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1人だけだよ

取り残されてしまった


大魔法が道をふさぐと

暗い森が行く手を阻むと

そう言われてはいたが

そうは言っても連絡くらい

そう思いその日をヒバナの地で迎えてしまった

子供達は皆独立し

家にいるのは古女房と末の息子夫婦

最後のご奉公にとヒバナへの潜入を引き受けたのだが


アレから8年

最初のうちは同じようにその日の後もご奉公を続けようと残った潜入者達と連絡を取り合い

何とか外に情報を伝えようと色々やってみた

やってみたが

アレもこれも全てダメだった


その内、潜入仲間も一人消え二人消え

段々と集まりが悪くなってゆき

三年もする頃には私も潜入者の集まりへ顔を出す事をやめてしまった


そもそも潜入者達の大半は正堂の異常者達に目をつけられていたし

潜入者にも大魔法まであと一年と言うあたりで正堂に罪を告白し家族を呼び寄せる手引きをしてもらう者が何人も現れ始めていた

どうやら正堂の異常者達には大魔法で閉ざされた後も帰ってこれる術があったらしく

アレから8年たった今でも帝国に忍び込んでいた正堂の異常者がその家族を連れポツポツと返ってくる


しかし残念なことにその逆は出来ぬらしい

私はあの誇らしい子供達を見る事も

すぐに菓子をねだる孫達も

あのくたびれ、疲れたを連呼する女房も夢の中でしか会えなくなってしまったのだ


寂しくないといえば嘘になる

日々の仕事に没頭していなければ誰かに理不尽な怒りをぶつけてしまいそうにだってなる

仕事と言っても潜入者のそれなどではない

潜入したあの日、身分を偽りこのレーダで暮らすために見つけた仮の仕事だ

今では仮の仕事だったと言うことになってしまったが

この8年間、暇な思いだけはせずに済んでいる

なにせ8年前のあの日、溜め込んだ白札は紙切れになり、積み上げた金貨は金屑に、主力商品かつ専売品だった魔法使いの国の物品はいくらでも流れ込むようになってしまったのだ

全く、この地の経済が崩壊しなかった事が不思議なくらいだ

いやまあ皆が皆覚悟を決めていたと言うのもあった

白姫が大口の商店を中心に無利子で最長105年返済の御救い銭を「忠犬基金」と言う名でばら撒いた事も幾ばくかの安心材料になった

それでも何度となく傾きそうになる商店を何とか沈ませまいと必死に駆けずり回り

穴が開けばそれを塞ぎ

ヒビが入ればそれを繕い

昔取った杵柄でそんな事をしているうちに私は何人かいる金庫番の1人にまでなっていた


そんなある日だ

よう爺さん、店主が呼んでるぜ

若い者にそう声をかけられ

仕事を中断し店主の元へ向かった


しかし慣れないものだ

ゴブリンが昼間から働き気軽に声をかけてくる

大魔法の御加護という奴なのだが

ギーギーゲーゲー言っているはずのゴブリンの言葉がわかってしまうのだ

変な抑揚や下らない冗談まで

全く大森林とやらはおかしな所だ


私は店主の部屋の戸を叩き、入りなさいと返事があった

部屋の中にはいつも笑ったような顔をしている店主と

それとは正反対に神経質そうな顔をした夫人

それにゴブリンの大番頭が待っていた


手前、何かいたしましたでしょうか?

滅多に呼ばれることのない部屋に呼ばれ何か失態でもあったのかと思い縮こまると、珍しく店主が表情を曇らせ、夫人は不機嫌そうに私をにらむ

大番頭が私を手招きし一枚の紙切れを差し出した

何だろうか

そう思いながらそれに目を通すと

そこには懐かしのあの文字が並んでいた


君が言うところの狂信者から手に入れてね

店主がそう呟く

あれだけの栄華を誇った正堂

今、あの狂信者の集まりは恐ろしい程の速さで己の組織を破壊している

何でも白姫の連れてきた大森林の偉い偉い役人の指示でそうせいと言われ

内部の反対派など縛り首にでもする勢いで組織の解体が進んでいるのだ

それが「キョウカ」の第一歩らしい


私は、君の言う狂信者と言われ苦笑いをする

私の身の上はとっくに皆さんご存知で

私も最早隠そうとも思わない

思わないのだが

私は渡された紙に書かれた文字を何度も何度も繰り返し目で追う


“帝国に残された魔法の遺産を奪わんと異教徒が帝国に侵入、戦況は遺産を持つ帝国有利なるもいくつかの街が戦場となっている”


