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残念シスコン王子様  作者: ちゃんくろ
3/25

王族の朝は案外優雅なものではなかったりする


昨日から一人暮らしを始めました。


昨日言わなかったのはエイプリルフールだったからです!


 この王国の王族であるアレインスター家は食事を取る際、一緒に取ることがほとんどである。朝食は皆揃っていることが多いが、昼食や夕食は王族という忙しい立場であるため、誰かが抜けた状態ということが多い。それでも皆、できる限り一緒に食事をしようとするのである。

 しかし、これは家の方針というわけでもなく、単純に「食事は皆でした方がおいしく感じる」と皆が思っているため、自然と集まっているだけである。そのため、かなり遅くなってしまったエンディリオのことは無視して、皆すでに食べ始めている。

 ここでの食事の風景は少し特殊である。家族全員で食事をしているにも関わらず、会話はほとんどないのである。もちろん、一緒にいるという点から仲が悪いわけではなく、単純に身分相応なマナーの問題である。そんな静かで心地良い朝食の時間であるが、いつも物静かな男、アレインスター王国第一王子シグネス・アレインスターがエンディリオに話しかけた。


「エンディリオ、今日はやけに遅かったな。今回は何をやらかした?」


 常日頃の行いからか、エンディリオが何かやらかしたことを前提で尋問が開始される。


「シグネス兄さん、俺が何かやらかしたこと前提にしないでくれますか?」

「なら、どうしたんだ?」


 エンディリオは当然、「不服だ!」と抗議する。これに対してシグネスは怪訝そうな顔をする。そして、そんなそんなシグネスを無視して今日の出来事を話始める。


「実は、今日もリーナの部屋を訪れたのですが、その際リーナが一糸まとわ「あーあー、何普通に話そうとしてるんですか⁉」…」

「やっぱり、やらかしてるじゃないか…」


 エンディリオが今日の神秘的な出来事を皆と共有しようとするべく立ち上がり説明を始めると、今まで顔を赤く染め、不機嫌全開で食事をしていたエイリーナからの妨害が入る。

 そして、シグネスはそんないつもの光景を目にし、呆れ顔になりつつも「今日も一日頑張りますか」と意気込み、食事を再開する。そして、それと同時にこの話も終わりを迎えるかに思われた。

 しかし、この終わりかけていた話を蒸し返す空気の読めない男が一人いた。


「おい、リオ」


 その男とはアレインスター王国の頂点にして『雷帝』の異名を持つ、国王ライドボルガ・アレインスターである。ライドボルガは昔、妃であるセミラリネス・アレインスターが盗賊に誘拐された際、彼女を助け出し、盗賊以外の人がいないことを確認すると同時に盗賊の隠れ家を山ごと消し飛ばしたのだ。…山を消し飛ばす?と疑問に思うかもしれないが、地図から山が消えたのだ。

 付け加えるとその跡地は若干凹んでしまったため、現在湖となっている。この事件がきっかけでライドボルガとセミラリネスは結婚することとなった。そのため、その湖の畔ではよく「君のためならば、山すらも吹き飛ばせそうだ」などの告白がよく見られる。ちょっとした告白スポットとなっている。

 そして、それ以来ライドボルガは『雷帝』として味方からは敬われ、敵からは恐れられているのだ。


 話を戻すが、そんなぶっ飛んだエピソードを持つライドボルガがそれに恥じぬ威圧感を醸し出しながらエンディリオに言葉をかけた。


「その話……詳しく」


 しかし、その後発した言葉はそのエピソードと威圧感に恥じる内容であった。

 ライドボルガは好きな人のためならば山を消し飛ばす男だ。そして、その愛情は当然の如く子供たちにも向けられており、そんな可愛い娘の可愛らしい出来事を無視するはずもなかった。


「ちょっと、お父様!話を蒸し返さないでください!」


 そして、今朝の恥かしい出来事が蒸し返されたのでエイリーナは顔を赤くしながら、目尻に涙をため横槍を入れる。


「しかしだな、娘のことを知るのは父親の義務であるからして…」


 最早『雷帝』としての威厳を完全に失い、完全に親バカと化してしまったライドボルガは意味の分からない言葉を並べ、エイリーナを説得し始める。

 もちろん、エイリーナはそんな意味の分からない説得に応じるわけもなく、取り付く島も与えないようにあえて事務的な言葉を返す。


「この案件は父親の義務の管轄外です。即刻手を引いてください!」


 もう何も言えなくなってしまった親バカは絞り出すような声で、「どうしてこうなってしまった!」と言わんばかりに昔のことを思い出して、言葉を並べる。


「…何故、そんなにも、冷たくなって、しまったんだ……。昔は一緒にお風呂に入って、背中を流しあいながら何でも教えてくれたのに! それに…」


 エイリーナはまた家族の前で恥かしいエピソードを暴露されてしまい、慌てて止めようと声を出そうとした。


「ちょっ「待て!それはどういうことだ!」…」


 しかし、その声は突然の横槍によってかき消されてしまった。その犯人は、つい先ほどまで父親が妹に冷たくあしらわれている光景をほくそ笑みながら傍観していたエンディリオである。

