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残念シスコン王子様  作者: ちゃんくろ
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名前にキタとブラックがつく生き物は大抵速い


なぜ俺は環境が激変する4月に投稿を開始してしまったのだろう……

環境の変化で病み始めてる人達(自分)を元気づけるために頑張っていこうと思います!


 季節は初春、桜の蕾が少しずつ頭をのぞかせ始めている。どこか祝福という言葉を感じさせる季節にも関わらず、それには全くもって似つかわしくないおっさんの野太い泣き声が、王城の入り口で木霊している。


「うぉぉ~~行かないでくれ~リーナ~~~!」

「お、お父様…苦しいです」


 野太い泣き声の正体は『雷帝(笑)』のライドボルガさんである。彼は今、学校に向けて出発する予定のエイリーナに抱きついて、駄々をこねている。そして、体格のいいライドボルガにがっしりと抱きつかれているエイリーナはとても苦しそうである。

 家族一同呆れ顔でその光景を眺めていたが、さすがにエイリーナが可哀想に思えてきたセミラリネスが助け舟を出す。


「ライドボルガさん、せっかくのドレスが汚れます。そろそろ離してあげてください」


 絶対に逆らってはいけない奥さん(セミラリネス)に注意され、ライドボルガは渋々エイリーナから離れた。

 それを見かねたエンディリオは、ライドボルガの肩に手を添えて励ましの言葉をかける。


「父さん…ドンマイ!」


 励ましの言葉である。励ましの言葉ではあるが、エンディリオの顔はそれを見た者を不愉快にさせるような歪んだ笑顔であり、その声音は語尾に草が生えてるかのような幻聴が聞こえてくる。励ますと見せかけた、煽りである。

 イラッときたライドボルガは愛剣である黄金色の2m近くある大剣を取り出し、構える。


「励ましの言葉をありがとう。エンディリオ君、お礼として稽古をつけてあげよう(これからもリーナの傍にいれるからって粋がりやがって…ぶっ潰す)」

「ありがとうございます。ちょうど俺も出発前に身体を動かしたい気分だったんですよ(どさくさに紛れてリーナに抱きついた落とし前をつけてもらおうか)」


 エンディリオはライドボルガが大剣を構えたのを確認すると、自分も愛剣の双剣を構える。この双剣も黄金色で二つとも雷を思わせるかのような見た目で、左手に持つ方が少し短い造りとなっている。

 お互いに本音を隠し建前で会話しつつ、稽古とは思えない雰囲気を醸し出しながら隙をうかがっている。そして両者が距離を詰めようと一歩踏み出したとき…


「あなた達…今日くらいは大人しくできませんの?」


 周辺の温度を三度ほど下げながら、セミラリネスの待ったが入る。

 そして周辺の気温の低下を確認すると、見事なシンクロ率で当の二人は足を揃え、手はピシッと横に添え、腰はキッチリと90度曲げた。


「「申し訳ございませんでした!」」


 理想的なまでの惚れ惚れしい謝罪である。

 そして一連の流れを黙って見ていた他の家族たちは、「この騒がしい日常も今日までか…」と呆れ半分、寂しさ半分といった表情を浮かべている。


 そんな状況で途中から完全に蚊帳の外な状態だったエイリーナは、拗ねた顔で「行ってまいります」と告げ、馬車に乗り込んだ。学校の寮は一人まで使用人を連れて行くことが許されているため、侍女のレーナも馬車に乗り込む。

 馬車に乗り込んだエイリーナを見て、慌てて自分も馬車に乗り込もうとするエンディリオであるが、セラネリアスに首根っこを掴まれて妨害される。


「…セラ姉さん、何故邪魔するのですか?俺はこれからリーナと馬車デートする予定なのですが?」

「あんたがリーナと同じ馬車に乗ってるところが公になったらマズいでしょうが!それにレーナもいるからデートは無理よ」

「じゃあ、誰がリーナの護衛をするというのですか?…レーナでも狂化獣相手だと厳しいと思いますよ?」

「私と貴方よ。……ただし、()からね!」

「もしかして空ってことは、俺も()()に乗るんですか?」

「あれって失礼ね。私の可愛い()()()よ!」


 言い終わるや否やセラネリアスは指笛を吹く、少しの間待っていると自分達の立っている場所に大きな影が差した。そしてそれの影の正体を確かめるため、上を向くとそこには全長5メートルを超える()()()()が翼をはためかせていた。突然のドラゴンの訪問により、馬が暴れている。


