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残念シスコン王子様  作者: ちゃんくろ
10/25

元引きこもりの自己紹介なんてこんなものでしょ?


昨日大掃除をしました。

壁のシミがまったく落ちてくれません……つらたん


ー入学式


 現在、バルフィラ魔法騎士学園の大ホールではエイリーナを含む新入生と学園の教師達が集められている。


「穏やかな春の訪れとともに君達が我がバルフィラ魔法騎士学園に入学してきてくれたことを心よりお祝い申し上げる。この学園では生徒達を英雄バルフィラのような優しさと強さの両方を持つ人に育て上げることを目的としている。君達にはそれを忘れずにこの学園で充実した三年間過ごしてもらえることを期待している」


 魔法騎士団の団長にしてこの学園の学園長であるランドルト・ロバートは学園長とは思えないほどまとまった挨拶をした。それを聞いていた生徒達はそんな学園長に対して憧れの眼差しを向けている。

 それもそのはず、この学園に入学する者のうち、男性は魔法騎士団に憧れを持ち、入団を夢に見ている人がほとんどで、その団長ともなればお目にかかるだけでも光栄な存在なのである。また、女性の場合は魔法騎士団への所属を希望していないにしても、彼の歴戦の騎士を思わせるような顔つきに様々な功績、それらは女性の心を掴むには充分である。


 そして、そんな皆の憧れの的であるランドルトの穏やかな春の訪れの挨拶を聞いていたエンディリオの心はこれっぽっちも穏やかではなかった。


(え?学園長の挨拶これだけ?…もうちょっと頑張って!せめて、これからのCクラスでの挨拶がまとまるまで待って!……そもそも学園長って、挨拶が長いのが取り柄じゃないの?「であるからして~」とか言って伸ばしに伸ばすものじゃないの?)


 エンディリオは過去に類をみないほど緊張している。よく考えると、彼は初めてなのである。全く知らない人と一人でコミュニケーションをとるのは。エンディリオは今までは基本的に王城から出なかったし、王城に訪れる人がいても、その人の前に出ることは全くない。彼が話したことのある人物は家族、王城で働く人、家族が信頼している人物とリリーだけである。後者の二つは、家族が間に入っての出会いなので、一から他人と関係を築いていくのは17歳にして実質初めてなのだ。しかも、そんな初めての相手はまさかの集団である…パニックを起こさないわけがなかった。

 そして、現在パニック中のエンディリオは数日前にこの事態に気づいてしまったのである。始めは何とかなるだろうと楽観視していたのだが、リリーの家に偶々来ていたセラネリアスに「5歳で初めて大勢を前にして挨拶した時は、私でも緊張したわよ?頭の中で一度、シミュレーションしてみたら?」と言われて、その光景を頭に思い浮かべてみたところ……ダメだった。何故か足が震えて声が出ない。頭の中でこれなのだ、本番はこれ以上に酷い結果になるのは目に見えている。


エンディリオはそれからの数日間は必死に頭の中で挨拶の練習をしてきた。しかし、残念なことに学園のホールで100人以上の生徒を見た瞬間にここ数日の努力が全てが吹き飛んだ。クラスが4つあることから、自分が担当する生徒は30人前後なのだが、残念ながら今の彼にはそんなことを考えている余裕はない。

 そして、滞りなく行われている入学式の間、今まで考えてきたことを思い出そうとしていた。当然、今の彼のパニック状態からそんなことをできるはずもなく、学園長の挨拶の後、新入生代表の勇者の挨拶や国王の激励などもあったが、全く頭に入っていない。そして、ついに入学式が終わってしまった。


「おや?エンド先生、何をそんなに緊張しているのですか?あ~そういえば貴方はあのCクラスの担任でしたね~」


 ニヤニヤと笑いながらエンディリオことエンド先生に話しかけてきたのは魔法科の1年Sクラスの担任、メガコヤスだ。如何にも悪役といった顔で全身から小物臭が漂っている。

 エンディリオはそんなメガコヤスを一目見て、「こいつがリーナの担任?…大丈夫か?」と思ったが口にしない。そんなエンディリオの反応を見て、さらに悪役顔を歪ませて続ける。


「おっと失礼、名乗ってませんでしたね。私は魔法科の1年Sクラスの担任、ギガコヤスです」


ギガコヤスだった。


「私は端から見たら優秀だったようでしてね…この度はSクラス、しかも第二王女のエイリーナ様のいらっしゃるクラスを任されてしまいました!いやはや、私などに務まるのか不安ではありますが、精一杯やらせてもらおうと思っております」


 エンディリオは途中から全く頭に入ってこなかったギガコヤスの全く不安に感じてなさそうな自慢話を聞き、「本当に大丈夫か?」と思ったが口にしない。エンディリオはギガコヤスに対して「これだけは言える、言わなければならない」と思い、意を決して口を開いた。ギガコヤスは彼の並々ならぬ雰囲気に口を閉じ、待った。そして、発せられた言葉は、



「あの、クラスでの最初の挨拶はどうすればいいですか?」


--ズコーーー!