 彼はその態度を急変させ、何故か慌てた様子で父親に対して言葉を発する。世の中に絶望してしまっかのような声音で続ける。


「…一緒にお風呂とはどういうことだ?俺ですらそんなこと一度としてないのに…」

「もうこの話はいいでしょう?」


 はじめの方は呆然とエンディリオの言葉を聞いていたライドボルガであったが、徐々にその顔はこれでもかというほどウザいドヤ顔に変わっていった。そして、これまたこれでもかというほどウザい喋り方でこの世の終わりを目前にしているかのような表情を浮かべているエンディリオに声をかける。

 エイリーナはこの時点で嫌な予感が凄くしている。


「あんれ~もしかして~~エンディリオ君は~可愛いエイリーナちゃんと~お風呂も一緒に入ったことないの~、やだ~人生の半分損してる~~」

「恥かしいですから、もうやめてください!」


「ぐっ…なんて羨ましい…しかし、これから一緒に入ればいいんだ!ないせ、俺たちは将来を誓い合った仲なんだから!」


「え?…リオお兄様、それは「リオ!それはどういうことだ⁉」…」


 先程から声をかぶせられたり、話をやめるよう説得したり、エンディリオのいきなりのカミングアウトに対して若干嬉しそうに頬を赤らめたりと忙しそうにしているエイリーナを無視して、エンディリオはその時のことを語り始める。


「昔、リーナと中庭で遊んでた時に花かんむりを作ってあげたら、『リオお兄様大~好き、大きくなったらリオお兄様と結婚する!』って、それ以来俺はエイリーナの虜だよ。さぁエイリーナ、今から俺と結婚しよう…そして、一緒にお風呂に入ろう」


 「結婚しよう」の部分をとびっきりのイケボで囁くように言う。もしこれが他の女の子に向けられたものであれば、彼の十人いれば十二人が振り向くような非常に整った容姿も相俟って、卒倒していただろう。

 しかし、この言葉を向けられたのは10年もの間でエンディリオからの愛情を一身に受けているエイリーナである。当然、彼女は耐性を持っているため卒倒することはなかった…が、その顔は可哀想な程に赤くなり、口は声を発することなくひらいたり開いては閉じるを繰り返している。

 根に持っていたのかお風呂の件も最後に付け加えるが、エイリーナには届いていない。


「そ、そんなの…そんなのお父さん認めんぞ!…時効だ、時効!」

「そ、そうです!…時効です!まず、覚えていません!」


 途方もない恥ずかしさからトリップしていたエイリーナだったが、ライドボルガの反論の声のおかげで戻ってきた。そしてそのまま恥かしさのあまりライドボルガの反論に便乗する。


「結婚の約束に時効は存在しません~俺はリーナと結婚するんです~愛しあってるんですーー!」

「リーナは今は俺のことが好きなんです~過去の男は黙っていてくださいーー!」


 エンディリオとライドボルガの喧嘩とも言えない喧嘩がヒートアップし始めた。エイリーナはいつ自分の恥かしい出来事が暴露されるかも分からない状態にハラハラしながら必死に止めようとしているが、ヒートアップしている二人の視界に入っていない。…話題の中心にも関わらずだ。

 そして、珍しくここまで何も行動を起こしていない『暴雷姫』こと第一王女のセラネリアスはニヤニヤと事の成り行きを見守っている。また、シグネスと第三王子のローレンスは既に朝食を食べ終えており、二人で談笑している。最後に、王妃のセミラリネスは笑顔で…


「あなた達…食事中に行儀が悪いんじゃありませんこと?」


 セミラリネスは笑顔で言葉を発しただけにも関わらず、途轍もない寒気が部屋にいる者を襲う。基本的に優しいセミラリネスではあるが、今回は度が過ぎたらしい。実はエンディリオが立ち上がった段階で眉をピクピクさせていたが、遂に許容範囲を越えてしまったらしい。ちなみに、どこかの侍女曰く笑顔が怖いという点は一部の子供に受け継がれているらしい。

 そして、セミラリネスが言葉を向けた相手である二人…エンディリオとライドボルガは、まるで肉食獣の近くで気配を消し、隠れているウサギのように身動き一つせずやり過ごそうとしている。もちろん、そんなことしようが時すでに遅し、である。

 一方、今まで散々止めてきたにも関わらず聞く耳を持ってくれなかった二人がセミラリネスの一言で途端に大人しくなったことに何とも言えない気持ちになるが、とりあえず二人の暴走が止まったことに安堵し、すっかり冷めてしまった朝食を食べ始めた。

 

「…ライドボルガさん、エンディリオさん、後で話があります。この後すぐに来てください」

「あの…セミラ、この後仕事があるんだが…?」

「すぐに済みます」

「ア、ハイ」


 何とか逃げようと試みたライドボルガであったが甘かった。どちらがあの威厳溢れる『雷帝』かわからなくなる。そしてそれを見てエンディリオは逃れることを諦めて食事を再開する。食事が喉を通らない…


…今日もアレインスター王国は平和だ




これから後書きでは裏設定とか書いていけたらな〜って思ってます。

今のところ無いけど

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