エルフは枯れて朽ちはてる
エルフは何故健康か
彼らは大病は愚か虫歯になったと言う話も聞かない
彼らに言わすのならば我々が病弱なのだそうだが
我々の多くは病でその生涯を終える
だがエルフ達はどうだ
よく聞くだろう
「エルフは枯れて朽ちる」
と言う言葉を
アレはたとえなどではない
彼らの終焉は本当に枯れて朽ちるのだ
しかし長寿であるエルフの終末者を見ることはあまりないだろう
なんにしても彼らは私たちに比べ長生きなのだ
その生涯は我々の二十倍もの長さであり
元は彼らと同じ出生の人間とは百倍と言われる程、寿命に差がある
まあ人間も最近は比較的長寿なので百倍は大袈裟にしても五十倍位はあろう
そうだエルフは人間から文字通り枝別れして生まれた種族なのだ
エルフは大森林で生まれた種族だ
ではなぜ大森林の外にもエルフがいるのかと言う話は後にする
エルフの祖
エルフ王一族その最初の一人
彼の名前は残っていない
昔は歌で伝わっていたのだが、遥かな昔、現エルフ王であるセン様がエルフ古語を廃し、エルフ達が俗に共通語と言う言葉のみを残した
ちなみにこれがセン様のエルフ王としての初仕事である
では本題に戻ろう
エルフとは何者か
答えを先に言って仕舞えば平穏な生活を主人様に願った人間の末裔だ
文献や古語
長寿者達の記憶
歯車の記録
それらを重ねれば答えは簡単に出るのだ
まだ大森林が毛人の楽園であった時代
文明を愛する彼らは古代から空腹を満たすために行なっていた人間狩りを野蛮だ、我々は文明人なのだと言って己達のそれを全面的に禁じた
さりとて彼らは人間を家畜にしようとも思わなかったらしい
人間は狩られる恐怖からは解放されたがさりとて大森林を出る方法がある訳ではない
人間は森の外の同族と同じく群が集まり大きな集落を作り共同体となり生活を始めた
最初、毛人達は野蛮人のする事だとそれを放置していた
例えるならば山で暮らす猿の群れを我々が気にしないのと同じようなものだろう
だが、後に拡張前夜と呼ばれる時代が訪れると話は変わってきた
当時唯一の「人」であった毛人達の中に、このままではいずれ己達は増えすぎた人口のために飢えて荒廃する時が訪れると言う終末思想が蔓延していた
のちの目から見れば何とも笑ってしまう話なのだが当時の彼らはそれを真剣に論じていた
そして結論としてこの楽園をいくらか広げて耕作地を確保しようと言う考えに至った
激論だったらしい
そもそも森の外はもはや森でも何でもないではないか
何やら訳の分からん薄汚い奴らが群れているではないか
それらのせいで唯一の文明世界である大森林が滅ぶのではないか
酷い話だから当時はそんな事を真剣に論じていたらしい
そこにいる奴らを追い払って土地だけを手に入れるべきだ
声高にそう叫ぶ者達も多くいたと言う
だが彼らは同時に己の歴史も知っていた
今から見れば小さな世界ではあるが、大森林が産まれ、最初の僕の一族が選ばれ
そして彼らは少しづつ周りの他部族を文明を持って同化し
大森林の中全ての毛人達を文明人としていったのだ
ならば今度もそれでいいではないか
そうなったのだが問題があった
大森林はたまたま毛人達が多く住まう所であった
だが森の外は毛人以外が数多く闊歩する世界である
数だけなら他種を圧倒する人間
後々問題を引き起こすトカゲ(当時は竜と呼ばれていた)
毛人からすれば人間の亜種にしか見えない鬼(ゴブリンもこれに含まれる)
今は記録しか残っていない馬人に軟人
そんな諸々を受け入れなければいけないのだ
言ってしまえば毛人の国であった大森林を他種族国家に生まれ変わらせる事になる
今の我々からすれば何かそれが問題なのかとなるがそれは当時の彼らを大いに悩ませた
そこで彼らは国内でテストをしてみることにしたのだ
それがうまくいけば本番もいけるだろうと
その頃大森林の中で暮らす人間達は社会を作り毛人から教わったであろう農耕や牧畜を行い彼らなりの文明社会を作っていた
大げさに言うのならば自治を認められていたのだ
毛人相手の交易も盛んにだったらしい
まあ毛人からすればそれは施しのつもりだったと思うが
そんな彼らに白羽の矢が立ったのだ
毛人による人間の同化政策である
大変な苦労をしたようだが同化は百年と掛からず成功した
そしてそれまで大森林に暮らす生き物程度の扱いであったかれらが正式に大森林の一員として迎えられることとなった
主人様の下に晴れてご挨拶となったのだ
この時、謁見には人間社会の中で二番目に大きな集落をまとめていた集団の長が選ばれた
どうやら一番大きな集落を纏めていた長は問題のある人物だったらしい
何々の森の王で御座います
彼はそう主人様に言上したと言われている
主人様は彼と人間種族を迎えられ、毛人同様の繁栄と平穏をお約束くださった
何か望むものはあるか?
