魔族が思ったよりも強いんですが 2
夜中に集まって酒を飲むのは一人暮らしの特権
二つの光が教室に降りそそぐと同時に、その一つがトゥウェルスへと襲い掛かる。
「なぜ魔族がここにいる?」
「貴様を消すためだ、忌々しい勇者!…しかし、貴様もここに来るとは……少々厄介だな」
その光の正体である勇者…レイジが持つ剣とトゥウェルスの強化された腕がぶつかり合い、その衝撃によって教室が揺れる。
トゥウェルスは先ほどの二つの光の正体が目の前にいるレイジとギガコヤスが言っていた謎の強者であると予想を立てた。そして、もしそうであるならば、この状況はかなりまずいと感じている。
トゥウェルスはレイジを過小評価していた。レイジが先ほどのギガコヤスの合図でここに魔族がいることに気づくとは思っていなかったのである。逃げずにここに留まっていたのもそれが原因だ。
しかし、予想に反してレイジはここに現れ、予想通りもう一人も現れた。もともと、勇者であるレイジとここの学園長で魔法騎士団長でもあるランドルトを同時に相手をするのを避けるつもりであったことから、トゥウェルスにとってこの状況はあまり良くないのである。
そして、トゥウェルスにとって気がかりな存在…先ほど現れたもう一つの光にして恐らくではあるがギガコヤスが言っていた強者に目を向けると…
「リー…ゴホン、ゴホン!皆、無事か?」
白銀の髪を輝かせながら青年が姿を現す。
(なっ!この魔力は……アレインスターの…)
トゥウェルスはその正体がアレインスター家の者だと瞬時に気づく。
そして、予想外の出来事からか、トゥウェルスはほんの一瞬だけレイジを相手に隙を見せてしまう。
「はぁぁ!」
「ぐっ」
レイジはその一瞬を見逃すことなく、剣に光と闇を纏わせて切りかかる。
トゥウェルスは何とか防御魔法を使用し、致命傷を避ける。しかし、完全な状態で魔法を発動でかなかったため、レイジの一撃により窓から教室の外へと吹き飛ばされてしまう。
「…外に飛ばされたか……」
「あのまま教室で戦えば、教室にいる皆に被害が出るからな。それに…」
レイジは再び剣に魔力を流し、光と闇を纏わせる。それは先ほどトゥウェルスを吹き飛ばした時のものより、さらに大きく、濃密な魔力である。
「ここの方が俺も全力を出せる!」
--バッッ!
レイジはそう言った瞬間、地面を蹴り、一瞬にしてトゥウェルスの目の前に移動し、並の者では目で追うことすらできない速さで剣を横薙ぎに払う。
しかし、今レイジの目の前にいるのは並の者ではない。身体能力、魔力量共に人間をはるかにしのぐ魔族……トゥウェルスはそんな魔族の上位に立つ存在である。
--ガキッ!
トゥウェルスはいつの間にか取り出していた黒い剣でレイジの一撃を防ぐ。
レイジはこの攻撃が防がれることを予想していたのか、動揺することなく次の攻撃を行う。トゥウェルスはこの攻撃も危なげなく防ぎ、鍔迫り合い状態となる。
もしこの状態が続けば、お互い身体強化魔法を使用しているため、魔力量に限界があるレイジが圧倒的に不利である。
しかし、どういうわけか、レイジの剣が纏う魔力がさらに大きくなり、トゥウェルスの方が押され始める。
「……なっ、ぜ」
「はあっ!」
そして、遂にトゥウェルスを真正面から吹き飛ばす。
吹き飛ばされたトゥウェルスは瞬時に体制を立て直し、レイジに向き合いながら疑問を口にする。
「なぜ人間である貴様が私達のように魔力の回復ができる?」
「…勇者としての力の一つだよ」
実はこれは勇者としての力ではない。勇者の力はレイジが以前奥の手と言っていた特別な魔法が二つだけである。
では、彼の異常な魔力回復は何かというと…
(転生した時に神からもらった力なんて言っても信じてもらえないだろうな…)
転生時に神からもらった力である。力の内容は簡単で、魔力回復量が人の平均の1000倍である。もし、レイジの魔力が空になったとしても、約3分で全回復できる速さである。
「200年前の勇者にそんな力があったなんて聞いていないが…まぁいい、いくぞ!」
トゥウェルスは剣に魔力を流し、構える。すると、レイジの剣が放っている魔力と同等の魔力が炎となり黒い刀身から放たれる。
そして、トゥウェルスとレイジは互いの懐へ飛び込むと、相手の急所に目掛けて剣を振る。それをそれぞれが得意とする上級の防御魔法で防ぎながら次の攻撃を繰り出す。
普通であればこの攻防はどちらかの魔力が尽きた時点で終わるのだが、この二人の魔力は尽きる気配がない。そのため、このままでは決着がつきそうにない。このまま戦いが伸びれば、不利なのは適地の中にいるトゥウェルスである。
(このままではまずいな……仕方ない、あれを使うか)
トゥウェルスは相手から距離をとる。そして……
「<覚醒>」
突然、学園がある一帯の魔力の流れが変わり始める。
このただならぬ雰囲気にレイジは危機感を覚える。
(何か分からないがこれはまずい!)
