太陽の魔法
この学校に来てからというもの、周りの優秀さにかなり焦りを感じてます……
少し残念なイケメン新任教師のエンド先生はレイジのもとへと向かう前……エンディリオはレイジのおかげでトゥウェルスがいなくなったため、一年Sクラスの生徒達は緊張の糸が途切れ、泣きわめく者や教室から出ようとする者を落ち着かせるために必死だった。
「皆さん安心してください、もう大丈夫ですよ。だから、今は教室から出ないでください!落ち着いてください!」
エンディリオは必死になって生徒達に呼びかけるがまったく効果がない。
(…どうしよう……どうすればいいんだ?それに生徒が外で魔族と戦っているから早く駆け付けないといけないのに……)
「大丈夫だから少し落ち着いて…ダレカタス「皆さん!静かに!」」
エンディリオが弱音をはこうとした瞬間、女性の凛とした声が教室に響き渡る。この声のおかげで先ほどの騒ぎが嘘のように静かになる。
「ひとまずのところ危機は去りました。ですが、まだ安全ではありません。ですから落ち着いて、今できることを皆で協力して、この危機を乗り切りましょう!」
皆に呼びかけたのはエイリーナであった。入学してからの短い時間で何故か神格化しているエイリーナの声に皆が耳を傾ける。
(リーナ…ありがとう!さすが王女様!…………あれ?俺って…?)
王子様は気づいてはいけないことに気づきかけたが慌てて気を取り直し、生徒達に指示を出す。
「ひとまず防御魔法を使うからこの教室からは出ないでくれ。それと、回復魔法が得意な人はギガコヤス先生にかけてやってくれ」
一通りの指示を出し終えると、エンディリオはエイリーナへと近づき、耳元で話しかける。
「今の状況から考えてリーナにしか頼めないことがあるんだが、大丈夫か?」
「はい、何とか…」
「すまない……他の先生と街にいる騎士団の人にこのことを報告してきて欲しい」
「分かりました」
それだけ言うとエンディリオはエイリーナの耳元から顔を離し、改めて彼女を見る。
エイリーナは他の生徒達と比べて幾分かはマシであるものの、やはり不安そうな顔をしている。
(いくら王族と言えリーナもまだ14歳の女の子…やっぱり不安だよな……)
エンディリオはエイリーナの頭に手をのせ、優しく撫でる。
「よく頑張ったな…けど、もう少しだけ頑張ってくれ」
「…! はい! では、いってきます」
「頼んだ」
エイリーナが教室を出ていった後、エンディリオは改めて教室を見渡し、生徒達の様子を確認する。
エイリーナのおかげで大分落ち着きを取り戻しているが、まだ生徒達だけにすることには不安を覚える。自分がここを離れていいものかとエンディリオは考える。
(せめて、リーナがあと一人いてくれれば……)
そんなありもしないことを考えながら、今一番気がかりなことである外にいる魔族と生徒の方を見る。
エンディリオは同時に現れた生徒が相当な実力者であることには気づいているため、あえてここにいる生徒達を落ち着かせることを優先した。
しかし、今治療を受けているギガコヤスを見ると、飛び出した生徒がいくら実力者と言えど一人で勝てるとは思えなかったため、一刻も早くその生徒のところへ駆け付けたいとヤキモキしている。
(早く加勢に行きたいんだが……ん?生徒の方がおしてる?…あれ、加勢する必要なくね?)
エンディリオの予想はいい方に外れていた。
そして、そんな生徒を見たエンディリオはあることに気がつく。
「あいつは確かいつもリーナと一緒にいる…」
エンディリオはギガコヤスを倒した魔族相手に優勢に戦っている生徒がエイリーナの友達であるレイジだと気がついたのである。
(リーナと一緒にいる生徒か……実力も見ておきたいし、しばらくここで見させてもらおうか)
エンディリオはいざという時、彼にエイリーナを任せることができるかを確かめるべく、ひとまずその戦いを見守ることにした。
そうして少しの間、Sクラスの生徒達を気に掛けながら二人の戦いを見ていると、突然、魔族の周りに漂う魔力に変化が表れた。
エンディリオはそのことにいち早く気づき、同時に焦りを感じ、後悔する。
(あれはまずい! 悠長にしている暇なんてなかった! …いきなりあんなに強くなるなんて予想できるかよ!)
「すまない!…誰か、ここを任せていいか!?」
突然大声を出したエンディリオに皆が怯えたように振り向く。
皆の反応に対して申し分なく思い、次は怖がらせないように気をつかいながら話を続ける。
「あ~そろそろ今魔族と戦っている生徒に加勢したいんだが…代表者にここの監督を任せたいんだが、誰か引き受けてくれないか?」
この状況で名乗りをあげてくれる者なんていないだろうなと半ば諦めながら、今も不安そうにしている生徒達に聞いてみる。
すると、一人の女子生徒が今にも泣きだしそうな顔をしながら、震える手を恐る恐る挙げた。
「わわわ私が…や、やります!」
魔法科一年生主席のヴィーレだ。しかし、ヴィーレのそんな肩書もこの状況では何の意味も持たず、周りと同様にただただ不安そうに震えている。
エンディリオはこの場をこの少女に任せていいものかと考える。
(任せていいかだって? そんなの決まっている。彼女はこんな状況で怖くて不安で仕方ないはずなのに、それでも勇気を出してくれた。大丈夫じゃないはずがない!)
