表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

二人目の医師

医院

そんな風に呼ばれているモノがレーダの街には二つある


ひとつは正堂が運営している施設

もうひとつは白姫様の奇跡をお与えくださる施設

街の者に病院は何処だと聞けば皆が皆白姫様の医院を指差す

奇跡の医院は世界に五ヶ所


王都

ヒバナ領大開拓地

大巌窟都市

エルフの森

そして白の都レーダ


それぞれにいかなる病も癒す奇跡を操る千手のゴーレムがおり

すべての病を癒す薬を蓄える

一時はコレを学んだ薬師たちが各地で開業したが、皆が皆白の誓いを守ることなく薬を断たれ廃業となった

白の誓いと言ったところで大したものではなく

訪れたものは皆順番に対価なく

ただそれだけなのだが

それだけなのだが、それを守られることが無かった

人とは業が深い


ところでこの五ヶ所なのだが、一ヶ所だけは特別なのだ

もちろんそうさ

レーダにある医院だ


他の四ヶ所は直接病人が訪れなければその奇跡は舞い降りない

だがレーダの医院にはさらに二つの奇跡があるのだ


ひとつは医師様

巌の様な体躯、伝説の姫騎士の遥か上をいくと言われる腕前

そんな医師様に見ていただければ奇跡のゴーレムよりも十倍も薬が効き

医院に来れぬ病人はその症状を聞くだけで薬の山の中から奇跡の一粒を選んでくださる

私もその奇跡を授かることの出来た一人だ

正確には私の母なのだが


奇跡は二つあると言ってまだひとつじゃ無いか

そう言いたいんだろう?

そらはこれから話す

この街

このレーダ

この白姫様のおわす街には

シャン様というもうひとつの奇跡がいらっしゃったと言うはなしだ


私と母は移民としてこの白姫様の街にやってきた

ここにさえ来れば土地がもらえ

王都よりも豊かな暮らしが出来ると聞いたからだ

ああそうだ

私と母は街を抜け出し関をやり過ごしこの街へやってきた

もし途中で領主の手の者に見つかりでもしたらえらい目に遭っていたと思うよ


此処へは道を使わず森を歩いてきた

王国の森はエルフが管理する所だ

たかだか逃げ出した乞食二人を追いかけて森の中にまで分け入る役人は少ない

私と母は朝日の登る方角を見てレーダを目指し森をいく日も歩いた

誰かにずっと見られている様な視線は感じたが一度もエルフの姿は見なかった

目がさめると果実が置かれている事も何度かあった

私たちの見た目にエルフ達が施してくれたんだろう


そろそろレーダも近いだろうと思い、森を出て行商人に声をかけると、大人の足なら一日、子供でも二日だと言われ

近くの正堂を頼るといいと言って正堂のお救い小屋を教えてくれた

今思えばあの行商人も正堂の教えを受けていたのだろう

別れ際に白の字を刻み私たちの無事を祈ってくれた


お救い小屋はまさに小屋で

それでも屋根があって水場があるだけで天国に思えた

日が暮れる前になんとか暖をとろうと火種を探していると人の近づく気配がし私と母は身構えた

お救い小屋っていうのは街道にある正堂が用意した無人の掘っ立て小屋で

休憩や一夜の寝床を旅人に提供する所で

そこに住むこととそこで正しく無い行いをする事が禁じられていた

正しく無い行いってのはつまり追い剥ぎの類さ


なにせ無人だから警戒した所でガキと女

祈れそうなもの全てに祈っていると棒を持った男が小屋を覗き込んだ

私がとっさに手にしたものを投げつけると

やめろやめろと言って男は顔を引っ込め

正堂隊だ、今日はお前たちだけが?と声をかけ棒を放り投げてみせた

それでも警戒していると、蒔きと火石を持ってきた、置きっ放しにして火事になったらたまらんからなと言ってヤギが引く荷車を指差した

何のことはない、お救い小屋の巡回に正堂隊が来ただけの事だった


私と母は有難うございますと何度も頭を下げ、囲炉裏に火を起こしてもらい暖をとった

誰もおらんだろうと思って途中で少しつまんじまったと言って正堂隊の男が差し出したパンを受け取ると、これも仕事でねと言いながら男は帳面を取り出し名前と目的地は?と私たちに声をかける

正直に答えていいものか悩んでいると

男は私たちの身なりを見て、まああんた達みたいなのは珍しくもないよと言いながら何事かを帳面に書き、続いて紙に何かを書いて母に渡してきた

レーダへの移民希望者だろ?

