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魔骨戦線  作者: TUBOT
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1話

 巨大な石の壁がそびえたっている。ここから逃げる事は難しそうだ。

「ただの訓練所に、こんな壁必要ないでしょ……」

 私は、ここがどんな施設なのか分かったうえで言う。

 前に一人、後ろに一人の兵士が付き添いながら壁に埋め込まれている重厚な鉄の扉をくぐった。

 この扉を通ってまた外に出るには、この中での訓練に耐えきる必要があるのだ。

 扉をくぐると、銀髪の好青年という見た目の男子がいた。

 それを遠巻きに見つめるこの訓練所の生徒達。彼らはこの瞬間から敵同士になる仲間たちだ。

「よろしくシミリー君。僕はディアン。この訓練所の学級委員みたいなものだと思ってくれていい」

 私はディアンの笑顔を虚ろな目で見上げた。この絵に描いたような好青年の笑顔は、普段の余裕のある私なら一瞬で恋に落ちていたかもしれないくらい爽やかだ。

 手を差し出し、握手を求めてくる。

「よろしく……」

 私はその手を軽く握り返すだけ。

 私のそっけない対応にも、メゲずに笑顔を作り続けるディアン。

「ここは厳しい場所だけど、そこまで落ち込むことはない。訓練だって丁寧に教えてくれるし、君は貴重な魔骨保有者だ。そこまでヒドい扱いは……」

「ディアン。脈がねぇんだからそこまでにしろよ。それともその女を囲いたくて必死か?」

 ディアンの言葉の途中に、ある生徒が声をかけてきた。

 その生徒は女子生徒を隣に立たせていた。肩に手を回しているのを見ると、何かの深い関係であるのではないかと思う。

 だが、女子の表情を見ると、何か違和感を感じるところがある。私の女の勘が読むところによると嫌々という感じだ。

「そんな事……」

 そう。どうでもいい。

 こんな状況になっても、他人の事情を詮索する余裕がある自分に嫌気がさした。

「案内をお願いします」

 ディアンの次の言葉を待たず、私は言う。

「こっちだよ」

 ディアンは言い、私の案内を始めた。

 建物の中に入る。ダークオークの暗めの色調の内装。沈んでいる今の気持ちに見合って落ち着いてきた。

 ディアンの案内に従って廊下を歩く。

 向かいから赤い髪の少年が歩いてきた。

 ここの訓練で体が引き締まっている。長身で細い体をしていた。

 彼は私の事を見つめていた。向かいから歩いて私の前にまで歩き出る。

 すると、おもむろに彼は私の頬を軽く叩いて顔を上げさせた。

 彼と目が合う。光を感じない黒い瞳の彼は私の顔を見つめると、一言語りかけた。

「顔を上げろ。ここは地獄だがあの世ではない」

 私はその言葉を聞いて疑問に思った。

 私に何を伝えたいのだろう? ここがあの世でない事は私だって分かっている。

 だが、赤い髪の彼はそれ以上は何も言わず、私の後ろに歩いていった。


「彼はサージラス。成績は中の下くらいだ」

 ディアンが私を部屋にまで案内すると、何も聞かないのにそう言い出した。

「彼は不思議な子でね。過去の事を一切語らないんだ。ちょっとくらい言ってもいいと思わないかい?」

 饒舌なディアン。その様子が怪しいと思った私はディアンに聞いてみる。

「サージラスの事を何か知っているの?」