 何処にドラゴンをペットにする王女がいるのだろうか……

 セラネリアスはある日突然、「数日間出掛けてくる」と言って飛び出し、そして数日後にドラゴンに跨って帰ってきたのである。しかもペットとして紹介してきたのである。ドラゴンの名前はキタチャンブラック、愛称はキタチャンだ。如何にも速そうな名前だ。


 それ以来、このようにしてセラネリアスが指笛を吹くと何処からともなく現れるのである。


「早く乗りなさい」

「わかりましたよ。…そういえば久しぶりですね、キタチャンに乗るのも」

「リオとお父様が模擬試合する時くらいだからね」


 エンディリオとライドボルガは時々稽古という名の試合をする。その際、周囲に甚大な被害を及ぼすため、王都から少し離れた誰も寄り付かない…というよりも寄り付けない岩山で試合をする。その時に、キタチャンブラックに乗って行くことが多いのである。

 ちなみに、何の躊躇いもなくキタチャンブラックに乗れるのはセラネリアス、エンディリオ、ライドボルガとセラネリアスの親友のリリーと呼ばれる女性だけである。「高度1000メートルを超える位置を音速を超える速さで飛ぶドラゴンにちょこんと座って景色を楽しむ」なんて命知らずなこと普通はできない。


 そうこうしているうちに如何にか馬を落ち着かせ、馬車が出発する。ライドボルガはまた泣きながら、手を振っている。他の人もそんなライドボルガに呆れつつも手を振って、エイリーナを送り出している。

 エイリーナは馬車から身体をのぞかせながら、「長期休暇には帰ってきます」と言い、手を振り返している。


「それでは俺もそろそろ行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい。ちゃんと先生として頑張りなさいよ」

「お前なら大丈夫だとは思うが、気をつけてな」

「あちらでも新しい魔法が完成したら教えてくださいね!リオお兄様、いってらっしゃい!」

「…さっさと行け。バカ息子」


 エンディリオの「行ってきます」に対して、セミラリネス、シグネス、ローレンス、ライドボルガの順に言葉を返す。


「それじゃあ、出発するわよ!」


 セラネリアスが「ゴー」と声をかけると、キタチャンブラックはその大きな翼を広げて飛翔し、二人を乗せて馬車を上空から追いかけた。



ーーー



 セラネリアス達はドラゴンの背中に乗り、遥か上空からエイリーナを乗せた馬車を見守っている。

 馬車は現在、アレインスター王国のロバート公爵が管理している都市であるシリウスに向かっている。シリウスは王都から馬車で半日という比較的近いところにあり、長期休暇などでは軽く帰ることができる。馬車で半日、されどドラゴンなら30分もかからない。そのためいくら遅く飛んでも抜かしてしまうため、時々急上昇や急降下、一回転などのアクロバットを挟みつつ目的地に向かって進んでいる。


 ロバート領の領主であるランドルト・ロバートは魔法騎士団の騎士団長でもある。そしてそんな彼は、より強い人員を確保するためにバルフィラ魔法騎士学園という学校を建設した。バルフィラとは歴史上の英雄で、残虐な前魔王を倒し、人間領に平和をもたらした人物である。この学校はそんな人物を目指して勉学に励んでほしいという思いからバルフィラ魔法騎士学園と名付けられた。


 ちなみに、この学校には魔法騎士科と魔法師科があり、エイリーナは魔法師科のSクラスだ。クラスはS、A、B、Cの4つ分けられており、成績順に配属される。エイリーナの成績は2位だったため、文句なしのSクラスとなった。1位は平民の女の子だったらしく、思わぬダークホースに負けて悔しがっていた。

