敵がアップを開始しました
土日が両方雨とかバイク乗れないじゃん! 暇だー!
食堂でちょっとした騒動があった日の夜、エイリーナは自室で荒れていた。
「私が関係ないですって?…その通りよ!ムキャー!」
ベッドでじたばたしながら何やら怒っている。しかも、自分の中で解決してしまっているため、レーナはどうしようもできず、困っていた。
「あ、あの、エイリーナ様?今日学園で何かございましたか?」
さすがにずっとこの調子でいられると困ると思ったレーナは十中八九エンディリオのせいだろうなと考えつつ、エイリーナに話しかける。
「それがね!…いえ、やっぱり何でもないわ……」
「そこまできて何でもないはないだろ!」とツッコミをいれたかったが、エイリーナの心をこれだけ掻き乱し、自分の気持ちを隠している時点で、レーナはこの騒動の犯人がエンディリオであることを確信した。
しかし、そうなると面倒くさくなるのがエイリーナである。不機嫌なくせにその理由を周囲に隠すため、どうしようもないのである。
レーナはどうしたものかと考えるが、一向に答えが出てこない。それは、エイリーナがこうなった時は今この場にいないエンディリオが解決してくれるためである。
いくら考えてもダメだと判断したレーナは最終手段を用いることにする。すなわち…
「…そうですか。それでは私は夕飯の準備をしてまいります」
戦略的撤退である。これは断じて逃げるわけではない。
しかし、今の面倒くさいエイリーナはそれを許してはくれない。レーナが部屋を出ようとした時に声がかかる。
「ねぇ、レーナ。…リオお兄様って異性から慕われやすいと思う?」
「…そうですね。今までは城に籠っていたのでそういった話は聞きませんでしたが、異性の目を引くのは間違いありませんね」
エイリーナの問いかけに対して正直に答えずとも、適当にはぐらかしてこの場を離脱することはできたのだが、それは一時的なものでしかない。ここで解決しなければこの状況がどれだけ続くかわからない。そのため、ここは正直に答えることにした。
せっかくエイリーナの方から情報提供をしてくれるのである、レーナにはこの波に乗らない選択肢はなかった。ここで上手く立ち回ればこの状況を打破できるはずである。
「やっぱり…全くあのだらしない人のどこがいいのか」
「顔はいいですからね…色々残念ですけど」
レーナは心の中で「それを貴女が言うのか!」とツッコミを入れながら、エイリーナに同意する。
「そうよ!あの人だってリオお兄様の顔だけ見て近づいたのよ。…それであんなにデレデレしちゃって…リオお兄様が悪い女に捕まらないか心配になってきたわ」
「…そうですね」
実はCクラスの面々はすでにエンディリオが時々残念なことには気がついており、それでも生徒達からは慕われている。もともとエンディリオは面倒見がいいのである。
エイリーナやローレンスに魔法や勉強を教えているし、二人が幼い頃は遊びにつきあったりもしていた。
つまり、エンディリオはお兄ちゃん気質なのだ。そして、そんなお兄ちゃんスキルは当然エイリーナと歳の近いCクラスの生徒達に対しても発揮されている。そして、何といっても顔がいい…そんなエンディリオに対して熱い視線を送る者がいたとしても不思議ではない。
レーナはそのことを言わないでおくことにした。余計に面倒くさくなる予感しかしなかったからだ。
また、エンディリオが悪い女に捕まるという心配もレーナはあまり心配していない。エイリーナの前では残念なところしか見せないが、レーナはエンディリオの裏の顔も知っているからである。あのエンディリオを見たことがある人であれば、誰もそんな心配はしないだろう。
むしろ、エイリーナの方が心配である。エンディリオやライドボルガに甘やかされて育ったため、エイリーナは良くも悪くも純粋なのだ。だからこそ皆から愛されているのだが、同時に心配でもある。レーナは彼女の発言に対して「それも貴女が言うか!」とツッコミを入れたくなるものであったが、ここは耐えて同意しておく。
レーナは今までのエイリーナの言葉から今日起きた出来事を予測する。
(初めにエイリーナ様はエンディリオ様の異性から好意を持たれそうかどうかを尋ねてきた。そして、次に「あの人だってリオお兄様の顔だけ見て近づいた」という言葉から、異性がエンディリオ様に好意を持って近づいたという状況が予想される。最後にエイリーナ様の一人言も照らし合わせると……ある女性がエンディリオに好意を持って近づいて、恐らく嫉妬したエイリーナが突っかかると、エンディリオ様の正体を知らない相手に関係ないと言われた。…といった感じでしょうか?……って、エイリーナ様は何をしているんですか!)