 そう聞くと、一瞬の間ディアンが動きを止めた。

「何かっていうのは何かな? 彼は自分の過去を語らないけど、何も知らないってわけじゃないよ?」

 何が聞きたいのかわからない。そうアピールして言葉を並べたディアン。

 だが、一瞬だけディアンは動きを止め緊張をした。ディアンはサージラスの何かの秘密を知っている。

「私。ここに入ってすぐで不安なんだ。何か複雑な問題があるなら巻き込まないでね」

 そう言う。ディアンはクスクス笑った。

「君は察しのいい子のようだね。ここは複雑な問題だらけさ。そして、生徒になったからには君は巻き込まれないなんて訳にはいかない」

 これがディアンの本性か? 何か嫌な言い方をしてくるようになった。

「失礼。僕も怒る事があるんだ。つい感情的になったよ」

 すぐに謝ってきたが、彼が本性を見せた事には変わりない。

「ボクと同盟を組もう。君は仲間を見つけないといけない」

 いきなり言うディアン。

「この学校の事を分かってもらってからって思っていたけど、同盟を組むなら早い方がいい。君のように察しのいい子はどこも欲しがるんだ」

「同盟っていうのは、わからない」

 いくら察しが良くても分からない事もある。そう伝えたい私はそう言った。

「ははは……焦りすぎたか……同盟ってのは体で分かるのが一番さ。少し待って、もう一度誘う事にするよ」

 ディアンは好青年を装っていても、どうも感情の制御がきかないタイプであると見た。

 同盟とは何かは知らないが、彼と組むのは得策ではない。

「いきなり嫌われたようだね。全ての人を疑っているような瞳。彼と同じだよ」

「サージラスの事?」

 私がディアンに聞くと、またピタリと動きを止めた。腕が震えているのは怒りを抑えているのだろうか。

 私がじっとディアンの事を見つめると、ディアンは髪をかきあげてかぶりを振った。

「余計な事を言ったら彼に殺されるよ。あれでも隠れた実力者だからね」

 その彼の成績は中の下と言っていたのに、隠れた実力者らしい。

「もういい。自分で調べる」

 私はディアンを突き放して言う。

「そうしてくれ」

 短く言ったディアンは、部屋から退室していった。


「サージラス……」

 私は気になったあの子の事を考えた。

 確かに光を感じない目であった。私もあのような目をしているのだろうか?

 備え付けられている簡素なベッドに寝転ぶ。

 天上にが骸骨がぶら下がっていた。この部屋を使っていた訓練生の骸骨だろう。

 骨をつなぎ合わせて作られた燭台。この国にやってきた人は大抵それを見るだけで驚く。

 この国の風習は奇妙なものらしい。人間の死体には生前にため込んだ魔力が残っており、それを身近に置いておく事で、その魔力を浴びることができる。

 そのおかげか、この国は魔法国家とその名を知られ、周辺の国を隷属させたり、ややこちらに有利な同盟関係を作ったりしている。

 それは、この場所のような訓練施設がいくつもあり、魔法のエリートを大量に排出しているおかげでもある。

 その魔法のエリート達は盗賊の討伐や、内部の不穏分子の粛清などの仕事に従事しているが、近いうちに戦争があるのではないかと言われている。

 この国は十年に一度戦争をしている。

 計画的に戦争をしているのだ。十年あれば十歳の子供がニ十歳になる。十歳の時にこの国の勝利に酔いしれ、戦争に憧れを持った子供がニ十歳になって戦場に立つ。それを繰り返し、質の高い兵力を維持しているのだ。