「ありがとう。そんな勇気のある君に、先生として一つ魔法を教えよう!」
「い、今ですか?」
「ああ。今、一番必要な魔法だ。……手を出して」
ヴィーレは疑問に思いながらも言われた通り手を出す。すると、エンディリオは彼女の手を優しく握る。
「へ?ちょっ…!」
「大丈夫」
ヴィーレは突然手を握られて少しだけ取り乱すが、改めてエンディリオの顔を見てさらに取り乱す。
(かっこいい……って、手をお手て!?)
「手から伝わる俺の温もりが分かるか?」
「は、ははい!」
「これは太陽の温もりだ。次はこっちを向いてくれ」
ヴィーレは言われた通り、再びエンディリオの顔を見る。すると、そこにはとても優しく微笑みかける彼の顔があった。
少しの間エンディリオに見惚れてボーっとしていると、彼から声がかかった。
「どうだ?少しは不安な気持ちは消えてくれたか?」
「……へ?……は、はい!」
「それはよかった!」
ヴィーレはエンディリオの声で我に返り、咄嗟に返事をする。
そして、まだ完全ではないが先ほどまで感じていた不安や恐怖が消え、震えも止まっているていることに気がつく。
「ど、どうして?」
「それはな、太陽の魔法を使ったからだよ」
「太陽の魔法?」
ヴィーレは聞いたことがない魔法に首をかしげる。
「そう、誰にでもできる簡単な魔法で、怖くて不安でどうしようもない暗くなってしまった心を太陽のように暖かく照らしてくれる魔法だよ」
「す、凄い!先生が手を握って笑いかけてくれただけなのに、体の震えも止まって……何だかあったかい」
「そうだろう!何たって太陽だからな!」
そう言うと、エンディリオはヴィーレの頭を優しく撫でて、レイジとトゥウェルスが飛び出していった窓へと向く。
「さて、それじゃあ俺は行ってくるよ」
「は、はい!…あの、ありがとうございました。この魔法は一生忘れません!」
「気に入ってもらえたなら嬉しいよ。…もしよかったら皆にもその魔法をかけてやってくれ、皆も不安で仕方ないだろうし」
「はい!任せてください!……その、先生…お気をつけて」
「ああ、ありがとう」
先ほどとは打って変わって元気なヴィーレを見て、エンディリオは安心する。
(もう大丈夫そうだな、やっぱり太陽は凄いな。あれだけ不安で震えていたあの子をあんなに元気にしてしまうんだから……)
エンディリオが先ほどヴィーレに対して行ったのは10年前にエイリーナが彼にしたことである。エンディリオが誰に対しても心を閉ざし、生きる意味を見失いかけていた時、そんな彼を暖かく照らしてくれた太陽……この光なら恐怖や不安で震えている人も救えるのではないかと思った。実際、ヴィーレはエンディリオが見た限りだと元気になっている。
そんなことを考えながら、エンディリオは身体強化を使い、窓から一気に外へと飛び出す。
そんな彼をヴィーレは熱のこもった視線を向けていた。
窓から今も戦っているであろう二人のもとへと飛び出したエンディリオは走りながら状況確認をする。
「まずいな…ギリギリいけるか……」
状況を確認すると、ちょうどトゥウェルスが黒剣を頭上へと振り上げているところだった。レイジの方は抵抗する力さえ残っていないといった状況である。あと1秒もすればレイジはあの黒剣によって切り伏せられてしまうだろう。
エンディリは腰にかけていた双剣を抜きながら、トゥウェルスにめがけて一気に踏み込む。
「はぁ!」
レイジに向けて振り下ろされている黒剣をエンディリオは双剣を使って弾く。
--キンッ!
そして、エンディリオはこれまで一人で魔族という強敵と戦っていた14歳の少年に謝罪と称賛の言葉をかける。
「すまない、遅くなってしまった。…魔族相手に一人でよく頑張ったな、ありがとう。ここからは俺が引き受けよう」
かっこよくキメはしたものの、内心は間に合ったことへの安堵でいっぱいで、背中はかなりギリギリだったことへの焦りから冷汗を大量に流している。
エンディリオ「ね? ちゃんと理由があったでしょう?」
レイジ「女の子を口説いているようにしか見えなかったんですけど……」
~ちゃんくろメモ~
実はこの太陽の魔法というフレーズ、自分で言うのもなんですがかなり気に入っています。
そうですね……やっぱり決め台詞は「ハッピー、ラッキー、スマイル、イエー(これ以上は言ってはいけない)」ですかね?