 そしてエンディリオは魔法騎士科2年Cクラスの担任を担うことになっている。


 アクロバットな飛行をしつつも順調に進み始めること数時間、エイリーナを乗せる馬車に近づく存在の気配をエンディリオとセラネリアスが感知した。


「この感じだと、Bレートくらいかしら?まあまあ大物ね」

「この距離から敵の強さもわかるんですか?」

「大体だけどね。冒険者やってると自然と身につくものよ」


 セラネリアスは王女でありながら冒険者もやっている。当然家族からの反対されたが、そんなことで止まる彼女ではない。危険なことはしないという条件で親の許可が出てしまったのである。王女でありながら冒険者として活躍し、ドラゴンすらも従順なペットにしてしまう。故に『暴雷姫』

 そして彼女の唯一人の親友は冒険者仲間である。そんな「王女?何それ、楽しいの?」状態のセラネリアスは現在最高ランクのSランク冒険者である。

 そんな彼女が言うのだから間違いないのだろうとエンディリオは何とも言えない気持ちになったが納得した。


 しばらく様子を見ていると、敵が見え始めた。狂化獣のくまごんだ。くまごんは真っ直ぐに馬車へ向かって走っている。


 狂化獣とは、大陸を二分割する<森>から生まれた狂った獣である。普通の獣とは違い目が赤く光っておりおり、大きさも本来の大きさと比べて二倍ほどになっている。

 森には比較的濃い魔力が漂っており、奥に行けば行くほど魔力は濃いくなる。そしてそれに当てられると、魔力耐性の弱いものや知性をほとんど持たない獣は狂い始めるのである。それらの要因から森の奥に行けば行くほど危険な狂化獣が生息しており、森の浅い部分には普通の動物か弱い狂化獣しかいないのである。

 今回のくまごんはそれなりに強くて、それなりにレアなケースである。


 くまごんが真っ直ぐ馬車に向かっていることを確認すると、セラネリアスはキタチャンブラックに指示を出す。


「餌が来たわ。やっちゃいなさい」

「ガァァ!」


 キタチャンブラックの急降下からの音速の膝蹴りがくまごんの顔面にヒットする。くまごんは200メートルほど飛んでいくと動かなくなった。よく見ると、頭は身体から切り離されており、遥か彼方へと飛んでいってしまっている。


「よくやったわキタチャン!でも食べるのは帰りね」

「…」(…キタチャンSugeeee!)


 エンディリオはキタチャンブラックが戦うところを初めて見たが、想像以上の強さに声が出ない。そしてそんなキタチャンブラックをどうやってペットにしたのか…戦慄した視線をセラネリアスに向けるが、セラネリアスは気づいてはくれなかった。



ーーー



 そんなイベントがあと二回ほど起きると、一行はようやくシリウスに着いた。


 セラネリアスは学校の寮までエイリーナとレーナを送っているため、エンディリオとキタチャンブラックは街の外で待っている。

 ここではエイリーナは学校の寮に住むことになる。しかし、教師として来たエンディリオは寮に入れないため、セラネリアスの冒険者仲間にして親友のリリーさんの家でお世話になることになっている。セラネリアスに「俺、男なのにいいのか?」と聞いたところ、「妹にしか興味ないでしょう?それにリリーも大丈夫よ。何せ私の親友なのよ?」と何の根拠もない無駄に説得力のある了承がきたので、ありがたく泊まらせてもらうことにした。


「お待たせ。それじゃあ、リリーのところへ案内するわ」


 セラネリアスはキタチャンブラックとあっち向いてほいっして遊んでいたエンディリオに声をかけた。


「そういえば俺、王都以外の街は初めてですね」

「でしょうね。貴方も冒険者をすればいいのに」

「リーナのファンクラブ活動で忙しいので無理です」


 そんな会話をしているうちに街の入口前へとやって来た。エンディリオは初めての王都以外の街ということで、少し緊張している。やがて、決心がついたのか、大きく一歩を踏み出して街へと入っていった。




キタチャンブラックは自分の中で最高傑作の名前です!

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