 そして、前回の戦争は九年前。恐らく来年あたりに新しい戦争が勃発する。

 私はその一年の間に戦争に送られても死なないだけの力をつけないといけない。

「同盟か。サージラスとできないかな?」

 そう考える私。

 一番信用できそうなのは何の裏も見えない彼だろう。

 ディアンからこの場所のキナ臭さは伝わる。私は厄介ごとから離れて一人で自由に訓練を積んでおかないといけないのだ。

「おねえちゃんがんばるよ。キミを助け出せるくらいに……」

 もしかしたら、妹を助け出す事もできるかもしれない。

 淡い期待を抱きながら、私は目をつむり夕食の時間がやってくるのを待った。


「あの子。なんか暗いよね」

「近づきがたいー」

 私の事を遠巻きに見て、そう話し合う女子達の声が聞こえる。

 私は食堂の隅の席に座った。食事のパンと牛乳をもらい、座れる席を探した結果だ。こんな奥まで歩いて食事をするのは私くらいだ。

 みんなは、頭上に燭台の並んだ明るい場所で夕食をとっていた。食事中の彼らは、十代の少年少女らしく輝いていた。笑顔が見え楽しそうに笑う。

 私とは全然違う人種だ。

「こんばんは。サージラス」

 私の後ろの席にはサージラスがいる。勇気を出して声をかけみたが、彼の反応はなかった。

「俺にかまうな」

 小さく言うサージラス。その言葉は彼と仲良くなりたいと思っている私の胸に刺さる。

「私を励まそうとしてくれたんでしょう? ここはあの世じゃないからね」

 なんとか彼の気を引こうとする私。だが、サージラスの返答はそっけないものだった。

「そんな事言わなければよかった」

 面倒そうにして言うサージラス。

「俺に他人とつるむ気はない。権力争いなんて勝手にやれ」

「権力争い?」

 私はサージラスの言葉に聞き返した。

「まだ知らないのか?」

 それでサージラスの表情が少しだけ見えた。目を丸くして私を見つめたのだ。

「ここは階級システムがある」

 それからサージラスは話し出す。案外サージラスは話し上手なのだ。一度聞いただけでわかりやすく教えてくれた。

 ここの訓練生達は、戦争が始まると全員が一緒に戦地に送られる。その時のために仲間関係を作っていて、訓練所もそれを推奨しているという。

 同盟にランク付けをして、高いランクの同盟に参加しているといろいろな特典が付く。私はパンと牛乳だけしか出されなかったが、厚いステーキをほうばっている訓練生もいる。

「ディアンの同盟……」

 ステーキの乗せられた皿を並べている連中の中にディアンの姿があった。

「あいつの同盟に誘われたんだろう? 入るのが得策だ」

 サージラスはそれで話は終わりといった感じで、パンをかじり始めた。

「あなたは入らないの?」

 私はサージラスに聞く。サージラスはいきなり不機嫌そうな顔になった。

「あいつはキナ臭い。この訓練所のボス猿では満足していない様子だ」

 サージラスは私がディアンに感じたものと同じものを感じているようだ。

「俺は一人同盟を作ってどことも接触せずにいく。誰かに守られるのはゴメンだ」

「守られるのが御免? なんで?」

 守られるならいい事であると思う。だが、私の質問はサージラスの癇に障ったようだ。

「他人の迷惑になるなら、死んだ方がマシだ。それだけの意味」

 そう早口に言うと、まだ齧りかけのパンを置いて、席を立って行った。

「それ、本心じゃないね?」

 私はサージラスの背中に声をかける。サージラスは振り返り、私に事を睨みつけた。数秒睨みつけた後、サージラスは先に歩いて行ってしまった。


 サージラスの事が気になる。

 彼の事に興味がわいた。

「けっこういい人そうだし……」

 それに一人でいる方が好きそうというのもいい。私も大勢の中には入れない人間だ。

 私はこれからどうサージラスに近づいていこうかと考えた。ああいうタイプほど、困った時には助けてくれそうだ。パンを食べきり席を立とうとする。

 そこに肩を押さえつけられて座らされた。

「シミリーちゃん。うちの同盟に入らない? これお願いじゃなくて強制だから」

 後ろから嫌な声が聞こえる。

「ディアンも甘いんだよ。欲しい奴は無理やり入れちまえばいいんだ」

 その言葉から分かる。こいつはヤバい奴だ。ディアンよりも。

 私が振り返ると、女の子ばかりを連れた男がいた。

「いやらしい目……」

 目つきが嫌らしい、口元が気持ち悪く緩んでいる。女の子なら、絶対にこの男を好きにはならないだろう。

「躾が必要そうだな。だがそれは悪くないよ。俺にとってはプラスもいいところだ」

 後ろの女の子達も嫌悪感から口を押えて、この男から視線を逸らしていた。

 男は私の頭を掴みテーブルに押し付けた。

「ひどい事をしていると思うかい? 最初はこうするのが優しささ。この訓練所に入ったからには俺達に時間は残されていない。ゆっくりと状況を理解していく余裕なんてないんだ」

