魔法使い
大森林の魔法使い
暗い森の魔法使い
呑み込む森の魔法使い
主人様を指す言葉には森の内も外も「魔法使い」の言葉を使う
なぜかと言えば魔法のような奇跡を瞬きする間もなくてなされるからだ
さて、魔法などと言うものは最初から全て科学により解明されている
例えば貴方の前にポンと飲み物が現れたとしよう
まさに魔法かさもなくば手品だ
とにかく色々な方法でコレは可能だが
仮に時間を止めて貴方の前に飲み物を置いたとしよう
そもそもこの世界と言うものは星の海の中をとてつもない速度で移動している
なのでこの世界の時間だけを止めたとすれば星の海の中でその止めていた時間だけ私たちの世界の位置はズレ
最悪消滅してしまうこともある
ではどうすればいいか
十二次元を操るワンワン様なら造作もないだろう
主人様もまた時を止めるなど造作もない
だが主人様は己の力を何もご存じない
聞いたところで出来るからやっただけなのだがと微笑まれるだけだ
私はワンワン様に主人様のお力は如何程でございましょうかとお伺いしたことがある
ワンワン様はギロリと私を睨み
まさか主人様のお命を害そうと言うのではあるまいなと言い
一転してまあだとしても私の前でそれを言う勇気もあるまいと笑われた
ワンワン様曰くただ噛みつき喰い殺せと言うのなら容易い
そもそも主人様は争いなどされぬのだと言い
主人様にお力が必要であればそれは私の仕事だと胸を張った
そしてワンワン様は私の問いに答える
私は十二次元殺法を操る
ただそんなことでいいのならば主人様のそれは那由多であろうなと
ああ、ゼロを書いてみるのはやめた方がいい
紙の無駄だ
さて
そんなお優しい主人様は迫害に怯えていた蛮族が安寧が欲しいと願えば
ではそうしようと言って瞬きする間もなくそれを与え、大森林に迎えたこともある
あまりに浅ましい姿を見れば世界からそれを取り上げることも度々行い
コレを持って「暗い森の魔法使い」と蛮族は主人様を呼んで恐れた
そして私が調べた限り
たった一度だけ
主人様が己の力を持って蛮族を懲らしめた事がある
最終的には空の歯車をその地に降ろし
全てを砕いて焼き払ったのだが
それは仕上げに過ぎない
たった一度の
怒れる主人様のお話だ
その地は季節ごとの風を利用した船での交易と温暖な気候に恵まれた豊富な実りで大変に栄えていた
彼らは己を弁えていたのか、大森林の直ぐ側にありながら、大森林には近づかず
只々自力での繁栄を楽しんでいた
彼らがいつまでも慎ましやかであったのならばそう遠くない日
大森林へと迎え入れても構わないのではないかと思われるほどその地は栄えていた
彼らは危険を冒し
あるものは陸路で
あるものは海路で
遥か彼方にある《大陸》を目指し
その命を掛け多くの物を手にし
それを元手に巨万の富を得ていた
ある時そんな彼らは《大陸》で羅針盤を手に入れた
ついに彼らは風と水とパンが有ればこの世の果てまで辿り着ける手段を手に入れたのだ
そして彼らは思った
霧の海の向こうに有る楽園にも進出しようと
それまで彼らは海の向こうに何かを見つければ騙して奪うか脅して奪うか
危うい相手ならば逃げかえる
そうやって生きてきた
そして霧の海の向こうにたどり着いてもそれでいいのだろうと思い上がっていたのだ
大森林と蛮族の地を海上で隔てる霧の壁
無論これは羅針盤程度で抜けられるものではない
今はね
だがその頃はそうではなかった
霧で迷わせ雷や恐ろしい声を聞かせればそれで十分だったのだ
それに羅針盤を持つ《大陸》人は霧の海とは反対側の海に面しており
霧の海に羅針盤を持った蛮族が現れるとは考えられていなかった
彼らは商船団と言う名の掠奪者集団を霧の海へ向かわせ
タップリとひと月もかけ霧の海を抜いたのだ
最初に被害を受けたのは人魚達だった
霧の海を抜けた蛮族達は我ら大森林の住人を見て早速捕縛をしようと銛を放ち網を投げたのだ
突然の蛮族集団の侵入に混乱する彼らは皆散り散りに逃げ
多くの者が怪我を負い
少なくない者が捕らわれてしまった
海底まで逃げた幾人かがそこに住む魚人達に助けを求めたが、あまりの事に魚人達が事態を把握するまで幾ばくかの時間を要してしまった
人魚の話を理解した魚人達は直ぐに獣拳に知らせを送り
己達は魚を呼び寄せ魚雷を組織し人魚達の暮らす浅い海へと向かった
浅い海で魚人達が見たものはまるで我が海のようにそこを荒らす蛮族の船々とそこに吊るされる人魚達であった
有るものは吊るされ
有るものは首縄をされていた
それを見た魚人達は獣拳の到着を待たず魚雷達を放ち
己らもそれに続いた
まさかの事態におっとり刀で駆けつけた獣拳達が見たものは
魚雷に砕かれた蛮族の船と生きたまま魚に食われ骨だけになった蛮族の掠奪者達
そして魚人達が高く掲げる幾人かの蛮族の首であった
人魚やそれを救おうとした魚人など海人達に多くの犠牲者を出したこの事態に獣拳はワンワン様自ら蛮族征伐に向かわれようとした
生きたままそこに居る全ての蛮族を
女も子供も構わず地獄の苦しみを与えてから殺すのだと
しかしワンワン様が動かれる事によってこの事態が主人様のお耳に触れることとなった
主人様は大変お嘆きになり
その心痛はワンワン様をしてお掛けする言葉が無いと言わせるほどであった
主人様は己が向かいますと申し出たワンワン様に
お前は優しい子だからダメだと仰り御自ら蛮族を裁かれると言われた
まず主人様はそこに住む蛮族全てから眠りを奪ったのだ
その日から10日間
そこに住む蛮族達は眠れば言葉にも出来ぬようなおぞましい夢を見続けた
それは酒を飲もうが決して逃れることのできない悪夢
数日もせぬうちに蛮族共は眠る事に怯え
次々と気が触れ
己の手で愛する者を殺め
傷つけあった
そして10日たち
恐怖と混沌が蛮族に蔓延し
狂気が全てを支配したその時
天から空の歯車を降ろし
惨たらしく
死が救いになどならぬ程惨たらしく
半生半死の力でいく日も舞わせ続け
その上で病と呪いをその地に振り撒き
栄華を極めた蛮族の国家を惨たらしいしかばねとして晒した
そうだ
主人様が望めばそこは悪夢だけの世界となり
人は気が狂い
秩序を失い
病に苦しむのだ
夢を見る仕組みは本にも書いてあるし
歯車で調べることもできる
だが大森林において我々が見る夢が幸せなものである事は主人様がそう望まれたからで間違いないのだ
我々が豊かで穏やかな生活を送る事は主人様が望まれたからこそ訪れているのだ
だが勘違いしてはいけない
主人様は我々が刃向かったからといって我々を罰するような事はされる方ではないのだ
主人様はそれすらも受け入れてくださるだろう
主人様は大森林の民
その全てを愛してくださっているのだ
我々はそれに感謝し
しかしそれを決して気にすることなく生きて行けばいいのだ
主人様もそれを望まれている
だが時に、何かおどろくことなことがあっても気にしてはいけない
主人様とてイタズラくらいはされるのだ




