暗躍しても大抵の場合は誰かにバレているものである
おはようございます。
皆さんの朝が妹で癒されるよう頑張ります。
エンディリオとライドボルガはあの後、何とか喉を通らない食事を押し込み、セミラリネスの部屋へとドナドナされてこってりと絞られた後、二人で話をしていた。
「セミラに怒られるなんて久しぶりだな。二週間ぶりぐらいか?」
「俺はもっと前ですよ。というか、二週間前って何したんですか?」
「隣国の第一王子が嫁にリーナを貰いたいと言ってきてな、忙しかったからサクッと終らせるために条件の試合を非公式で行ったらバレた」
実はエイリーナと結婚する条件は3つあり、この条件はエイリーナを除く家族全員で決めたものである。
一つ目はエイリーナのことを心から愛していることである。政略結婚が普通である王族では非常に珍しいものであるが、もし相手がエイリーナを傷つけるようなことがあれば親バカのライドボルガとシスコンのエンディリオが何をしでかすか分からないということから、認められた条件である。
二つ目は『雷帝』のライドボルガに試合で勝つことである。先程ライドボルガが言っていた試合はこれであるが、本来公式的に行わなければならない。そしてこの条件であるが、ライドボルガとエンディリオ以外からは猛反対をくらった。…当然である、こんな鬼畜条件誰もクリアできるわけがない。相手は山を消し飛ばす男である。そして家族会議の末、相手が信用のたる人物である程度強ければ結婚を認めるということで何とか落ち着いた。
そして最後の条件はエイリーナが結婚相手として認めることである。誰よりもエイリーナを愛し、誰よりもエイリーナに幸せになってもらいたいと思っているエンディリオが真っ先に提案し、誰も反対しなかった条件である。
「珍しいですね。お父様に挑んでくる人がいるなんて」
「恐らくあっちの国ではちやほやされていたのだろう。安全な国の人間の割には強かったしな」
「なるほど…『境界』から離れていても一応は王族ということですね」
「それなりの教育はしているみたいだな。平和ボケはしていないようでなによりだ」
『境界』…これを説明するにはこの世界の説明をしなくてはならない。この世界は大きく分けると三つに分けられる。
一つ目はアレインスター王国を含むいくつかの国がある西側四割を占める<人間領>
二つ目は魔王が統治している魔族が住む東側四割の<魔族領>
三つ目はそれらの中間にある誰の領土でもない<森>であり、『境界』と言われている。
この<森>には通常の動物は勿論のこと、他にも狂化獣やドラゴンといった危険な生き物も生息している。これらの危険な生物が人間領に入ってきて暴れることが多々あるのだ。また、森を抜けてきた魔族が、人間の町を襲っているという報告も出ている。そしてアレインスター王国はこの<森>に一番広く面している国である。
それ故にアレインスター王国と境界から離れた国では強さの基準が全く違うのだ。
「そういえば教育で思い出したが、例の件は順調か?」
「ええ、滞りなく」
「ならよい、こちらでもバレないように手は尽くしているからな」
「ありがとうございます。リーナの驚いた顔が楽しみだ」
二人でくっくと笑いながら話しているが、エイリーナ以外には既にバレており、あえて見逃されているだけということには全く気づいていない。
ーーー
ライドボルガとエンディリオがこそこそと話をしている頃、エイリーナは姉のセラネリアスの部屋に来ていた。
「セラお姉様、お話って何でしょうか?」
「とりあえず座ってちょうだい。…はい、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
セラネリアスはエイリーナが椅子に座ったのを確認すると、お茶を出して自分も向かい側の椅子に腰を掛けた。
「ちょっと聞きたいことがあってね。…今朝の件詳しく教えてよ」
「なっ…嫌ですよ!」
「冗談よ、冗談。リーナは相変わらず可愛いな~」
「揶揄わないでください!部屋に戻りますよ!」
「ごめんなさ~い」
