争いは同じレベルの者同士でしか発生しない
休みが! 休みが~!!
「申し遅れました、私は生徒会長のルーデリカ・フロンズワールです。以後お見知りおきを」
そう言うと、ルーデリカは貴族令嬢として恥ずかしくない完璧な礼をする。
--ルーデリカ・フロンズワール
フロンズワール侯爵家の令嬢にして、エンディリオ・アレインスター第二王子の元婚約者である。しかし、エンディリオが5歳の時に病気で寝込んでしまったという設定により婚約はその2年後になかったことになった。もちろん、フロンズワール家が全ての事情を知った上で、両者が合意しての取り決めである。
ただ、彼女は愛した元婚約者を今も思い続けているため、未だに新しい婚約者はおらず、今も時々エンディリオの部屋に訪れている……という設定である。
実際、ルーデリカはエンディリオのことを愛してなどいない。ただ、仲が悪いというわけではなく、むしろ、お互い心を許しあっている。恋人というよりは腐れ縁の幼馴染といったところである。
では、なぜこのような設定で健気な令嬢を演じているのかというと、それは彼女の性格が原因である。
ルーデリカは極度の面倒くさがりやで、礼儀作法など堅苦しいことが大嫌いで、自由を愛しているのである。
彼女がエンディリオの部屋を訪れる時、二人に気を使って護衛がいなくなるため、部屋に二人きりかそこにエイリーナを入れた三人だけとなる。ルーデリカはそれを狙っているのである。ルーデリカはエンディリオやエイリーナには気を許しているため取り繕う必要がなく、護衛はいないのでだらけても誰にもこのことがバレず、両親から怒られることはない。自由を愛するルーデリカにとってエンディリオの部屋は楽園のようなものである。
ちなみにエンディリオの方はルーデリカを無視して、魔法の研究をしたり、本を読んだりと好きなことをしている。時々話をしたりもするが、基本はお互いやりたいことをやっている。また、エイリーナがいる時は三人で遊んだりもする。
では、なぜそんな面倒くさいことが大嫌いなルーデリカが生徒会長なんていう明らかに面倒くさい役職に就いているのかというと、彼女はその容姿が見せる落ち着いた雰囲気とは裏腹にとても直情的で乗せられやすいのだ。
エンディリオも「どうせうまいこと乗せられて、押し付けられたんだろう」と真っ先に考えてしまうほどである。
今回のことも、ルーデリカが乗せられたんだろうと予想を立てつつ、エンディリオは彼女に挨拶を返す。
「私は2年Cクラスの担任をしているエンドです。なぜ、先生方ではなく生徒会がこちらに?」
「そちらにいらっしゃる、生徒会の顧問のコルン先生が引き受けたからです」
少し嫌味を含めそう言われると、コルンと呼ばれる男はばつが悪そうにしながらエンディリオの前へとやって来る。彼の容姿は20代後半で眼鏡をかけており、如何にも頼りなさそうな感じである。エンディリオは直接は関わっていないものの、職員室などでへこへこしている姿をよく見るため、今回のことも納得する。
「すいません……私みたいな頼りない人が来てしまって……」
「いえ、もうほとんど終わってるので大丈夫です。あとはそこにある魔族の遺体を焼いて埋めるだけですので」
「そうでしたか、遅くなってしまい本当に申し訳ございません」
「気にしないでください、生徒会で誰か炎の適性がある人はいませんか?」
「それならば、私が持ってます」
「それでは遺体を燃やすのを任せても?」
「はい、大丈夫です」
エンディリオはコルンに任せると、ルーデリカのもとへと行く。彼女もエンディリオには聞きたいことがあったらしく、ずっとこちらを見ている。
「面倒ごとの原因が貴女ではないなんて珍しいですね」
「当たり前でしょう、私が面倒なことを引き受けるわけないではありませんか」
「どの口が言ってるんだ」
「どういう意味よ!」
段々といつものやり取りになっていく二人、周囲が見ていることに気がついていない。
「生徒会長なんていう、明らかに面倒なことをしているじゃないか」
「これは皆が、私がすれば最高の学園になるとか、私にしかついていきたくないって人が多かったから仕方なくよ……ほら、私って凄いカリスマ性を持ってるじゃない?」
「ちっこいお前にカリスマ性なんてあるわけないだろ。乗せられてることにも気づいていないのか? 本当に残念なやつだな」
「はあ、貴方にはこの私のあふれ出るカリスマ性に気がつかないなんて、本当に残念ね。副会長、貴方からもこの残念なシスコンに私の魅力を教えてあげてちょうだい」