レーナは自分の予想通りなら、かなり問題をエイリーナが起こしたことに焦りを感じる。エンディリオが王子であることが知られたら、大問題である。
レーナは杞憂であることを祈りながら、それとなくエイリーナのご機嫌取りにかかる。
「きっと、エンディリオ様の残念さが知られてしまったら、近づく女性もいなくなりますよ」
「そうね!…リオお兄様は将来結婚できるのかしら?そこも心配になってくるわね!」
心配と言いつつも喜びを隠せていないエイリーナの顔を見て、ご機嫌取りの成功を確信したレーナは一安心する。
しかし、レーナは気づいていない。エイリーナは機嫌が良くなり過ぎても面倒くさいということに…
「私はいつもリオお兄様に言ってるのよ!もっとしっかりして下さいと……それにデリカシーもないわね、あんな調子では女性が逃げてしまって、結婚なんて夢のまた夢よ!」
「恐らくデリカシーがないのはエイリーナ様を相手にする時だけでは?シス…ごほん。エンディリオ様はエイリーナ様を溺愛なさっていますから」
「それが違うのよ!リオお兄様ったら、生徒相手にも…」
「そうなのですか?…想像できませんね」
「だいたい生徒の方も何が目的でリオお兄様にあんな……いったいリオお兄様のどこがいいのやら。この前だって……」
そこからというもの、気分を良くしたエイリーナのエンディリオへの不満や思い出話といったありとあらゆる話をレーナは聞かされた。もうすでに、普段なら夕飯の準備どころか食べ終えててもおかしくない時間である。
それでもエイリーナのお兄ちゃんラッシュはまだまだ続く。
「あの…エイリーナ様、食事の準備が……」
「そう! 食堂は食事をする場所なのよ! それなのにリオお兄様ときたら…」
(…ダメだ)
レーナが何を言おうが聞いてもらえない。レーナはもう諦めの境地に達しており、エイリーナの話を聞いているふりをしながら心の中でこの状況になる原因となった人物を恨んだ。
(残念シスコン王子のバカやろーー!!)
*
草木すらも眠りにつく時間のとある森の奥には月の光だけしかない。そんな森の中には影が二つあり、その二つの影の話声が鮮明に聞こえる。
「報告いたします。セブンガード様が学園に送られた者からの情報によると、第二王女のエイリーナ・アレインスターが勇者レイジと接触しているようです」
「そうか…あぁ、なんと嘆かわしい!あの人と同じ血が流れている者とあのクズの象徴である勇者がこんなにも早く接触しただと?…これは勇者を早急に始末しなくてはならんな」
報告を受けた人物…否、魔族の男は全身を使って勇者への嫌悪を表している。
「では、私が学園に乗り込んでサクッと殺ってきましょう!」
「そうだな…しかし、有象無象が束になろうが大丈夫であろうが、お前といえどあの学園の長であるランドルトを相手にするのは骨が折れるであろう?」
「ええ、彼一人なら問題はないのですが、そこに他の教師や勇者が加わると厳しいですね。ですのでランドルトがいない間に乗り込もうかと…」
そもそも、それならばレイジが一人になったところを襲えばいい話なのだが、この二人にはその選択肢は存在しない。この二人は「やるなら派手に」がモットーであり、地味なことを嫌うのである。ここは堂々と学園に乗り込み、大勢の前で勇者を亡き者にするという選択肢以外はない。
それに何よりもかなりの実力を持っているため、今まで派手に暴れてもここまで生き延びてきたのである。一人で学園に乗り込んだとしても、魔法騎士団長クラスがいない限り負けることはないと自負している。
この二人の正体こそ現在人間領で騒ぎを起こしている魔族…エルファイブとその部下である。
「よかろう!ならばこの一件は全てお前に任せよう!」
エルファイブはそう言うと、突然両手を盛大に広げる。
「我こそは『5』の称号を承けたまわりし魔王軍幹部が一人…エルファイブである!そして、お前はそんな我の優秀な部下の一人だ。ならばこそ分かっていると思うが、改めて命じよう!やるからには派手にやれ!盛大に、壮大に、豪快にだ!人間どもに我の名前を消えぬように刻んでやれ!」
エルファイブの言葉を聞いた部下は片手を後ろへ向け、もう片方の手で自らの顔に翳す。
「我こそはエルファイブ様の忠実なる部下の一人にして三人の隊長の一人…トゥウェルス!…エルファイブの部下を名乗るものとして恥じぬよう、今回の件、盛大に、壮大に、豪快にやらせていただきます!」
「よろしい!…ふははははは!勇者なと忌々しいクズの象徴などこの世界には必要ない!」
「全くもってその通りです!必ずやこの私があの忌々しい勇者を屠ってきましょう!」
部下であるトゥウェルスがそう宣言すると、エルファイブは更に豪快に笑い声をあげる。その声は静かな森にいつまでも響き渡っていた。
だが、この時の二人はまだ知らない。魔法騎士団長クラスどころか、それ以上の規格外なシスコンが学園で先生をしていることを……
実は魔族の9割は人間を嫌っていません。ただ、ほとんどの魔族は勇者のことが嫌いです。
まあ、レイジ君はただとばっちりを受けているだけですが……