 テーブルとキスをしている私を見て、ディアンが割って入ってきた。

「レイオン、いますぐ彼女を離しな」

「こいつはお前をきな臭いと思っているぜ。助けてもらうのも迷惑だろう?」

 私の本心はそうだった。この、レイオンと呼ばれた男は嫌いだが、それ以上にディアンは怪しい。

「同盟に招待されました。おめでとう。シミリーちゃん。これで俺達は仲間だ」

 私はその男の言葉を聞いた。

 この状況をどうすればいいか分からない。ディアンに助けを求めるのはリスクが大きすぎる気がする。だからといって、私を助けてくれそうなのは彼しかいない。

「レイオン」

 後ろから静かな声が聞こえた。

「なんだ。ちょっと話しかけてもらっただけで友達気分か? これだからモテない奴は」

 レイオンが気持ち悪い事を言っている。そのレイオンを有無を言わせず引きずって私から離した。

「サージラス。助けてくれるの?」

「迷惑か?」

 迷惑なはずがない。私は首を横に振った。そうすると、サージラスはレイオンに向かって歩いていく。

「てめぇ! ランキング外の分際で!」

 レイオンが何か言っているがそんなものを意に介さないサージラスはレイオンを無言で殴っていく。

「サージラス! やりすぎだ!」

 ディアンがサージラスを止めに入る。

 ディアンがサージラスを羽交い絞めにすると、サージラスは一応は大人しくなった。

「こういう奴はハンパをすると調子に乗る。適当に痛めつけるだけじゃ手ぬるい」

「バカを言うな! 食堂でケンカをするだけでも論外なんだ!」

 確かにディアンの言葉ももっともだ。

 サージラスは私の方を見た。私に何か言って欲しいようだ。

「そ……そう。そもそも私に暴力をふるったのが始まりなんだし! 止めなくていいよ!」

「シミリー! 君も何を言ってる!」

 ディアンはさらに怒ったが、サージラスは私を見て頷いた。

 彼の行動で少しだけ心が通じ合ったような気がした。

 サージラスは自分の行動を肯定してくれる事を求めていた。被害者である私に意見を求めて、私に視線を向けたのだ。

 私の言った事はたしかにバカな事だが、サージラスのためになったのだ。

「試合だ! お前をボコボコにしてやる!」

 レイオンが叫んだ。

 周囲の女の子達に視線を送る。

「こいつは一人だけだ! 俺達全員でかかれば一瞬でボコボコだぜ!」

 レイオンが言うと、ディアンはいきなり落ち着きはらった顔をした。

 その行動に裏があるように思えて、笑顔が不快に見える。

「そういう話なら、僕は介入できないね」

 ディアンの言葉には何か裏があると感じる。不機嫌そうな顔をするサージラス。それに全く気付かないレイオンはこれはしめたものだという表情をした。

「そうだなディアン。これで、この話は俺達だけの問題になった」

 レイオンの後ろにいる女の子は十人以上。たとえ女の子ばかりと言っても、十人がかりでは勝てるはずもない。

「届けは俺が出してやろう。試合の日が楽しみだ」

 はっはっは……と嫌な高笑いをするレイオン。

 私はディアンがサージラスに近づいていくのを見た。

「まさか、黙ってボコボコにされるほどお人好しじゃないだろう?」

 ディアンがサージラスにそう言っているのが確かに聞こえた。その言葉にはどういう意味があるのか?