レイジはトゥウェルスに向かって最速の魔法を打ち込む。
<中級攻撃魔法・光槍>
「無駄だ」
しかし、トゥウェルスのその言葉と共に、レイジの放った魔法は霧散した。
「なに!」
「今の私にはその程度の魔法は届きすらしない」
「お前の周りに漂っている濃密な魔力とその赤い目…それは何だ?」
今のトゥウェルスはレイジが言った通り、濃密な魔力を漂わせて、目は赤く光っている。そして、漂わせている魔力のせいか、雰囲気も先ほどとは少し異なっている。
「……普段の私なら答える義理はないと言っていたのだろうが、この状態になると気分がいい。だから特別に答えてやろう。これは私達魔族でも隊長格以上にのみ使うことが許されている力<覚醒>という」
「…覚醒?」
「あぁ、この状態だと頭が冴えて、魔法の質も上がるし、身体能力も向上する。まぁ要するに全てにおいて能力が向上するということだ」
それを聞いたレイジは冷汗を流す。これまで優勢に戦ってきたレイジではあるが、それはほんの少しだけのもので、且相手が油断していたというのもある。実際のところ実力は五分五分といったところだろう。
そして、それを理解しているレイジはそんな相手がさらにパワーアップしたことに冷汗を流すしかない。
(あれが使えたらどうにかなるかもしれないが…まぁ無理だよな……)
レイジが言うあれを使うには完全に集中した状態でも1分ほど時間がかかる。一対一のこの状態でそれだけの時間待ってくれるお人好しはいないだろう。つまり、レイジがこの状況をどうにかする方法は……
「頑張るしかないか!」
レイジは今まで以上に剣に魔力を纏わせながら、勢い良くトゥウェルスへ切りかかる。
当然、今のトゥウェルスにそんな攻撃が通用するはずもなく、あっさりと防がれ、レイジが視認できない速度の蹴りを腹に受ける。
「ぐっ…」
レイジは敢えてその蹴りで遠くへ吹き飛ばされ、相手から距離をとると同時に右腕にはめている腕輪に魔力を大量に送り、魔法を発動させる。
<超上級攻撃魔法・特異点>
レイジが魔法を発動させると空間を歪ませるほどの超濃密な魔力で構成された球体がレイジの手元に現れる。
この魔法は闇魔法の一つで、この世界に存在しない空間を10秒間だけ創り出す魔法である。この10秒間でその空間に触れたものはこの世界に存在しないものと認識され、例外なく全て消滅する。
しかし、この魔法にも弱点が存在する。作り出せる空間が小さい割に魔法を膨大に消費し、他の攻撃魔法と違って放ったら終わりではなく、常にコントロールしなくてはならないため、どうしても隙ができてしまう。
では、なぜレイジがこのような扱い難い魔法を使ったかというと、この魔法は当たれば絶対の魔法であるため相手も注意を払わずにはいられず、相手にも隙が生まれる。
レイジは特異点をトゥウェルスの目の前でちらつかせ、ここだというタイミングで特異点のコントロールを手放し、死角から切りかかる。
通常であれば、剣や中上級防御魔法で防ぐには間に合わず、ノータイムで使える初級防御魔法では防御力が足りないという完璧な一撃であったが……
「これでもダメか…」
「言っただろう、今の俺は魔法の質も向上していると」
レイジの一撃は魔法陣無しでも発動できる初級の防御魔法によって防がれてしまった。
「次はこちらからいくぞ!」
レイジは剣を構え直すが、既にトゥウェルスが目の前まで迫っていたためまだ体勢は整っていない。トゥウェルスはそんなレイジに剣を振り下ろした。レイジは何とかこの一撃を逸らすが、続く殴打をまともに受けてしまう。
レイジは先ほどの覚醒状態のトゥウェルスによる蹴りと今の殴打で受けたダメージからか、足元がおぼつかない。
「…はぁ…はぁ」
「どうやらここまでのようだな」
トゥウェルスは今のレイジの状況を見て、もう戦えないと判断する。
「戦えない相手にとどめをさすというのは気が進まないが、貴様を殺すことが本来の目的……あの世で存分に恨んでくれ」
トゥウェルスはそう言うとレイジの首に目掛けて剣を振り下ろす。
--キンッ
しかし、トゥウェルスの黒剣がレイジに届く前に弾き返される。
トゥウェルスはレイジとの戦いで想定よりも苦戦させられていたため忘れていた。ここにはもう一人忘れてはならない強者がいたことを…
「すまない、遅くなってしまった。…魔族相手に一人でよく頑張ったな、ありがとう。ここからは俺が引き受けよう」
レイジが声が聞こえてきた方向を見上げると、最近少し残念なことで有名なイケメン新任教師のエンド先生が立っていた。
レイジ「ちょっと先生! 来るのが遅くないですか?」
エンディリオ「ちゃんと理由があるんです…妹と遊んでたわけじゃないんです!」