そんなことを言いながら

レーダに関は無いが一応持っていきなと言って何か書かれた紙をくれた

私も母も字など読めぬ

あれは何と書いてあったのかなぁ

町で暮らすうちに何処かへ行ってしまったからなあ


男は自分は仕事の続きがあると言ってヤギの引く荷車と一緒に街道警備へと戻り

私と母は豆だけつまみ食いされた豆パンを食べた

あの時はそんなものもご馳走に思えたよ

あくる朝は別の男が来てまたパンをくれた

すぐに立てば日暮れには着くよ

そんな事も言っていた


街に近づくにつれ人が増えて行くのをよく覚えているよ

いつのまにか街に入ったのじゃないかと思ったものだ

人と馬車が行き交う中を進むと、街の目印、その昔、白姫様が狭いと言って崩された街の門が見え

行き交う人にあそこがレーダだと聞き意味もなく喜んだものさ


白姫様が王都に向かわれた際に突き崩した門はレーダの誇り

白姫様のご威光に王が膝をついた記念すべき印

それがこの街の自慢だからね


そこに立つ役人かそれとも正堂の者か

幾人も立つ男の一人に昨晩の男からもらった紙を見せると、ああ、移民希望者ねと言って何の調べもせず、通りすがりのゴブリンを呼び止め、白の字を刻んでみせて私と母を指差した

ゴブリンは頷くと、ついてこいと手招きし、私と母はゴブリンに連れられ正堂へと向かった

本物のゴブリンを見たのはそれが初めてだったが、正堂に着くまでに数えきれないほどのゴブリンとすれ違い、その度にレーダに来たのだと母と言って何度も笑い

そんな私達を案内のゴブリンは不思議そうにみていた


途中、白の御屋敷の方を見てゴブリンが穴蔵の礼をしてみせ、私と母もそれに習った

レーダでは王にクソを投げてもヒバナ侯爵を蹴り飛ばしても誰も咎めないが白姫様に無礼だけは許されない


当たり前だ

皇帝もエルフの王も鬼の姫も皆白姫様のご威光の下にいるのだから

白姫様の御屋敷を過ぎると、とてつもなく大きな街の先にさらに門前町が続きようやく正堂へとたどり着く

案内をしてくれたゴブリンは受付の様な所でウゴウゴギーギーと言うと受付のゴブリンが帳面に何かを書く

ゴブリンは自分はコッチお前達はアッチと指で私たちに伝えると、そのまま仕事へと向かった


私たちはゴブリンへ礼を言い、指さされた方へ向かうとすぐに正堂の者に呼び止められた

移住希望者か?