その後に続く戦場となった町の名の中に私の住んでいた街からさほど離れていない地の名が有ったのだ

今、私はどんな顔をしているのだろう

そんな私をみて夫人が金切り声を上げた

いや、金切り声と言うかいつもこの調子なだけで慣れればこれが普通なのだが

貴方には何度もウチの危ないところを助けられました、だから貴方には特別にソレを見せました

そんな内容だ


子供達は大丈夫だろう

一番の財産は命だと何度も言って聞かせているしそんな事言われなくてもとっとと荷物をまとめて逃げ出しているはずだ

しかし女房は

女房はあの街で産まれてあの街で育って

あの街を己の半身のように思っているのだ


何とか

何とかならないだろうか

この大森林を何とか抜け出せないだろうか

私がそんな事を考えたその時

店主がまるで損を丸抱えするような声で私にこう言ったのだ


1人だけだ

1人だけだよ

家族全部は無理だ

そんな大勢は連れては行けない

だから1人だけ選んでくれ

辛いだろうが1人だけだ


私はしばらく言葉の意味を考え

そして理解した


1人で十分だ

たった1人で

もしそれが叶うのならこれから毎日だって正堂に有る白姫の像を拝みに行ったっていい


私の言葉を聞いた店主が口を開く


では選んだ1人を大番頭に伝えなさい

私はその事については何も知らない

ただ感謝はしてほしいね

引き上げ待ちの正堂の犬達ももう何人もいないのだから

ああ、あと白姫様の像は毎日御参拝した方がいい


店主はそこまで言うともういいよと言って私を部屋から追い出した


それから5日

仕事は手につかず

なんだボケたか?とゴブリンの若い奴にからかわれてると

役人が現れ、ついてこいと言って私を連れ出した

ゴブリンの若い奴は驚いて役人に「爺さんは何にもしちゃいないよ!もう帝国は関係ないだろう!」と食ってかかってくれたが

役人はうるさそうにそんな事で一々来るかと怒鳴り返し私を連れて役場へ向かう


役場に着くと少し広い部屋に通され

そこには飲み物を片手に物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡す家族らしい一団と、その中にホッとした顔の何処かで見た覚えのある中年女性

そして見慣れた女房の顔


女房は私に気付くなりまるで書き溜めていた文句を一気に読み上げるようにまくし立てた

聞けば突然やって来た後ろの女に、亭主にあわせてやる、直ぐにここを発つぞと言われ

いつか尋ねて来た誰かが読むだろう思い書き置きを一枚残し

怪物やら何やらの案内で道無き道を数日歩き

やっと開けたところに出たかと思えば今度は狭い乗り物の中に全員詰め込まれ

ようやくここに連れてこられたのだそうだ


ああ疲れた本当に疲れたと言って椅子から立ち上がろうともしない女房

8年ぶりに会ってそれかいと笑ってしまう

後ろでかーちゃんここはどこ?と首を傾げる件の家族連れの子供達を見る私に女房が

子供達はちゃんとみんな遠くへ行って商売をやってますよと笑い

私はそんな事は聞いとらんと強がって見せた


女房から聞いた話では

いつのまにかそこに居て

いつのまにか皮職人の旦那を見つけていて

街では気の強いかみさんで有名だったこの中年の女が実は正堂の送り込んだ犬だったそうで

私と違い彼女はそんな事はおくびにも出さず日常を送り

戦から逃げる人並みに紛れ街を抜け出し

人間以外の内通者の手引きで大森林 へと、レーダへと帰還した

私の女房を連れて


女房は魔法使いの暗い森は凍った血の川が流れていてそこいら中に食い殺された死体が転がっているって聞かされてたんだけどねぇと言いながら茶をすする

私は、ここは酷いところだぞ?なんせ朝から晩までこの老体をこき使うのだからなと言って笑って見せた


さて今日は女房にはもう少し歩いてもらわなけりゃいかんな

なんせ私は今日から毎日額が擦り切れるほど白姫様の像を拝む事に決めたのだから

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