りに出て進軍開始さ
その間にも爺さん達は増える増える
街の広場に着く頃にはこんなに居たっけってくらいの爺さん達に膨れ上がって
ウチのじい様が集まった爺さん達に向かって何かを言おうとした時
役人が銀輪で駆け込んできて叫んだんだ
「誤報!誤報!蛮族の侵入は誤報!」って
何か言いかけていたウチのじい様はそれを聞いてそうかって言うと、ちょっと残念そうに「解散!」って声を上げて
集まった爺さん達もやれやれ手柄を立て損ねたわいとか言いながらてんでんばらばら
ホッとして家路に着いた私に、じい様が初陣はお預けだなって見たこともない顔で笑って
ああウチの初代の肖像画もこんな顔してたなぁって思いながら持て余したサーベルを眺め
気になってこれって本物?ってじい様に聞くと
昔は近づく敵はそれでブスりだったよと言われ
冗談じゃないとじい様に投げて返し
受け取ったじい様は笑っていた
そんなじい様も二年前の朝、起きるのをやめちまった
今じゃ墓の下でスヤスヤさ
若い頃の話は沢山してくれたし
蛮族時代の面白い話も沢山聞いたけど戦の話は聞いたことがなかった
同族で殺しあった話なんかしたく無かったんだろうね