そんな事を言っていたと思う

母はハイとかなんとか答えあの紙を見せたのだが正堂の者はチラリと見ただけで建物の一角を指差す

私は母と二人そちらへ向かい

正堂とは何と広く大きい所なのだろうと話したものだ

教えられた一角は戸が開け放たれており中を覗くと窓口がいくつもあり

入口の横に立っていた女に例の紙を見せようとするとそこに並べと言われ列に並ばされた


しばらくすると列が進み私たちも窓口へと誘われた

そこで名前と歳、それとどこから来たかを聞かれた

私と母は名を答え歳を言うと窓口の女は首を傾げだ

ああ、まだ言ってなかったな

私と母は血など繋がっていない

私は母にに拾われ育てられたのさ

その時のことはおぼろげにだが覚えているよ

母はボロ小屋で客を取り私を育ててくれていたのさ

まあそれに親子だと言っているのに母親もまだ少女に毛が生えた様な歳だったからね

ああそうさ、私と十しか違わないのさ


窓口の女はまあいいかと呟いていたよ

訳ありなんて珍しくもなかったんだろう

女は私たち二人に集団農園を勧めてくれた

住む所と食う物が有ってわずかだが白札ももらえるって

そもそもガキが二人で開墾なんか無理だからね

せっかくここまで来たのに土地はもらえないのかとガッカリしたが、それから何人か集まった所で連れられた正堂長屋を見て飛び上がったよ

今思えば白家のパチモンなんだが

屋根も壁も隙間なんてなくて

ちゃんとした寝床があって

食べ物は食堂に行けば三食べ放題

三食だ

わかるかい?レーダやヒバナ領以外で三度も飯が食える領民なんてまずいないんだ

風呂にも入れて古着じゃない衣類も渡された


今思えば最低限の着替えのものと作業着なんだが、宝物の様に見えたよ

極楽の様な寝床で一夜を過ごしその時の私達からすればご馳走の様な朝飯を食堂で食べていると長屋長が何かを張り出した

その日誰が何をするかがそこには書かれていたのだが私と母は字が読めない

すると長屋長がそれに書いてある事を読み上げ始めたのだ

私たち以外にも読み書きが出来ぬものが大勢いたのだよ


母は雑用係を言い渡され私は正堂で読み書きの修練だと言われた

母の手伝いをと思っていたし読み書きなどどうでもいいと思っていたので、少しヘソを曲げたのだが

母はお前の分も私が働くからと言って私に修練へ行けと言っていたな

修練の事はよく覚えていないがその帰りに渡された菓子の事は今でも忘れられない

甘くて甘くて

気がついたら最後のひとつになっていて、これは母に食べさせてあげようと長屋に戻ると母も間食にと出された同じものをひとつ持って帰ってきていて

お互いそれを見て笑ったものさ


それから半年ほど経った頃か

母は相変わらず雑用ばかりだが人一倍働いていたし私も読み書き計算を習う事が当たり前になっていた

そんなある日

母が熱を出して仕事を休んだ

根を詰めすぎたのか季節の変わり目だからかそんな所だろうと言って母は私を修練に送り出し、自分は1日寝ていれば治ると言って笑っていた

しかし私が修練から戻ると母は朝よりも辛そうで

それでも明日の朝まで寝れば治ると言って私を食堂に向かわせ

私がもらってきた粥にも手をつけることもなく辛そうにしていた


あくる朝、母の容態はますます悪く

流石にコレは寝ていればなんとかなるものではあるまいと私も思い、修練に行けと弱々しく私を叱る母に水を飲ませ、皆が仕事に向かったのを見て長屋長に話をし、それならば医師様の所だなと言うので、噂に聞く医師様の医院へ向かった


そこは人だかりで、どうしたら薬がもらえるのかも分からず、しばらくして順番に並んでいる事に気がつき、頬を抑え歯痛に耐える貴族の横で順番を待った


人数が人数なので随分と待たされたが

昼を随分とすぎたあたりで私の番になった

初めて見る噂の医師様は、私を見るとにこりと笑い、どうした?とこが痛いのか?と言って私の顔を覗き込んだ

私は医師様の姿を見て怯えてしまったが何とか拙い言葉で母の事を伝えると医師様は、ふむと考えると、薬をやる、それを飲めばお前の母はとりあえず楽になるから明日必ず連れてこいと言ってサラサラと紙に魔法文字を書き助手の獣人にそれを渡し