 私が原因で起こった試合。どう転んでいくかは私には分からない。


「ねぇ。サージラス」

 私は訓練で二人組を作る時を狙って彼に近づいた。グラウンドでの練習。ここで、体術や魔法の撃ち合いなどの訓練をする。

 案の定、仲間を作ることができていないサージラスのペアになる事に成功した私は、サージラスの腕の筋を伸ばす運動を手伝っている。

「いつもは誰と組んでいるの?」

「ディアンだ」

 学級委員の仕事だろう。仲間のいない子の相手になってあげるのも。

「なんか、失礼な事を考えていないか?」

「なにも……」

 頭の端で考えた事がサージラスに伝わったようだ。

「ペアが作れなくて見学になる事も多い。そのほうが都合がいいがな」

「さらにサージラスが悲しい子に見えてきた」

「何を憐れんでる? この訓練所で人の心配などしている余裕はないはずだ」

「そう言われるとそうなんだけど、話を逸らされているような気が……」

 ふん……と鼻を鳴らすサージラス。

 こんな話をするためにサージラスに近づいたのではない。私は余計な事を考えない事にした。

「ねぇ。試合には勝てそうなの?」

「どういう意味で聞いている?」

 自分でもいろんな取りようがあるようにこういう聞き方をしたつもりだ。彼はレイオンに簡単に勝てるほどの力を持っているのではないかと思っていた。

 彼にとって勝つとは、強力な自分の力を周りに悟らせない事であろう。そう思ったりもした。

「簡単に勝てるんだ。レイオンくらいになら……」

「勝てる。問題はどう勝つかだ」

 なんか、サージラスがいろいろな事を話してくれるようになったと思う。

 最初の警戒されている状態の彼からは、こんな話は聞き出せなかったのではないだろうか。

 これなら、もっと聞いてもいいかもしれない。私は意を決して聞いてみた。

「なんで力を隠しているの?」

「力は利用される。ディアンのような奴が出てくる」

「利用させればいいじゃない。毎日ステーキが食べれるよ」

「そんな安い餌に興味はない」

「なら、何になら興味があるの?」

 彼は力を隠している。だが、それをこの場で他人に知らしめようとしない。

 力を持っているといろんな特権が手に入る。力を隠す事はデメリットしかないはずだ。

 その中で彼が力を隠す理由は無茶で無謀なものだった。

「平穏だ」

 サージラスは静かに言った。

「俺はもう戦いたくはない」

 ここの訓練生にあるまじき言葉だ。ここにいる限り、そんな事は許されない。

「戦わなきゃいけないのが、ここの訓練生じゃ?」

 そう私が言うと、サージラスは少し口を閉じた。

 彼は何を考えているのだろうか? 彼の腕を取って柔軟体操の手伝いをする私は、彼がどう返事をするかを考えた。

 私と年はそう変わらないように見えるサージラス。

 彼は過去に何かあったのか? ディアンなら知っていそうだが、彼に聞くのは癪だし危険そうだ。

「どうやって勝とうか……一緒に考えようよ」

 彼の過去。彼の求めている平穏の意味。それらを考えるのは後にしようと思う。

 今は目の前の問題を片付けないといけない。

 レイオンとの戦いでどのように勝利すれば、サージラスの力が周囲にバレないか? それを、彼と一緒に考えてあげようと思った。

「すまない……」

 サージラスはそう言った。

「どういたしまして」

 彼としても私が一緒になって彼の戦い方を考えてくれるのはありがたいようだ。


「シミリー。サージラスと仲良くなったようで結構だね」

 訓練が終わると、ディアンが話しかけてきた。私は一人で訓練所の建物の中に歩いていくところだ。

「あなたにとって結構なことなの?」

「クラスメイト同士が仲良くする事が悪い事のはずがない」

 ディアンの言葉はこうだ。話を逸らされたような気がする。警戒している私に、ディアンは好青年とした笑顔を向けて来た。

 ディアンはおもむろに私の手を取った。

「君が欲しい」

 私はその言葉にビックリした。

 根暗な私は、男の子からこんなふうに告白をされた事はなかったのだ。つい胸がときめいてしまった。

 だがディアンは得体のしれない人物だ。そう思い、気の迷いを頭から振り払う。

「強引にでも君をモノにする。覚悟していろ」

 爽やかな笑顔の裏に、熱いものを隠している彼は私にそう言い放った。

 私の手を離すと、彼は同盟仲間の元へと歩いていく。

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