白姫と白い犬
白姫という言葉をご存知か?
《館》の長にして主人様の僕スズ様を指す言葉だ
今からあなたが眼にするそれは発見当時大連な問題になった
このまま埋め戻すか素知らぬふりをして書庫の奥の奥に隠すか
そんな騒ぎの中勇気のある一人が直接本人に聞きに行こうと言いスズ様の御屋敷へと向かい
そこでスズ様自らこれに目を通され
コレを大森林の歴史の一片として残してほしいと言い使ったのだ
やはり長という方は
僕たる方は違う
それではあなたも目を通してほしい
コレがスズ様のもう一つの姿
白姫の正体だ
白姫正典
四方に広がる帝都
白の街レーダ
その一画は海辺にまで至る
そしてそこはレンクルと言う漁村であり
白姫様御生誕の地で有る
即ち聖地で有る
その地を治めるヒバナ侯爵家は白姫様の御生家を再建し
白姫様御降臨の石像を建てた
レーダに住まうものでココを訪れたことが無いものはいまい
石像をモデルにした木彫りの置物はレンクル土産の定番
コレを飾らぬ家も有るまい
ではレンクルで語られる物語はどうだろう
一言一句とまでは言わないが大筋は子供でも知っている
しかしその何れもを白姫様はお気に召されない
何故なのだろう
いや理由はわかっている
再建なった御生家を白姫様が訪ねたことはなく
石像を見ることもなく
ご自分の物語など興味もない
皇帝を下人の様にあしらい
無敵のヒバナ侯を日傘持ちの使用人の様に扱う白姫様
彼女にとっては作り物の御自身の半生など毛ほどの興味もないのだろう
それでも尚、皆の為、私は物語を残そう
白を讃えよ
白き旗を讃えよ
何者にも穢されぬそのお姿を我らは奉らん
静かな夜の事だった
静かに戸を叩く音と不思議な声が女には聞こえた
女が戸を開けるとそこには旅の男と従者の女が立っていた
一夜の宿を探している
男は困った様にそう話す
こんなところでよろしければ
女はそう答え二人を家に迎え入れ白湯を振舞った
二人はあてのない旅の途中で
見知らぬ土地で宿もなく途方に暮れていたと言う
女は何も無いがゆっくり休んでくださいと二人に告げ、旅の話などを聞いた
明くる朝
二人は女に礼を言い
旅の目的を達した後に貴女に改めて礼がしたいと言った
女は笑い礼はいいと答え
昨夜はあなた方のおかげで一人で暮らす寂しさを忘らさせてくれたと二人に礼を言った
ならば貴女を孤独から救おう
男はそう言うと従者の女に不思議な術を唱えさる
男は女の手を取り話を続ける
貴女に私の娘を預けよう
なに、気にしなくていい
健やかに育ててくれればそれで構わない
名はスズと言う
そう呼んでやってくれ
女は訳もわからず
ひとつ頷くともうそこには誰もいなかった
それから時が経つと女は元気な女の子を産みその子の事をスズと名付けた
スズは大変利発でいつも母を助ける大変いい子だった
スズは、森へ向かえばエルフと語らい
穴蔵へ向かえばゴブリンと歌う
有る時など母の前で犬と話してみせたのだ
そんな幸せなある日女は病に倒れた
健気に看病するスズに母は言いました
お前を本当の親の元へ帰す時が来た様だと
スズは私の母さんはあなた一人ですと答え
それを聞いた女は涙を流しスズを抱きしめた
そしてその夜、女は眠るスズの元でそっと声をこぼす
そこにいるのでしょう?
