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蛮族少女の初恋

これは個人の日記である

しかし残念かなあまり勉学に熱心でなかった様で非常にたどたどしく

そのうえ殆どは蛮族の文字で書かれている

成人してから書き始めておりそれ以前のことはポツポツと思い出した様に書かれているばかり

それでも彼女の半生記と呼ぶべきそれは大変に興味深い

数十年に渡りワンワン様と交流を持った蛮族が残した記録など他にないのだから



初めてワンワンを見た日のことは今でも鮮明に覚えている

兄からスズの所に喋るイヌがやって来たとは聞かされていた

初めて見て最初に思ったのは「かわいい」

獣人退治に海辺の村へ向かった時の事だった

スズが持ち出した動く小部屋、その中から見せた姿

とても綺麗な服を嫌味なく着こなし

私の手を淑女の様に引いてくれた

着飾るスズが羨ましく身を乗り出す私にそっと手を添えもしてくれた

小部屋の中で触れたその毛はとても柔らかく艶やかで、あれこれと話を聞く私に怒りもせずひとつひとつちゃんと答えてくれた

海辺の村へ着くとスズを出迎えた役人が何か大きな声をあげたが、それをたしなめる彼の姿は本当に男らしく頼もしく

村に獣人が現れても慌てず騒がず、薄汚い獣人の爪で汚れぬ様にと服を脱ぎ

その爪を振るう獣人を戯れる子犬の様にあしらい

彼が軽く頬を叩いただけで獣人の首は消し飛んだ

兄と義姉は噴水の様に血を吹き上げる獣人を見て抱き合いながら震えていたが私は少しも怖いとは思わなかった

ひとことふたことスズと言葉を交わし笑うその姿

私には昔語りの英雄そのままに見えた

私は彼が退治した獣人の牙を拾いそれを首飾りにしてもらい

今でもそれが私の胸元を彩る

それまでスズがしている真珠の首飾りを指をくわえて見ていたが、牙の首飾りを手に入れて以来その感情は消えた

だってそうでしょう?この首飾りは彼にこさえてもらったのだもの


それ以来、私は店から骨を持ち出しては彼の元に向かい

街で見かければ野花を摘んで渡した

いつだったか街の子供達を引き連れ歩く彼に野花を渡し、貴方のお嫁さんになってあげると伝えると、彼は笑ってそれはありがたいと言ってくれた

しかし現実は残酷なもので、私は年頃になると土地が広くて戦争が強いだけの貧乏貴族に嫁ぐことになった

理由はいろいろ有るけどそのひとつはスズのお腹の子が彼の子だと感じたから

彼はスズの事を妹だと言っていたしシジュウもスズの兄だと言っていた

私にも兄はいるが、兄は私をお姫様の様に抱き抱えたり私のために貴族と決闘をしてはくれはしない

あの人はスズなんかには勿体無いが私にはもっと勿体無い

だからそれはそれでと自分を納得させた


私が今でも迎賓館で働く理由の一つはひょいと顔をだし元気にしているかと声をかけてくれる彼の顔を見る為だ

彼は見回りだと言っていつも私がいる日に顔を出してくれる


さて、コレをのぞき見たなら彼の様に強く優しく紳士的な男になりなさい

貴方に言ってるのよ、シミン

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