 ギガコヤスは何もない場所で盛大に滑り転けた。



ーーー



 ギガコヤスは自慢話などの鼻につく部分を除けば、見た目によらず実にいい人だった。あの後、エンディリオにクラスでの挨拶に加え、教師としてのノウハウを教えていた。エンディリオはギガコヤスの話を時々混ぜてくる自慢以外の部分を真面目に聞きながら、「あれ?この人悪役顔の割に、いい人じゃね?」と評価を改めていた。


 そうして、遂に来てしまった。目の前には扉があり、教室札には2年Cクラスと書いてある。つまり、彼が担当するクラスだ。

 エンディリオは一度深呼吸をし、扉に手をかけ、ゆっくりと扉を押して開いた。そして、一歩を踏み出し、教卓のもとへと歩き始める。

 エンディリオが教室に入っただけでクラスは騒がしくなる。男子は息をのみ、女子はハイテンションで騒いでいる。自分達の担任が年齢もそんなに変わらないと思われる超がつくほどの美少年なのだ。テンションが上がらないはずがない。

 エンディリオは教卓のもとへと辿り着くと、クラス全体を見渡した。その瞬間、頭の中が真っ白になる感覚を味わった。当然、先ほどのギガコヤスのアドバイスなんか遠い宇宙のどこかである。


(皆こっち見てる……何か、喋らないと。…声ってどうして出すんだった?………えぇい!こうなったらどうにでもなれ!)


「初めましゅて、あの、クラスのエンディ、ンです!」

(よっし!少しつまった気はするが上手くいった!)


 生徒達は全員頭に?が浮かんでいる。目の前の超かっこいい人が超かっこ悪い挨拶をした。そのことに対して生徒達はついていけてない。しかも、かっこ悪い姿を見せた先生は何故か満足気な表情をしている。

 生徒達はこの事態にどう対処していいのか分からず、しばらく固まっている。すると、黒髪の眼鏡をかけた如何にも「私、委員長です!」といった女の子が立ち上がった。


「エンド先生…でよろしいでしょうか?…自己紹介ありがとうございました。それで、私達も自己紹介をした方がいいでしょうか?」

「ん?…あぁエンドであってるよ。そうだな!右前の席の人からよろしく頼むよ」


 委員長の頑張りもあり、このクラスで初めてのホームルームは先に進むことができた。委員長は他の生徒からの尊敬の眼差しを受け、得意気だ。恐らく彼女が委員長で決定だろう。

そして、生徒達の自己紹介が始まる。


「は、初めまして、エンド先生僕はアルマといいます!将来は魔法騎士になることです!生徒の皆は今年もよろしく」

「別に名乗る名など持ち合わせておらん……あえて名乗るならイオ…そう呼んでくれ」

「わ、私はカレン!べ、別に覚えなくてもいいんだからね!」

「我は漆黒の王チャクロ、我とはあまり関わらない方がいい…貴方も闇に呑まれてしまうから…」

…………

「私は~ミリアっていいま~す!今年からこの学園に通うことになったから~皆初めましてだね!よろしくね~」

「拙者はリンドウと申す。この国の南にある国から来たでござる。1年間ご教授お願い申す」


(…うちの生徒達…キャラ濃いやつ多くね?)


 エンディリオは生徒達の自己紹介を聞いて、クラスに一人いればいいくらいのキャラが勢揃いしていることに驚きを隠せない。かく言うエンディリオも17歳で名の売れている魔法研究者、しかも王子、ついでにシスコンとかなり濃いキャラをしている。

 集まってしまうのだろう、必然的に…


「み、皆ありがとう!生徒の名前と顔はもう覚えたから、これから一年間よろしく」


こうして、いろいろ濃かった初めての2年Cクラスのホームルームは無事に終わりを迎えることができた。




実は毎回予約投稿で7時に投稿しているんですが、これには理由があります。好きな数字が7だからです!

本当は毎回7:21に投稿したい……理由は言えません。

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