その声に合わせる様にひとりの女が姿を現わす
あの日男に付き従っていた従者の女だ
女は従者に向かい自分はもう十分に幸せだ、だからこの子をあなた方にお返ししたいと言い
従者の女は黙って頷くと、何時もスズの話相手をしていた犬が暗闇から現れスッと立ち上がり
眠るスズをそっと抱きかかえた
私はもう十分に幸せだ
女はもう一度そう言うと眠るスズに口づけをし従者の女に有難う御座いましたと頭を下げた
女の家の周りはいつのまにかエルフ達やゴブリンが幾重にも囲み
安らかな眠りの歌を歌っていた
女はエルフ達の歌にいざなわれ安らかな眠りに落ち
それを見届けたゴブリン達の炎によって安らかに召され
その魂は偉大なる森へと帰った
スズは目を覚ますと見知らぬ屋敷におり
そこは自分のための屋敷だとたくさんの使用人に伝えられた
そして屋敷の主人である本当の父とその従者である魔法使いが本当の母であると教えられた
スズは贅沢な暮らしなど望まず、育ててくれた母の元に帰りたいと訴えたが
悲しい事だがそれはもう叶わないと告げられる
ではせめて母とした約束は守りたいと言って毎日必ず皿を洗い、忘れる事なく1日一つの善行を成した
そんなスズを慕っていたエルフの戦士達は森を離れ屋敷に集い
ひとりで寂しくはないだろうかと心配した、何時も話相手になっていた犬もやって来た
スズの影の中に潜むゴブリン達は何かあれば必ず力になるとスズに約束し
屋敷で暮らす様になったスズは暇を見つけては街を見て回り
その賢さと正しさで多くの人を救い
身分の分け隔てなく人を扱い
たくさんの間違いを正した
それからしばらく後
スズの噂を聞いた王様は、ぜひ一度貴女に会いたいとスズの元に使者を送った
ある晩、王様のお城に天使が現れ白に白き姫が現れた事を告げられていたからだ
王様はスズを見、その言葉を聞く
人に分け隔てなどないのに何故あなたは王なのか
屋敷に住まって以来、なぜ私はこうも苦しむ多くの人を見たのか
その言葉を聞き、王は心を打たれ膝をつき
王の横でその言葉を聞いた姫騎士は貴女こそが私の支えるに相応しいお方だと言ってその剣をスズに捧げた
嗚呼、貴女は貴女こそが天使の言った救世の白き姫に違いないと言って王は救いを求めました
どうかこの国を救って下さい
どうか私もエルフやゴブリンの様に貴女の家来にしてくださいと
しかしスズはその言葉を受け入れることは有りません
何故ならばスズにとってエルフやゴブリン達は賴き共であり決して家来などではないからです
スズは王にいつか自分がこの世界を青い石の呪縛から解き放ってみせると言い
王はその時は必ず己の持つ全てを貴女に捧げますと誓った
この日よりスズは白姫を名乗り
愚かな青の呪縛との戦いを始めたのです
これらは全て作り話だ
私が正堂長からの命を受け,作り上げた白姫様の伝説の第1章だ
この作り話は詩になり歌になり国を超えて異教徒の元にまで広まっている
「真実」などと言うモノは後世に伝わって仕舞えばそれが歴史になるのだ
「事実」などと言うものは断ち切って仕舞えば影も残さぬのだ
私が物語を作るために訪れたレンクルの酒場で、自分たちの誰かが白姫様の父かも知れんなと笑う漁師の一団は翌日、漁に出たまま皆戻らなかった
白姫様の御生母が売女の類だったと言ってはばからぬ村の者たちは皆、正堂が送り込んだ赤犬がその口を塞いだ
村長から白姫様についての仔細聞き取り、ひとりの売女の話を聞いた私はその場でこう言った
「白姫様の御生母は村はずれにひっそりと暮らし、不思議な占いなどをして皆を助けていた。今、お前から聞いた話はその様な内容だった、そうだな?」
私の言葉を聞いた村長は、私の後ろで手斧を弄び村長を見て虚ろな目で笑うひとりの赤犬を見て、左様でございますとバカの様に何度も頷いた
その日、レンクルの過去帳からひとりの売女が消え
ひとりの正女が昔からそこに書かれていたことになった
私は間違ったことをしたとは思わない
赤犬達の様にその身を血で赤く染め、白姫様を白きままにいて頂く者達も必要だ
正堂とは正しい教えを説くところなのだ
正しいとは白いと言う事なのだ
白いとは白姫様のなさる事なのだ
ならば私は全てを捧げ白姫様の伝説を真白き伝説を作りあげて見せるのだ
それが白犬たる私の仕事なのだ




