正堂の犬たち
コレは編入を機に解散した組織の話である
だがその話の中からそれ以前の暮らしを窺い知る出来事があった
なのでこれを残す事とした
正堂の仕事は多岐に渡る
街角に立っての説法から正堂隊を率いての戦まで
しかし我々が一番よく目にする正堂の者と言えば治安を守る正犬正堂隊だろう
正堂隊と一口に言っても正敵を打つ義勇正堂隊から街の清掃を行う少年正堂隊まであり
全てを正堂隊の一言でまとめてしまうには雑過ぎる
黒犬と言う言葉を聞いたことがあるだろうか
無論毛の黒い犬の事ではなく
犯罪組織に潜り込みその悪事を暴く
正堂の中でも最も危険な仕事をこなす者達のことだ
もし自分の事を元黒犬だと言う者と出会ったことがあるなら残念ながらそれは偽物だ
誠の黒犬は決して己の素性を明かす事はない
例えそれが死の淵の床であってもだ
そして黒犬同士に横の繋がりはない
だから同じ潜伏先に複数の黒犬が送り込まれていたとしてもお互いはそれを一切関知しない
ここで一つ黒犬の成し遂げた成果を語ろう
コレはその存在を知らしめ、抑止とすべく正堂がその成果として発表しているたった一つの
本物の黒犬の話だ
正堂図書館に行けば読める
それを世間に広める事で悪党どもにここにも正堂の手先がいるのかもしれないと頭を抱えさせることが出来るのだ
帝都レーダは大変治安の良い街だ
魔法使い白姫様がおり
正堂があり
皇帝もいる
だがしかし一つの犯罪もないかと言われれば否だ
例えば子供を使った窃盗団
大人が家なし子達を使いスリから強盗まで手広くさせる
そんな奴らが蔓延っていた
いつからとか
どの位とかは言えん
と言うかわからない、が、正堂はそこに黒犬を送り込んだ
潜入したのは少なくとも二人以上だ
それも大人だけでなく子供もな
報告は慎重だが仔細に、密かにだが頻繁に行われた
読んでみるといい中々に悲惨だぞ?
子供達はムチで叩かれ失敗すれば飯を抜かれ役に立たねば放り出される
いや、放り出された奴らの方が良かった
そこらに隠れ住む浮浪児なら見つけ次第正堂が迎え入れ正しくしてくれるからな
獣人の巫女ウジイエにかかれば浮浪児の隠れ家など瞬く間に見つけてしまうよ
問題は盗人として才能があった子達さ
彼らは「家」と呼ぶアジトに集って盗みの腕を競い成果を競っていたのさ
「親」に褒められたくてね
何が「親」だ
吐き捨てたいが子達は仮初めの家族として「お父さん」やら「お姉さん」なんて呼んでクズどもを慕っていたのさ
シノギの集金
正堂はそこを狙った
黒犬から上がる報告で場所も時間も把握していたからね
その日は奴らにとっても大漁だった
正堂がバラまいた餌とも知らず
子供達はスった財布で懐をパンパンにして「家」に戻り「親」達は顔役に収めてもなお溢れる白札に浮かれていた
そしてそこに正堂隊がなだれ込んだ
正堂隊だけじゃ無い
ヒバナ侯爵様の兵隊もだ
皇帝?
王家?
あいつらはダメさ
何せ上納金のいくらかはそちらの方へ流れていたんだから
この白姫様がいらっしゃるレーダにおいて袖の下の通じぬ者こそが誠の頼りなのだ
シミン侯爵は確かにクズだが
間違いなく正義の人であり
正人だった
正堂御用改めだ!
その声を聞き「親」達は灯りを消し子供達は言いつけ通り散り散りに逃げた
だがそれも予め分かっていた
全て黒犬から報告されていたからね
暗闇にはヒバナ侯爵様のゴブリン達が先陣を切って雪崩れ込んだ
何せ彼らにとってはただ(暗い)ってだけだからね
逃げた子供達はいくらも走らぬうちにヒバナ侯爵様の所の獣人達に捕らえられ引っ立てられた
一箇所に集められた子供達を見て獣人の一人が此奴らは食っていいのかと正堂の役人に聞くのを見て子供達はガタガタと震えていたよ
ああ、その獣人も冗談で言ったんだがね
ヒバナ侯爵領ならともかくレーダではまだ獣人は珍しかったから子供達は怯えていたもんさ
ん?
勿論黒犬達には襲撃の事は教えられていないよ、気取られてはいけないからね
それに正堂隊もヒバナ侯爵様の兵隊も黒犬の事は知らされていない
「親」に成りすましていた黒犬は正堂隊に滅多打ちにされて引っ立てられ
他の「親」とはバラバラにされ矯正施設へ送られる段になって初めて迎えの犬が来るのさ
襲撃前に姿を消したり襲撃後に正堂隊と話しているところを見られでもしたら黒犬として二度と役に立たないからね
ほとぼりが冷めた頃、矯正施設帰りの肩書でまた別の組織に潜り込む
それが黒犬
「親」の元締?
脳天を白い弓矢に貫かれて吊るされたよ
正堂隊にはエルフだっているからね
霞む様な距離から壁の向こうにいる奴をエルフ王から与えられた弓を使いぶち抜いたのさ
どうやってかって?
その時間そいつがそこに立つことが分かっていたからさ
そう、そこにも黒犬はいたのさ
子供達は正堂送りだけは嫌だと怯えていたよ
泣く子もいたな
規則で雁字搦め
泣くことも笑うことも決められた様にさせられるって「親」に教え込まれていたからね
まあ規則にうるさいのは認めるし自由とはなんぞやって問答になってしまうからそれはさて置こう
正しく無い子供達の教育は徹底して行う
人の道に戻し
正しい道へ導く
それが正堂の仕事だからね
そしてそんな子供達の中から心の芯まで正しく染まった者の中を探し、その中から次の黒犬が選ばれるのさ
私がなぜ黒犬になったのか?
おいおい、私は黒犬だったなんて一度でも言ったかい?
そうだな、仮に私が黒犬だったとしようか
だけどそうだなぁ
あんたまだここに白姫様がいらっしゃったばかりの頃のことを知ってるかい?
正堂は救済院と呼ばれていてそこは貧民窟よりも酷いところだった
わかるかい?
まあわからんだろうね
白姫様の白きこの街を白くあるために犬は黒くなければならんのさ
最後に一つ教えよう
最も多くの黒犬が送り込まれている組織が何処か
皇帝?
王領?
違うね
答えは正堂さ
この帝国世界で一番大きな組織
正堂こそを見張るのが黒犬達の真の使命
そして正堂長様と共に白姫様への鋼の誓いを立てた百人の使命なのさ