急に話をふられた副会長は慣れているのか、慌てることもなく、ルーデリカの事について話始める。
「会長の魅力の一つは何と言ってもこのちっこさですね。雰囲気だけは大人びているのに、お菓子をあげれば喜びますし、とても気さくです。皆、思わず頭を撫でたくなると仰っており、ファンも多いです。会長になられる際も簡単に乗せることができました」
魅力を語り終えた副会長は満足気に下がる。褒めてはいるが何のフォローにもなっていない。
「ふふん、聞いたかしら私の魅力を…ってなんでやねん!ちょっと副会長、最後のはどういうことよ!」
元婚約者に似て残念なルーデリカもこれには騙されなかった。同じく残念なエンディリオはというと、呆れた顔をしながら「やっぱりか」と小声で呟いている。
「落ち着いてください、会長。この学園の生徒会長に相応しい人は会長以外にいませんよ会長!」
「会長会長煩いわね。そうやっていつも都合のいいことばかり言って、私を騙していたのね! もういいわ、そうと知ったら会長なんて辞めてやるんだから!」
「そんな、会長以上に皆を引っ張っていくのに適している人なんていませんよ」
ルーデリカの突然の引退宣言に落ち着きながらも必死に食い止めようとする副会長。しかし、ルーデリカは聞く耳を持たない。
だが、副会長はルーデリカを乗せることにおいては右に出る者はいないと言われているほどの男である。この程度の壁はいくらでも超えてきた。
「思い出してみてください会長、貴女が会長に就任した時、学園の皆が喜んび、祝ってくれたじゃありませんか。私達は皆、貴女こそがこの学園の顔に相応しいと本気で思っているんです。ですが、貴女は面倒ごとを嫌う……だから、仕方なく煽てて煽てて乗せるしかなかったんです!」
ルーデリカの耳がピクピクと動く。エンディリオは「チョロ!」とツッコミを入れる他ない。
「……私が会長だと……皆喜ぶの?」
「もちろんです」
「私が…いいの?」
「もちのろんです」
「そう…そうよね!私しかこの学園の顔は務まらないわよね! 何を私は辞めようとしていたのかしら? 私以外に務まる人なんていないのに!」
見事なまでの乗せられようだ。エンディリオは肩を竦めながら「やれやれ」と言う他ない。
「リオ、聞いたかしら?この私のカリスマ性を……この学園の顔は私にしか務まらないですって」
「ルーは本当残念なやつだな……結局乗せられてるじゃん」
何故か呆れを通り越して生暖かい気持ちになったエンディリオはルーデリカの頭を撫でる。
「何で頭を撫でるの? ……あと、さっきから残念残念ってリオにだけは言われたくないんですけど! 残念シスコン王子!」
「おい! シスコンは認めるけど、残念とは何だ残念とは!」
「あら?貴方、自分が残念なことに気づいてなかったの……本当に残念ね」
二人してあだ名で呼びあったり、普段の口調になったり、王子という単語を使っている時点で二人とも残念なのだが、未だ不毛な争いをしている二人は気づかない。
先ほどのトゥウェルスの一件でエンディリオの事情を知ったレイジは「大丈夫なのかな~」とハラハラせずにはいられない。
とりあえず話題を変えてもらおうと、激しい戦いをしている二人に話しかける。今、違和感なく話題を逸らす方法はこれしかないとレイジは自分を含め、この場にいる皆が気になっているであろうことを聞くことにする。
「ところで、お二人は仲がよさそうですが、どういった関係なのですか?」
二人はレイジの声が聞こえたらしく、争いをやめ、質問に答える。
「「腐れ……」」
二人は「腐れ縁」そう答えよとしたが、冷静になりグッとこらえる。ここにきてようやく、二人もこの状況がまずいことに気がつく。
普通に考えて、平民の男と貴族令嬢が親しいなんてことは有り得ない。二人はこの状況をどうすべきか必死に考えるが、いい案は浮かばないため最終手段をとる。
「「関係もなにも、初対面だ(よ)」」
「………そうですか」
ここにきてまさかの返答にレイジは一瞬戸惑うが、この場はとりあえず苦笑いをしながら流すことにする。
しかし、ここにいる生徒会メンバーはもちろん納得しない。生徒会メンバーは皆、声を揃えてツッコミを入れる。
「「「いやいやいや、無理があるだろ!」」」
学園に生徒会メンバーの声が木霊する。
トゥウェルス「私が燃えてる横で楽しそうですね?」