セラネリアスはいつも通り挨拶代わりにエイリーナを揶揄うと、エイリーナは顔を赤くして怒り、それに対して軽く謝ってから本題に入る。
「王都から離れた学校に通う理由についてよ」
「…」
「…リオから距離を置くため?」
「……はい」
「そう…やっぱりね」
「三年間リオお兄様から離れてこの気持ちを消してしまえるかは分かりませんが、それでも今のままじゃダメだと思うので…」
エイリーナが来月から通う学園は王都を出て南に位置する都市にある。そのため、エイリーナは来月からは寮で暮らすことになる。そうして三年間、エンディリオと距離を置き、気持ちに区切りをつけるつもりなのである。
エイリーナはエンディリオに対する気持ちを皆に隠している。実際は皆にバレているが。
しかし、セラネリアスにだけは昔からその気持ちがバレていることを知っているため、時々相談したりもしている。
そして、そんな立場にいるからこそセラネリアスは「無理だ」と思っている、エイリーナがエンディリオに向けている気持はその程度では消えない。それに距離を置くことすらエンディリオが阻止しようと企てている。
セラネリアスはエンディリオとライドボルガの企てをエイリーナに伝える。
「そのことなんだけどね…リオは貴女について行くつもりよ、学校の教師として」
「…え?それは本当ですか!というよりどうして…」
「私達家族から離れた場所で貴女に何かあった時のことを考えてでしょう。だから私も止めなかったのよ」
「そんな…」
「しかもこのままいけば、リオは貴女の担任になるでしょうね」
「今からでも止められないでしょうか?」
「教師になるのは止められないわね。それにやっぱり実力のある人にはついて行ってもらいたいしね。その点リオは立場も実力も申し分ないのよ」
エンディリオは少し特殊な立場にあり、病弱であると貴族たちに伝えているため、一部の人達を除いては一切顔を合わせていない。そのため、素性を隠せばある程度自由が利く上にそれがバレることはほとんどない。実力の方は、ライドボルガ曰く「本気でやりあったらもう勝てないかもしれない」とのことである。
そんな立場であるからこそセラネリアスはエンディリオにはエイリーナの傍にいて欲しいと考えている。
しかし、それと同時にエイリーナの気持ちも分かるため、複雑な思いを以前から抱いている。
「せめて担任にはしないで欲しいです」
「…分かったわ。お母様と協力してそこはどうにかするわ」
「ありがとうございます。…すいません、我儘を言ってしまって」
「いいのよ。それにこのまま放っておくと、依怙贔屓やらで大変なことになりそうだしね。…ついでにリオには教師の立場を弁えてリーナには必要最低限しか話しかけるなって言っておくわ」
「ふふっ…。そこはあまり期待できませんね。リオお兄様ですし」
「大丈夫よ。納得させるだけの手札は持っているわ」
そんな話をしながら少しの間微笑みあっていると突然何かを思い出したかのようにセラネリアスはエイリーナにそのことを伝えた。
「そういえばリオは王城から出て他人と接するのは初めてかもしれないから、もしもの時はフォローしてあげてくれないかしら?」
実際のところ、エンディリオは王城の外の人と話したことはほとんどない。あったとしても傍らには家族の誰かが必ずいるという状況でのものである。そして、そんな彼の閉鎖された状況に罪悪感を覚えてるからこそライドボルガはエンディリオに教師になってエイリーナを見守ることを提案し、セミラリネスはそんな彼らを止めなかった。
「確かにリオお兄様が王城の外で他人と接しているところはほとんど見たことがないですね。…ですが、リオお兄様のことですし、そつなくこなすところしか想像できませんね」
「分からないわよ。案外、たくさんの人を前にしてたじたじになってるかもしれないわよ」
「想像すると面白いですね…ふふっ」
「そうね…面白いわね……くっ…ふふっ」
二人で一頻りエンディリオのたじたじになる姿を想像して笑いあうと、セラネリアスはエイリーナの傍まで行き、そっと胸に抱き寄せ、優しく声をかけた。エイリーナは突然のことに驚きながらも事の成り行きに任せた。