私は礼を言い獣人から薬の入った小袋を受け取ると長屋へと向かった

もう日も短くなっていたからか、程なく夕暮れが訪れようとしていた


私はちょっとした興味本位で袋を開け中を覗いてみた

そこには小さな

本当に小さな白い粒がひとつ入っていて

これが薬?と思い手のひらに乗せようとした

その大きさを考えればなんとも浅はかな行動なのだが

小さな粒は私の指をすり抜け足元に消えてしまった

悪い事にそこは雑草混じりの砂利道で

私は血の気の引く思いで足元を見回し必至に粒を探した

探すのだが日はどんどん暮れていく


これはいけないと思い急いで医院に戻ったがすでに医師様は帰えられた後で

千手のゴーレムが私を見て急患以外は帰りなさいと言うばかり

ゴーレムに何度言葉を尽くしても話が通じるわけでもなく

すがる思いで落としたあたりに戻り砂つぶをひとつひとつ摘んでは薬ではないかと確かめた

そんな日のくれたあの日だ

そこに奇跡が舞い降りたのは


何してんだ?

そんな声に顔を上げると一人のお婆さんが杖で鼻眼鏡を直しながら僕のことを見下ろしていた

お婆さんは荷物を持ったゴブリンと人間を連れていた

私はいつの間にかあふれていた涙を拭いながら事情を話すと

わかったわかった男が泣くなと言って笑い、荷物持ちの二人に先に行けと言うと、ついてこいと言って私の手を引き

その見た目とは裏腹にしっかりとした足取りで医院へと向かった

医院を見回る正堂隊を気にもせず、お婆さんはまるで我が家の様に医院の戸を開けると、千手のゴーレムを杖でコツコツと叩き邪魔するぜと言ってズカズカと奥へと進んだ

お婆さんのあまりの大胆な行動に私が驚いていると、薬棚の前に立ち、お前の母ちゃんの具合を言ってみろと言い

母の様子と続いて聞かれた背格好も伝えた

じゃあこれを一粒だな

お婆さんはそんな事を言いながら薬をひとつ取り出し私にそれを見せた

それは先程袋の中で見たそれと同じで

驚く私に

ここにある薬ならリヨより詳しいぜと言って袋に入れて渡してくれた

いいのかとためらう私に

大丈夫だよ、毛玉娘の前は私がリヨの助手やってたんだから、文句なんか誰も言わねえよと言って私の頭をポンと叩いた

八十過ぎたら定年だって言われちまってよ、百まで続けてやろうと思ってたのになと笑うお婆さんはふと真面目な顔になると、私に、母ちゃんに薬を飲ませたら元気になるけど絶対に仕事にいかすな、引きずってでもリヨのところに連れてこいと言い、さあ早く帰れと私を送り出した


長屋に戻り、なぜ修練に行かなかったと叱る母に薬を飲ませた

朝になる頃には昨日までが嘘の様に母は元気になり、これで仕事にも行けると笑う母に、医師様のところへ行こうと私がいくら言っても母は取り合わず

そんな所へ長屋長が現れ私たちにこう告げた

迎えの馬車が来てる、医院へ向かえと


ポカンとする私たちは誰がよこしたのか分からぬ馬車で医院へ向うと着いてすぐ母は医師様に腹を切り裂かれ病の元を取り出された

今日は入院してもらうぞと言う医師様

何が何やら分からぬ私は相変わらず修練に行けとうるさい母に付き添っていると、昨日のお婆さんが現れ横になる母の頭を杖でポカリと叩く

動けなくなるまで我慢してんじゃねぇ

そんな事を言いながら

続いて私に一丁前になったら車代払えよと言うとそのまま医師様の所へ向かった


この人は何者なのだろうとお婆さんの後をつけ聞き耳を立てていると、医師様の声で、まったく、毎晩勝手にここを開けるなとため息混じりの声が聞こえ

続けて、少しばかり薬減らすの手伝ってやってんだから気にするなよとお婆さんの笑う声が聞こえた


そうだ、街のものなら知らぬ者はいない話なのだ

街一番の大商人、ゴブリン商会のシャン婦人は百余才でこの世を去るまで医師様の帰られた後、夜の医院で診察を続け

人々を救っていらっしゃったのだ


レーダの医院には日が暮れたのちも心を持った奇跡がいらっしゃるのだ

他の四ヶ所にはない素晴らしい奇跡の

二人目の医師

シャン様


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