プロローグ
天井から骸骨の下がる部屋。この骸骨はこの監獄の偉い人か何かだろう。
この国は骸骨を長く保管する風習がある。
私は両手を拘束され、足枷をはめられた。着の身着のままでここに連れ込まれた私は、寝間着にしているくたびれたシャツを着ていたのだ。魔法陣の上に立たされると、右足の中から光があふれ、灯篭のような淡い光が漏れ出した。
私の足が照らし出したこの部屋は、見ただけでカビの据えた匂いが臭ってきそうな古い石が積まれた部屋だ。監獄の地下室。人を拘束する拷問台もある。
どうやら、私はその拷問台に送られることはなさそうだ。
「ふん。魔骨の持ち主か」
看守の男が言う。魔骨は私も聞いた事がある。魔骨を持つ者は強力な魔法が使える。
「魔骨の力を使い、この国に忠誠を尽くす気はあるか? あるのなら、お前の妹にも恩赦を与えよう」
雑な言い方で言う。この言葉の意味は私にはよく刺さるし、理解もできると思っての言い方だ。
私は父が逆賊として捕らえられた。
自由商人をしていた私の父は、隣国に我が国の機密を流していた。
スパイ行為は一族郎党処刑である。
父は殺され、母がいない私の家には私と妹しかいない。私達以外に捕まっている人間はいないはずだ。
「はい……妹だけは……」
「うむ。貴様の妹は矯正所で我が国の国民として正しい教育を受ける事になる。まだ幼い。最後のチャンスを与えられたと感謝せよ」
こんな言葉は何度も言ってきたのだろう。看守は特に感慨を感じている様子もない。
矯正所と名がついているが、実体は子供に強制労働をさせる施設だ。
少ない食事で、炭鉱の仕事やガレーの漕ぎ手などの重労働に従事させられるのだろう。
その妹を助けるには、自分が魔骨の力を使って活躍をするしかない。
戦争で敵を倒し、出世をして妹を助け出すのだ。
「そんなの無理……」
私はその考えに対して弱音を吐いた。戦争では自分のように魔骨を持つ者が敵に大勢いる。その敵を倒して自分が生き残る事なんてできるはずがない。
敵を二人倒して、生きて帰れば大戦果。十人以上の魔骨持ちを倒せば、勲章を与えられて一生自慢ができる。
簡単に聞こえるだろうか? その簡単なことができなくて、多くの者は戦場の露と消える。
私はうなだれて歩いた。石の廊下を進み鉄のドアを開けると物々しい印象のある内装からガラリと変り、清潔な木目の見える木の壁と木の床が見える。
歩いた先には地獄が待っている。小気味いい音を立てて開閉するドアを通って外に出ると、簡素な馬車があり、私は荷台に乗り込んだ。
砂利の放置された悪路を通る。ガタガタと揺れる馬車の荷台に乗りながら、自分の未来はどうなるだろうかと考えた。