「貴女がこれからの三年間でどんな選択をしようが、それが貴女の心から望んでいることであれば私はどんなことがあっても味方よ。例え他の誰が何と言おうと私が蹴散らしてあげる。だから悔いの残らないようにしなさい」
「…っ!…ありがとうございます。セラお姉様…いつも相談に乗ってくれて、ありがとうございます。…いつも気に掛けてくれて、ありがとうございます」
優しく包み込まれ、あまりの心地よさからそのまま寝てしまいそうになるも、日頃の返しきれないほどの恩に改めて感謝を述べる。
そして気付く、残酷なまでの格差に…
「セラお姉様…また大きくなりました?」
「いいえ、ほとんど背は伸びてないはずだけど…」
「違います。……こっちです」
エイリーナはセラネリアスから離れると、悲壮感を漂わせながら自分の胸に手を当てている。
いきなりの話題転換で最初は珍しく呆然としていた顔をしていたセラネリアスであったが、徐々にその顔をニヤリとさせていく。
「まさか胸の大きさを気にしているの?…大丈夫よ、見た感じだと平均くらいはあると思うわよ」
「そうだとは思うんですけど、セラお姉様と比べると見劣りしてしまうと言いますか……それに世間一般では大きい方が好まれるそうですし…」
「リオはそんなこと気にしないと思うんだけどね…」
「リ、リオお兄様は関係ないです!……そう!婚約者を見つける時に有利になるかと思っただけです!」
セラネリアスは平均を大きく上回る大きさなのである。しかも下品な程に大きいわけではなく、正しく理想的ともいえる大きさなのである。超一流のモデルを思わせるようなプロポーションに母親から受け継いだ光り輝く白銀の髪、そして見る者にこの世界には並ぶ者はいないと思わせるほどの美しい顔だち。セラネリアスは美の頂点に君臨する女王なのである。
一方そんなセラネリアスに引け目を感じているエイリーナだが、セラネリアスが先ほど言った通り小さいわけではない。ただ比べる相手が悪いだけである。そんなエイリーナだがまず、体型は年齢から考えても少し小柄である。また髪は父親から受け継いでおり、太陽を思わせるような黄金で、そして、見る者全てを癒してしまうのではないかと思わせるほど愛らしい顔だちである。
セラネリアスが美しさの頂点とするなら、エイリーナは可愛らしさの頂点と言っても過言ではない。そのため、婚約者探しに関してはこれっぽっちもセラネリアスに劣ることはないのだが、胸とは女の武器と考えているのか、やはりエイリーナは引け目を感じてしまっている。
セラネリアスはそんなエイリーナを見ながらある事を思いつくと、ニヤニヤした顔をさらにニヤリとさせて実行に移す。
「そこまで言うなら教えてあげましょうか?胸を大きくする方法」
「…そんなものがあるのですか?」
「巷の噂だから本当かどうかはわからないけど…」
「参考程度に聞くだけ聞いてみてもよろしいでしょうか?…聞くだけですけど」
明らかに聞くだけにとどまらす雰囲気ではない。
そしてそんなエイリーナを見て更にニヤニヤレベルを上げたセラネリアスはその方法を教えてあげることにした。
「それじゃあ教えてあげる!…耳を貸して」
「はい」
セラネリアスはエイリーナが耳を近づけてきたのを確認するとその方法をこっそりと教えた。
始めは興味深そうに聞いていたエイリーナであったが、徐々に顔を赤くしていき、最後には真っ赤になっていた。
「実行してみる?」
「できません!絶対にできません!」
「ふふっ…それは残念!」
「私、そろそろ部屋に戻ります!失礼しました!」
セラネリアスは顔を真っ赤にして慌てて出ていったエイリーナを見送ると、楽しそうに呟いた。
「ふふっ…本当にリーナは可愛いわね……学校に行きだしたら、変な虫がつかないか心配だわ。リオにはその辺も頑張ってもらわないと」
そこまで呟いて、「まあリオがいれば大丈夫か!」と納得すると、今日の予定を確認し始めた。
セラ姉さんはリーナに何を言ったんでしょうね〜