主人様のその問いに人間の王は健やかで穏やかな安らぎを望んだ
出来た人物だ
直接的に富や繁栄を求めずそれがいつか訪れるであろう環境を求めたのだ
ちなみにこの謁見を持ってエルフ達は己らを「最初の三人」と呼ぶ
最初の一人は毛人
二人目は翼人
そして自分達と言う意味だ
主人様に選ばれた一人目と二人目に比べれば毛人に連れられて来たのだから天地ほどの差があるとは思うが
主人様の下で暮らす事を許されたと言う意味でならば間違いなく三人目であるし
それにそれ以降に同化された種族と違い最初から大森林の中で暮らしていたのだからやはり三人目と名乗る資格はあるのだろう
それにしても翼人とは一体どんな人たちであったのだろう
その名のみが記録に残る彼ら
まだ争いを好んでいた時代の毛人に滅ぼされでもしたのだろうか
そもそもどの文献にも最初にお声がけいただいたのが毛人でその次が翼人であったとしか書かれていないし
その後一切その名が現れることがない
ワンワン様に聞いても翼人は今もいるのだと言うばかりで一向に彼らが何者なのかを語ることがない
翼人については本題では無いのでこれくらいにしておくが
主人様は人間の王が何とかの森の王と名乗ったからだろう
彼らに大樹をお与えくださった
その木の下で暮らせば病もなく飢えもなく
王は人間達にその木を傷つける事を禁じその恩恵を己が国に住む者とを訪れる全ての人間のものとした
実に素晴らしい
だがそれを面白くなく思う人間がいた
一番多くの人間をまとめる王だ
あの木は本当なら自分がいただくものだったのだと声高に叫び
大樹の「奪還」を宣言した
無論大森林内で集落同士の争いなど許されない
もしそんなことが起こればワンワン様が獣拳を率いてやって来てしまう
無論大樹の王はその引き渡しを拒んだ
そしてそんなある夜
彼は大樹の声を聞いたのだ
私の実を呑め
そして私の葉を飲ませた女と子を成せ
そして私を愚か者にくれてしまえ
大樹声を聞いた大樹の王は早速大樹に向かうとそこにはひとつ実がなっていた
王はその実を呑み一振りの枝からもいだ葉を后達に煎じて飲ませた
余談だが煎じて飲んだ后達が皆女の子を産んだのでこれに習い煎じた葉から生まれたお姫さまと言う意味で姫を「セン」と呼ぶならわしができたのだ
実を呑んだ大樹の王は日々若返り
遂には青年の体を手に入れ
葉を飲んだ后達はいつまでも老いることがなくなった
昔話によればこの時、王と后達の耳が大樹の葉の様に伸びたらしい
さておき大樹の王はその声に従い大国の王に大樹を渡した
大樹を奪い取った大国では王は殺され葉の奪い合いがおこり
大樹の皮までも剥がされ根は食われ枝はかじられ3日と経たず大樹は枯れて果てた
大国では大樹を口に出来たものと出来なかったものに別れ
それらが今に続く人間とエルフの境目となった
大樹を失った大樹王はしかしその事を欠片ほども嘆かなかった
彼は集まる人々の前でこう言い放った
皆の大樹はまだ此処にある
私が大樹であるのだ
安心してほしい私は千年ののちに姿を変え新たな大樹として皆を育もう
后達の産んだ娘達は皆の子を産もう
その中の最初の一人を次の王に
他の子は皆とともに
何も嘆くことはない
三代五代と子達が子達を産めばいずれ此処にいる皆の子が大樹の子となるのだ
そしてその言葉の通りそれこそねずみ算の要領で長寿の種族が誕生し
それを見届けた王は新たな大樹に姿を変え、その中に次代の王を住まわせ、今でも己の一族の繁栄を見守っている
そして時が経った今、大樹のウロに住まいを持つセン様には今でも大樹の声が聞こえているのかもしれない
さて、では大樹を奪い取った大国の方のエルフ達はどうなったかと言うと
国の中でどうしようもない格差と偏見がはびこり
数千年それが続いたのち
それが原因となりよりにもよって人間側が主導権を握り巻き起こるエルフ排斥の流れの中、大樹にかじりついた者達の多くは国を追われその中の一部が大森林を出ていったのだ
無論断りなく一度でも大森林を出たものは二度とこれに戻ることは許されない
それがこの生ける者の楽園たる大森林の掟だ
だが彼らは何処にいても病に苦しむこともなく飢えにもめっぽう強くその上無限に思われるような生命を持っている
例えそこが蛮族溢れる世界であってもだ
これが大森林の外にもエルフと言う種族がいる事の理由である
無論大樹のエルフを祖先に持つ蛮族のエルフも少しはいるがそれは自由を愛しすぎた変わり者の子孫ということになるのでまた別の話となる
ちなみに現在、大樹の葉はエルフ王の装飾に使う以外では薬の原材料としてのみ採取が許されている
煮ても焼いてもどうにもならない大樹の葉をどうやって薬に加工しているかは歯車のみぞ知るだが多かれ少なかれ大森林に住まう者は大樹の恩恵を受けているのだ
さてザッと話たが
ではなぜ人間は皆エルフにならなかったか
それは残念なことにエルフと人間の時間の違いが原因だ
愛おしい者は永くそばにいてほしいものだ
つまりエルフとなった者達は必然エルフの中かにつがいを求める様になった
こればかりは全ての人にその恩恵をと願った大樹の王の言葉を持ってしてもどうにもならなかったのだろう
それが何万年も続くうちにエルフの血は濃く
人間の血もまた濃くなり
エルフと人間の間に種と言う仕切りが出来てしまったのだ
さて随分遠回りしてしまったが此処で本題に戻ろう
何故エルフは健康か
答えは彼らは人であり樹木であるからだ
木は風邪など引かないし虫歯にもならない
彼らは柳の様にしなやかで黒檀の様に強靭な四肢を持つ
そしてその生を終えた彼らは枯れて朽ちる
我々の様に腐って果てなどしない
火葬の習慣はエルフから始まったのだよ
生あるうちは生木のごとく炎も恐れない彼らが果てた後は欠片も残さず燃えてしまうのだ
何故そんな事をエルフでもない私が知っているかといえば私は今まで三度エルフの死に立ち会っている
いるのだがそれはまた別の話だ
だからそれについてはまたいつか別の機会に話そう




